どんな組織も上手くいっているところは、ベテランと若手が上手くコラボレイトできている、これは世の中の常識ですね。
ただ、そうだからといって、ベテランが若手にすり寄ったりしては逆効果、むしろ自然体で接していないとナメられたりするんですが、これがなかなか難しい……。
そのあたりの妙を味わえるのが、本日の1枚です――
■Count Basie At Newport (Verve)
タイトルどおり、カウント・ベイシー楽団がニューポート・ジャズ祭に出演した時のライブ盤ですが、ここでは過去に同楽団に去来した大物OBをゲストに迎えた演奏までもが含まれています。もちろん、それがウリなのですが!
録音は1957年7月7日、メンバーはカウント・ベイシー(p)、フレディ・グリーン(g)、エディ・ジョーンズ(b)、ソニー・ペイン(ds) という鉄壁のリズム隊を核に超一流ホーン隊を擁したカウント・ベイシー楽団♪ さらに曲によって、そこにレスター・ヤング(ts)、イリノイ・ジャケー(ts)、ロイ・エルドリッチ(tp)、ジョー・ジョーンズ(ds)、ジミー・ラッシング(vo) という当時のジャズ界の大スタアが加わります。
A-1 Introduction ~ Swingin' At Newport
興行師であり、評論家であり、黒人音楽の擁護者でもあったジョン・ハモンドが主要メンバーを紹介し、続けて最高にカッコ良くスイングしまくったブルースが演奏されます。
この当時のカウント・ベイシー楽団は「アトミック・バンド」と後に称されるほど爆発的なノリが魅力で、実際、アメリカ全土は言うにおよばず、欧州巡業も大成功させていた全盛期!
その演奏は、まずカウント・ベイシーが何時もと変わらぬマイペースでテンポを設定、それにフレディ・グリーンのギターが加わり、ベースとドラムスがそれに続いて、おぉ、当にこのバンドにしか出来ない自然体のグルーヴが生み出されます。
そしてこうなれば、ホーン隊の爆発はある種の予定調和です。しかしそれが大迫力とスリル連続で、ブラス&リードの強烈なリフの間からカウント・ベイシー自身のピアノに導かれ、最初に素晴らしいテナーサックスを聴かせるのがフランク・ウェスです。もちろんその背後ではホーン隊の烈しいリフが炸裂しています。。
さらに続く、味なトランペットはジョー・ニューマン、軽妙にモダンなソロを展開するテナーサックスはフランク・フォスターです。しかも各々のソロのバックで咆哮するブラス&リードのリフは臨機応変に変化し、それをスイングの神の如きリズム隊が煽るのですから、聴いている私は、ただただ、悶絶するのでした。
A-2 Polka Dots And Moonveams
ここでレスター・ヤングが登場し、スタンダード曲を素材にミディアム・テンポで悠々自適な歌心を披露しますが、バックをつけるカウント・ベイシー楽団も絶妙のサポートです。
このレスター・ヤングは、もちろん黒人で、1930年代のカウント・ベイシー楽団では大看板のテナーサックス奏者でした。1940年代からは独立して大活躍、後にレスター派というジャンルまで生み出した偉人です。そのスタイルは柔らかな音色となめらかなアドリブフレーズ、さらにリズムに対する自在なノリという、つまりは元祖モダンジャズの人で、チャーリー・パーカー(as) やスタン・ゲッツ(ts)、ソニー・ロリンズ(ts) 等々、影響を受けて大成した者は数知れません。
しかし、それほどの大スタアですが、この時期には様々な問題から心も体もボロボロで、残された録音にはそれが如実に表現されてしまったものが少なくありません。
ただしこの演奏に関しては、まだまだ貫禄勝ちというか、ベテランの味を存分に発揮して、それなりの魅力を生み出しています。ちなみにここではドラマーが、これもカウント・ベイシー楽団のOBであるジョー・ジョーンズに交代しています。
A-3 Lester Leaps In
レスター・ヤングのテーマともいうべきアップテンポのリフ・ナンバーです。豪快にスイングするリズム隊を土台に白熱のリフとレスター・ヤングのブレイク、さらに独自のグルーヴを生み出すアドリブ・ソロが展開されるはずなのですが、哀しいかな、レスター・ヤング自身に往年のノリがありません。
吹奏そのものが苦しそうですし、リズムに対するアプローチはモタレ気味、フレーズにもキレがありません。おそらく本人も、もどかしかったのでしょう、最後には開き直りすら感じられます……。
バックをつけるカウント・ベイシー楽団の炸裂ぶりが全く凄いだけに、いやはやなんとも……。演奏の間からは、そんなレスター・ヤングを煽る掛声が何度もかかり、楽しさと暖かい雰囲気に包まれているあたりが救いというか、現実の厳しさを痛感出来る、そんな演奏です。レスター・ヤング本来の実力の半分も出ていないのが本当に残念です。
B-1 Sent For You Yesterday
ここでカンウト・ベイシー楽団創設期のボーカリストだったジミー・ラッシングが登場し、十八番の名曲を熱唱しますが、全く衰えを演じさせません。軽く歌ってブルース・フィーリングが満点、さらにアップテンポなのに先ノリで息継ぎが苦しくなっていないのですから♪
そしてそれに刺激を受けたのか、ここでのレスター・ヤングは何とか調子を取り戻し、お得意のフレーズを連発していきますので、聴き手はようやく安心するのでした。
B-2 Original Blues
続けて歌われるのが、これもジミー・ラッシング十八番の「I May Be Wrong」です。そしてレスター・ヤングが、またまた楽しいフレーズを連発♪ こういう演奏が1930年代からの変わらぬカウント・ベイシー楽団のスタイルで、つまりはR&Bとロックンロールの元祖はこのバンドであったことの証明になっていると思います。
B-3 One O'clock Jump
大団円はもちろんカウント・ベイシー楽団のテーマが、ロイ・エルドリッチとイリノイ・ジャケーという、大物スタアを交えて華やかに演奏されます。
カウント・ベイシーの「間」を活かしたブギウギピアノがイントロとなり、フレディ・グリーンのギターがリズムを増幅させ、ドラムスとベースが加わってテンポを設定していくあたりの気持ち良さは、もうこのバンドのお約束です♪
そしてバックで煽るリフの間隙から次々にアドリブ・ソロが飛び出す展開は、まずレスター・ヤングが悠々自適、続くジョー・ニューマンのトランペットがミスを連発してしまうのはご愛嬌でしょうか。実はこの時のステージには大物が多数ゲスト出演するということで、バンド・メンバーは皆、緊張でガチガチだったと言われています。まあ、それゆえ逆にハッスルした演奏にもなっているのですが♪
しかしそんな事にはお構いなしに暴れるのが、次に登場するイリノイ・ジャケーのテナーサックスです。この人の基本も実はレスター・ヤングなんですが、そこへR&Bの過激で単調なノリを加味して分かり易さを強調したスタイルの人気者♪ ここではその味を押さえ気味にしていますが、レスター・ヤングへの遠慮でしょうか……。しかしジャズ的な魅力はたっぷりです。
演奏はこの後、リズム隊の妙技を経て、もうひとりの大物ゲストであるロイ・エルドリッチが登場、最初からツッコミ気味に盛り上げていくトランペットは見事です。しかもクライマックスでは完全にバンド全体をリードするブチキレ吹奏! 粘っこいハイノートを連発し、会場は興奮のルツボと化すのでした♪
ちなみにこの人もジャズの偉人で、ルイ・アームストロング(tp) とディジー・ガレスピー(tp) の間に位置するスタイリスト、モダンジャズ期にも名演を多数残しています。
ということで、これはベテランと若手が丁々発止の名演を繰り広げたステージを記録しています。特に最初はダメだったレスター・ヤングが少しずつ調子を取り戻していくあたりがスリル満点で、これも瞬間芸が真髄というジャズの魅力のひとつだと思います。
幸いなことに現行CDには、この時の未発表曲がどっさりボーナスで入っていますので、機会があれば聴いてみて下さい。
それにしてもフレディ・グリーンのギターは、何時聴いても良いですねぇ♪ この人もこの時点ではベテランでしたけど、自然体で若さを失っていないところが、また羨ましい限りです。