OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

過渡期の名盤

2006-05-12 18:21:00 | Weblog

仕事に追われ、全てにおいて余裕が無くなっています。

これじゃ、イカン……。そこで本日は和みの1枚を――

Blues Etude / Oscar Peterson (Limelight)

音楽でも文学でも、創作活動で偉大なるスタイルを築きあげた人の過渡期の作品は、意外と軽視されるものです。

本日の主役、オスカー・ピーターソンはジャズ史では並ぶ者が極僅かというピアノのバーチュオーゾです。そしてレイ・ブラウン(b) とエド・シグペン(ds) を入れて1959年から率いた自己のトリオは、常に完璧な演奏を披露して「黄金のトリオ」と称されました。

しかし1965年末に、まずエド・シグペンが脱退、続けてレイ・ブラウンもレギュラーから降りたことで、「黄金のトリオ」は崩壊……。そして長年在籍していたヴァーブ・レコードから新レーベルのライムライトへの移籍があり、慌しい中で製作されたのが、この作品です。

録音は1965年12月と翌年の5月、メンバーは12月のセッションがレイ・ブラウン(b) とルイ・ヘイズ(ds)、5月のセッションがサム・ジョーンズ(b) とルイ・ヘイズ(ds) という組合せですが、このアルバムはA面が後者、B面に前者という構成になっています――

A-1 Blues Etude (1966年5月4日録音)
 初っ端に収められたアルバムタイトル曲は、オスカー・ピータソンの作ったブルースですが、テーマ部分はクラシックの味が濃厚です。しかしアドリブ・パートでは一転、超アップテンポでウルトラ・テクニックのピーターソン節が全開です。
 ベースのサム・ジョーンズとドラムスのルイ・ヘイズは直前までキャノンボール・アダレイ(as) のバンドではレギュラーのリズム・コンビでしたから、ここでも息がピッタリ♪ オスカー・ピーターソンの要求にきちんと応えていますから、演奏は白熱していくのでした。
 う~ん、それにしても、このピアノは凄過ぎ~!

A-2 Shelley's World (1966年5月4日録音)
 穏やかなワルツ曲がシンプルに演奏されますが、ビートはなかなかに刺激的です。それは新たな相方となったサム・ジョーンズ&ルイ・ヘイズ組の黒っぽい味付けが秘訣のようです。特にルイ・ヘイズのブラシが素晴らしいですねぇ~♪
 もちろんオスカー・ピータソンは自由自在のノリをたっぷりと披露、後半には指でピアノ線を直に撫で回す裏技まで使いますが、迷いの無いサム・ジョーンズの存在感も流石です。

A-3 Let's Fall In Love (1966年5月4日録音)
 モダンジャズ・ピアノ・トリオでは定番のスタンダード曲ですが、オスカー・ピーターソンは、かなり高度なアレンジを施して、豪快に演奏しています。
 もちろん、このトリオに破綻はありません。それどころか、逆にさらなる高みへ飛翔しようとする勢いまで感じられる名演だと思います。
 特に、ここでもルイ・ヘイズが絶好調で、最初はネバリとキレのバランスが最高のブラシを聞かせ、途中でスティックに持ち替え、シンバルを主体にトリオをスイングさせていくところはスリル満点です。
 そしてラスト・テーマの変奏も素晴らしい限り!

A-4 The Shadow Of Your Smile / いそしぎ (1966年5月4日録音)
 お馴染みのスタンダードをボサノバで演奏するお約束は守られていますが、アドリブパートはファンキーな4ビートで盛り上がります。しかし前曲が素晴らし過ぎたので、やや、当たり前に聴こえてしまうあたりに、このトリオの凄さがあるんでしょうねぇ……。

B-1 If I Were A Bell (1965年12月3日録音)
 マイルス・デイビスが取上げてからモダンジャズの人気曲になったスタンダードですが、オスカー・ピータソンの解釈も流石です。
 かなりの高速で演奏されますが、ここからはベースが旧知の盟友=レイ・ブラウンになっているので、トリオ全体にリラックスしたグルーヴが生まれていると思います。しかしそれゆえにルイ・ヘイズのドラムスが、前任者のエド・シグペンに比べて物足りない雰囲気になっているところが残念……。

B-2 Stella By Starlight / 星影のステラ (1965年12月3日録音)
 モダンジャズでは定番中の定番スタンダード曲を、変幻自在に演奏するトリオの真髄が楽しめます。その要はもちろんレイ・ブラウンのベースで、要所を締めながらも自由闊達なサポートは流石です♪
 オスカー・ピーターソンもファンキーなフレーズを交え、さらに当たり前のように繰り出す驚異の早弾き、おまけに迫力のコード弾き! もう、矢継ぎばやに大技を連発しています。

B-3 Bossa Beguine (1965年12月3日録音)
 タイトルどおり、オスカー・ピーターソンが作曲した哀愁のボサノバです。しかし演奏テンポが速すぎるが勿体無いと、私は思います。
 ただしブレイクから全くのソロでアドリブを展開し、瞬時にベースとドラムスを従えて猛烈にスイングするオスカー・ピーターソンは、やっぱり凄い! 千変万化のリズムを要求され、必死で応えるルイ・ヘイズのドラムスも好感が持てます。

B-4 L'impossible (1965年12月3日録音)
 これもオスカー・ピーターソンが作った愛らしい名曲ですが、どこかで聴いたようなところが嬉しいですねぇ~♪ クラシックかなぁ~?
 で、演奏は快適そのもので、アドリブにはハードなところもあるのに、穏やかに和みます♪ 何回聴いても、飽きません♪ ボサ・ビートも素敵です♪ オススメです♪ 美味しい紅茶が欲しくなります♪

B-5 I Know You Oh So Well (1965年12月3日録音)
 緩やかなテンポでオスカー・ピータソンの一人舞台が楽しめる出だしから、絶妙のタイミングで滑り込んでくるレイ・ブラウンのベースが鮮やかです。
 ルイ・ヘイズも慎重なサポートに撤しているので緊張感がありますし、落ち着いた雰囲気の中に深~いグルーヴが感じられる名演だと思います。

ということで、どうなんでしょう、人気盤と言って良いんでしょうか? なにせオスカー・ピーターソンは残した演奏全てが名演・名盤という人ですから、人気盤はゴロゴロしており、それゆえに、このアルバムなんて目立たない1枚かもしれません。

オスカー・ピーターソン・トリオ自体も、これ以降、頻繁にメンバー・チェンジがあるので、とても「黄金のトリオ」には及ばないのが正直なところです。しかしライムライトの次に契約したレーベルのMPSでは、ヴァーブ時代に比肩する名盤を残しているところから、どうしてもライムライト時代は見過ごされ気味……。

とはいえ、これは文句無しに傑作盤だと、私は思います。実は文中でいろいろ書いたルイ・ヘイズの素晴らしさに気づかされたのは、このアルバムからでした。先に行われたB面でのセッションで聴かれた硬さが、5ヶ月後の録音を収めたA面では解れているのが分かります。

そして収録曲が魅力いっぱい♪ ぜひとも聴いてみて下さい。今の季節にピッタリです。

コメント (4)
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