OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

爽快ピアノトリオ

2006-05-02 17:15:36 | Weblog

昨日のブログで、こちらは寒いと書いたら、なんと30℃以上もあった地域が!

本当に異常気象だと思います。そして本日は晴天なり、というのは、またまたこちらの天候ですが、こういう時こそ颯爽としたジャズピアノが聴きたくなります――

Undiluted / Wynton Kelly (Verve)

誰にでも好かれる人は、どんな世界にもいますが、ジャズではウィントン・ケリーでしょうか、まあ、この人が嫌いというジャズファンを私は知りません。

なにしろ歯切れ良くスイングするそのピアノは楽しく、また歌心に満ちていながら、ピリリと辛口のフレーズもあったりして、本当に快いスリルがあるのです。

ですからレコーディングも多数残しておりますし、マイルス・デイビスのバンド・レギュラーして大活躍したモダンジャズの花形ピアニストなのですが、さて、リーダー盤となると、案外、少ないのです。もっともそれらは、全て密度が濃いのですが!

その中で私が一番好きなのが、本日の1枚です。

録音は1965年2月5日、メンバーはウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、1960年代初頭にマイルス・デイビスのバンドでリズム隊を勤めていた、所謂黄金のトリオ♪ さらに1曲だけフルートでルディ・スティーヴンソンが加わっています。

A-1 BoBo
 トリオにルディ・スティーヴンソン(fl) が加わって陽気に展開されるラテン・ジャズです。このアルバムの中では浮いている演奏ですが、アルバム・トップに据えられていることから、ヒット狙いか、あるいはすでにジュークボックス用のシングル盤が出ていて、それなりにヒットしていたのかもしれません。聴きやすいことは最上ですが、物足りないのも確かです。

A-2 Swinging Till The Girl Come Home
 さて、ここからが、いよいよトリオとしての本領発揮というか、楽しいハードバップ・ピアノ・トリオの真髄が堪能出来ます。
 曲はモダンジャズ・ベースの大御所=オスカー・ペティフォードが書いたものですから、ポール・チェンバースも大ハッスル♪ ソロにバックに最高のノリを聴かせてくれます。なにしろこの録音は、初期ステレオの特徴としてチャンネル毎の分離がはっきりしており、左にポール・チェンバース、右にジミー・コブ、そしてど真ん中にウィントン・ケリーという定位ですから、各々に限って集中的に名人芸を楽しむことが出来るのです。いやはや、全く、このトリオは物凄い楽しさを発散せていますねぇ~♪ そしてやっぱり、ポール・チェンバースのブンブン・ベースを中心に演奏を聴いて正解というところでしょうか。

A-3 My Ship
 スタンダード曲ですが、モダンジャズの世界では地味な選曲です。スローな展開ですが、しかしウィントン・ケリーの嫌味の無い装飾音に彩られた歌心で魅惑のテーマが奏でられると、すんなり、その甘美な世界に誘惑されてしまうのでした。

A-4 Out Front
 一転して、最高にカッコ良い、スピード感満点のハードバップです。
 その原動力は、初っ端から弾けるジミー・コブのドラムスで、そのシンバルワークとオカズの瞬発力は絶品です。もちろんウィントン・ケリーも十八番のフレーズを大盤振る舞い♪ 聴いていて本当に気持ち良~く、ノセられてしまいます。
 そしてクライマックスはジミー・コブのスカッと爽やかドラムソロ! 爽快です。

B-1 Never
 当時流行していたボサノバに挑戦するトリオも、なかなか見事です。ちなみにここでの3人はその頃、実際にレギュラー・トリオとして活動していたので、纏まりは最高です。ジミー・コブのボサ・ビートは神業ですし、ウィントン・ケリーもジャズの範疇を冒涜しない楽しいフレーズを弾きまくりです。

B-2 Blues On Purpose
 このトリオの真髄が遺憾な発揮されたハードバップ・ブルースの名演です。
 曲調にはゴスペル味もついているので、ポール・チェンバースがテーマ部分から大活躍! アドリブパートに入っては、そのブレイクからジミー・コブがビシッとキメてくれますので、ウィントン・ケリーも最高にスイングしています。
 トリオ全体としては、けっこう3人がバラバラに演奏している瞬間が多々あるのですが、それが不思議と乱れずに自由闊達なものに集約されていくあたりが、名人・達人の世界なんでしょうねぇ~♪ これがジャズだと思います。
 あぁ、いつまでも聴いていたい……、そんな演奏です。

B-3 If You Could See Me Now
 これはウィントン・ケリーというよりも、このトリオの十八番でしょう、素晴らしい展開が堪能出来ます。スローな演奏なんですが、ピアノのゴージャスな雰囲気と安らぎ、ビートの安定感、さらに原曲に潜む「泣き」を大切にした解釈がたまりません。
 実はこのトリオは、この録音から約4ヵ月後に、ニューヨークのライブハウス「ハーフノート」でウェス・モンゴメリー(g) を向かえて白熱のライブ盤を残すのですが、そこでも秀逸な演奏を聴かせてくれたのが、この曲でした。

B-4 Six-Eight
 如何にもウィントン・ケリーにぴったりという小粋なハードバップです。
 実はこの曲も含めて「A-4」「B-1」「B-2」が、フルートで参加したルディ・スティーヴンソンの作曲で、この人は本当にジャズ的な良い曲を書きますねぇ♪
 ですからトリオも本当に気持ちよく、颯爽としています。

ということで、これはウィントン・ケリーの良い面が存分に出た、楽しいアルバムです。それゆえにジャズ喫茶では軽く扱われるのですが、自宅で聴くには至宝! 楽しくて一抹の哀愁を含んだケリー節が満喫出来ますし、ポール・チェンバースもまだまだ元気にブンブンやってくれます。さらにジミー・コブは名人芸の気持ちの良いシンバルワーク、ズバーンッときてサッと退く刺激的なオカズで暴れていますからねっ♪

ちなみに、このトリオは翌年にはポール・チェンバースが健康を害してリタイア、ウィントン・ケリー自身も体調不良から調子を落としていきますので、ここら辺りが最後の絶頂期だったのかもしれません。そして前述した「ハーフノート」のライブ盤は、蝋燭が消える、その直前のような煌きだったのかも………。

幸いなことに、現在、このアルバムは紙ジャケット仕様でCD化されていますが、あまり人気が無いようですので、気になる皆様には早めの入手をオススメ致します。