仕事にはトラブル続出、だれも真相が分かっていないのか?
という嘆き節が続きそうなので、気分転換に没頭出来るアルバムを選んでみました。身も心も捧げて、なお、気持ち良いです――
■Caravanserai / Santana (Columbia / Sony)
ジャズロックかロックジャズか、とにかくロックとジャズが急接近していったことで誕生した名盤は、圧倒的にロックの方が多いように思います。
それはジャズロックは商業的意識が強いのに反して、ロック側はさらなる高みを希求したからとするのは、穿ちすぎではありますが、ジャズ側からすれば常に馬鹿にする対象だったロックから、従来のジャズを凌駕する作品が次々に生み出されることには、心中穏やかではなかったはずです。
本日の1枚は、そんなロックの大傑作で、ジャズを吸収して見事に消化した名作です。その主人公はギタリストのカルロス・サンタナが率いるラテンロック・バンドのサンタナ! 発売されたのは1972年、う~ん、その基本姿勢を崩さずに、公式デビューからほぼ3年でこの高みに到達したことは驚異です。
メンバーはカルロス・サンタナ(g) 以下、ニール・ショーン(g)、グレッグ・ローリー(key)、トム・コスタ(key)、ダグ・ローチ(b)、マイク・シュリーヴ(ds)、チェピート・アリアス(per)、ミンゴ・ルイス(per)、アーマンド・ペラザ(per)、ハドリ・キャリマン(ts,fl) あたりの所謂サンタナ・ファミリーを中心に大勢のゲストが参加しています。というもの、実はこの当時のサンタナは解散状態でオリジナル・メンバーは散逸状態、新メンバーによるグループ再編の時期だったのです。
しかし内容は素晴らしい! 何度聴いても圧倒されます――
A-1 Eternal Caravan Of Reincarantion
A-2 Waves Within / 躍動
A-3 Look Up / 宇宙への仰視
A-4 Just In Time To See The Sun / 栄光の夜明け
A-5 Song Of The Wind / 風は歌う
A-6 All The Love Of The Universe / 宇宙への歓喜
A面には上記6曲が収められていますが、曲間は無く、LP片面がメドレー状態というか、1曲が終わると次の曲がそこに被ったりして始まるのです。
まず初っ端が、いきなり虫の音です! そしてそこへ不気味なサックスとウッドベースの蠢きが被さり、えっ、これがサンタナ? という雰囲気に仰天させられた当時の記憶が、今聴いても、まざまざと蘇ります。
演奏は少しずつリズミックなものに変化していきますが、なんとなく電化時代のマイルス・デイビスのトランペットが流れてきそうな……。
で、そうこうしているうちに、躍動的な打楽器を伴ったカルロス・サンタナの野生のギターが叫びだして2曲目がスタート! 独り天空に飛翔して消えていく次の瞬間、おぉ、これぞサンタナっ! というワイルドなラテンロックが爆発し、まず妖しいオルガンの蠢きにカルロス・サンタナのギターが泣いて応えるという、最高の展開になります。ただし、まだまだ演奏は押さえ気味……。
4曲目に入って演奏はようやく本性を表したボーカル入りのサンタナ・ミュージックになるので、ファンは一安心♪
そして次がA面のハイライト「風は歌う」です! あぁ、この伸びやかなギター、歌心満点の快楽的なギターは驚異的です! この瞬間を迎えるためにだけ、今までの演奏があったというような、それほど素晴らしい演奏です。この「サンタナ気持ち良いモード」は、この後もライブでは度々使われる十八番となり、例えば他流試合では、エリック・クラプトンやジョン・マクラフリンという達人ギタリストをも屈服させる優れものです。あぁ、何時までも聴いていたい……♪
という快感の嵐が過ぎ去って、次に襲い掛かってくるのが、暴虐の名曲「宇宙への歓喜」です。最初は大仰な雰囲気ですが、清々しいボーカルと躍動的なリズムが呼び水となり、演奏は白熱してタイトルどおりに宇宙的な広がりに展開していくのです。大暴れするダグ・ローチのベースも凄いですが、ここでは当時、若干17歳だったニール・ショーンのギターも炸裂し、グレッグ・ローリーと丁々発止のバトル大会! その背後ではマイク・シュリーヴのドラムスも大爆発です。
肝心のカルロス・サンタナは最終パートでようやく登場して、あの官能のギターを聴かせてつつ、演奏は消えていくのでした。
B-1 Future Primitive
B-2 Stone Flower
B-3 La Fuente Del Ritomo / リズムの架け橋
B面もA面同様、最初の3曲が繋がっています。
まず、いきなり始まる宇宙空間的なキーボードの響きには、これってウェザー・リポート? と思わせておいて、高速パーカッションの嵐が!
そして続く2曲目には、アントニオ・カルロス・ジョビンの名作が登場しますが、歌詞はカルロス・サンタナとマイク・シュリーヴがつけたもののようです。
とはいえ、ここでの演奏は密度が濃く、明らかに新しいサンタナの姿を示しています。それはアフリカとブラジルの混血的なラテンロックで、リアルタイムで聴いた時には違和感があったのですが、今日の耳には大変に心地良いものです。その秘密はウッドベースの使用にあるのでしょうか……? それゆえにジャズ色も強く打ち出されていますが、そう思っていると、いきなり始まるのが高速ラテン曲「リズムの架け橋」です。
もちろん、そのタイトルどおりにラテン・パーカッションが大爆発! 定型リフのピアノのリズムも隠し味となり、カルロス・サンタナのギターが左右前後に飛び交って、トム・コスタのエレピの名演を引き出すのでした。
B-4 Every Step Of The Way / 果てしなき道
前曲がフェードアウトして、ようやくこのアルバムでは「間」が生まれました。そしてその一瞬の沈黙を破って始まるのが、大団円のこの曲です。
ここでもウッドベースが使用され、執拗な絡みを聞かせるラテン・パーカッションと蠢く2本のギターが熱気溢れるボリリズムを形成していくのです。もちろんマイルス・デイビスのトランペットが流れてきても不思議が無い雰囲気です。
しかし実際には、その頂点で突如流れが早くなり、カルロス・サンタナのギターが楽園から宇宙の果てに、突風の如く突っ込んでいきます。そしてさらに凄いのが打楽器の競演と何時の間にか被っているオーケストラの存在の強さ! ここで踏ん張るカルロス・サンタナも強烈ですねっ♪
ということで、出来すぎの作品です。それゆえに初期3枚のアルバムに濃厚に漂っていた妖しい色気が失われ、直裁的なエロスに転換されたというか、ある種のモロ見え演奏になっています。
もちろんそれは魅力的、且つ刺激的なので、これがサンタナの最高傑作と賞賛されることに、やぶさかではありません。
そしてサンタナは、これ以降、ますますジャズ・フュージョンの道を邁進していくのです。しかしそれは、必ずしも聴いて楽しい演奏にはなっていないと思います。
その意味で、このアルバムこそ分岐点に置かれた問題作! つまらない名盤という側面さえありますが、アナログ盤時代にはA面を堪能し、次にB面に盤をひっくり返すという儀式をあってこそ、完結の呈を成す名作だと思います。
ちなみに現在、日本盤CDが紙ジャケット使用で再発中♪ リマスターも素晴らしいので、激オススメです。