人間は好き嫌いがはっきりしているほうが、良い! と思うことがあります。
もちろん実社会では困りものなんですが……。決意表明も時には必要でしょう。
でも、それを貫き通すと偉人か変人の2つにひとつの結果しか残せないわけですが……。
ということで、本日の1枚はこれを――
■The Unique / Thelonious Monk (Riverside)
タイトルに偽り無し!
セロニアス・モンクは全く唯我独尊のスタイルを貫きとおした黒人ジャズ・ピアニストです。それは不協和音と「間」の妙技であり、常に賛否両論渦巻く、そのたどたどしいピアノ奏法は、ヘタウマという言葉だけでは括れません。
というか、かなり奥深いものがあるはずだと、聴き手が自ら納得していないと耐えられない瞬間が、多々あるのです。
平たく言うと、こんなん、あり~!?
あり、なんですよ、モダンジャズでは♪
で、このアルバムはピアノ・トリオ作品ですから、ピアノと同等にベースとドラムスが重要な役割を担っているところを逆手にとった、なかなか好き嫌いがはっきりした仕上がりです。もちろん、それを狙ったんでしょう。
録音は1956年3月と4月、メンバーはセロニアス・モンク(p)、オスカー・ペティフォード(b)、アート・ブレイキー(ds) という我侭トリオです――
A-1 Liza (1956年3月17日録音)
A-2 Memories Of You (1956年3月17日録音)
A-3 Honeysuckle Rose (1956年4月3日録音)
A-4 Darn That Dream (1956年4月3日録音)
B-1 Tea For Two / 2人でお茶を (1956年4月3日録音)
B-2 You Are Too Beautiful (1956年3月17日録音)
B-3 Just You, Just Me (1956年3月17日録音)
上記のように、演奏しているのは全て有名スタンダード曲ですから、セロニアス・モンクの数多あるリーダー盤では、タイトルどおりにユニーク! 何しろセロニアス・モンクのアルバムは、自らが作曲した幾何学的なオリジナルを中心にするのが常道ですから!、
で、やっていることはアルバムを通して、全て同じです。ですから今回は、曲毎にああだ、こうだとは書きません。
セロニアス・モンクはお馴染みのスタンダード曲を全く自分勝手に弾きますが、テーマ・メロディは大切にされています。しかしアドリブは訥弁というか、ブツブツ、パキパキ、ズバーンっという擬音でしか表せない境地です。
当然、弾くべきところで弾いていないという「間」も存分に楽しめます。
そして今回は優れたベーシストとドラマーがついているので、その「間」を絶妙に埋めていくところが、聴きところだと思います。
またセロニアス・モンクのスタンダード解釈は、異様な寂しさや寂寥感が漂います。
実は個人的には、セロニアス・モンクのピアノはジャズにおけるユダヤ人モードからの脱却を狙ったものだと思っています。
ご存知のように、所謂アメリカで生まれたスタンダード曲はユダヤ人が作ったものがほとんどで、それはユダヤ人モードに黒人のリズム・シンコペーションを掛け合わせたものかと思います。
ですから純粋に黒人音楽を追求しようとすれば、ユダヤ人モードは排斥しなければならないのですが、悲しいかな、ジャズは黒人&欧州モードから誕生したという経緯が濃厚です。しかもピアノという楽器は、完全に欧州音階で作られているのですから、その全てを取り除けば、残されているのはセロニアス・モンク的な不協和和音と「間」の妙技しかないのでは……。
なんて言うのは、私の思い込みです。セロニアス・モンクの音楽ほど、文章にして虚しいものは無く、まずはこのアルバムあたりから聴いて、その天国と地獄をご確認いただきとうございます。
私は「You Are Too Beautiful」を聴くと、何時も涙してしまいます……。