急に暖かくなった所為でしょうか、昼飯喰ったら猛烈に眠くなって、困りましたね。シンドイ来客もあったりして……。
ということで、春にはこんなアルバムも良いかと――
■Tarnce / Steve Kuhn (ECM)
スティーヴ・キューンは所謂エバンス派のピアニストでしょうが、本家よりも甘く、一層ディープな耽美的感覚が魅力だと思います。
しかし同時にイケイケの姿勢もきちんと示していたのが、1970年代の活動です。特にこのアルバムは電化系の演奏も取り入れた忌憚の無い仕上がり!
録音は1974年11月11&12日、メンバーはスティーヴ・キューン(p,elp)、スティーヴ・スワロー(b,elb)、ジャック・ディジョネット(ds,per)、スー・エバンス(per) というハードコアな面々です――
A-1 Trance
いきなり浮遊感満点のメロディが流れ出し、不安と希望がゴッタ煮となる展開が、如何にも当時のジャズそのものだと思います。スティーヴ・キューンのピアノは多重録音されている部分もありますが、総じてアドリブパートには押し付けがましいところが無いんですねぇ~♪ けっこう考え抜かれたフレーズや仕掛けも使っているのですが。
またシンプル過ぎるスティーヴ・スワローのベースとは逆に多彩なリズムを作り出すジャック・ディジョネットとスー・エバンスの存在感も強いです。
非常に気持ちが良いので、ジャズ喫茶では居眠りモードの定番でもありましたですね。
A-2 A Change Of Face
一転して、おっ、チック・コリア!?
というようなエレピの響きからフュージョン期のサンタナのようなラテンロックな演奏となって痛快です。
しかしアドリブパートの核心はジャック・ディジョネットの豪快な4ビートが担っており、これも最高に心地良いです。スティーヴ・キューンのエレピは多重録音疑惑があるものの、こういうノリの楽しさこそ、リアルタイムで多くのジャズ者に認識されたのでした。
A-3 Squirt
これも如何にもスティーヴ・キューンらしいアグレッシブな演奏で、ピアノの力強さ、ジャック・ディジョネットの臨機応変なリアクションがあればこそ、フリーな領域でも厭味無く聴けるのですね。
幽玄の世界と破壊と調和! そんな感じが完全にジャズになっています。
A-4 The Sandhouse
これが実に柔らかくて、深遠な表現という、スティーヴ・キューンが最も「らしい」姿を記録しています。またこういう音の響きこそが、ECMというレーベルの象徴ですね。
今聴くと、些か時代を感じてしまうのですが、これは当時のジャズ喫茶には無くてはならないものでした。ちなみにこのアルバムは、スティーヴ・キューンがECMと契約して最初に出したものです。
終盤の盛り上がりが、本当にたまりませんよ。
B-1 Something Everywhere
これまた「A Change Of Face」の続篇のようなラテンフュージョンな演奏ですが、一層ストレートなノリが最高に気持ち良いです。
スティーヴ・スワローのベースソロはエグミもほどほどな不思議系ですが、絡んでくるエレピやドラムス、パーカッションが熱を帯びてくると、なかなか深遠な陰謀という感じでしょうか。
スティーヴ・キューンのエレピはアドリブになるとチック・コリアになってしまいますが、ギリギリで踏み止まるスリルが実に良い感じです。
B-2 Silver
短いながらもスティーヴ・キューンの存在感が存分に示されたソロピアノ♪ 本人は十八番のようで、ライブや新録音でも頻繁に演じられていますので要注意願います。
私なんか耽美なメロディ展開にグッと惹きつけられ、クライマックスの音の混濁に圧倒されます。
B-3 The Young Blade
これまた楽しいオトボケのジャズロックで、ジャック・ディジョネットが本領発揮のビシバシビートを敲きまくれば、スティーヴ・スワローのエレキベースが辛辣に蠢きます。
そしてアドリブパートは擬似4ビートからフリー寸前の展開まで、多彩なグルーヴが表出し、決して一筋縄ではいきません。こういうガッツが、当時のジャズ喫茶ではウケたように思います。
終盤からバンドが一丸となってエンディングに向かうところは圧巻!
B-4 Life's Backward Glance
スティーヴ・キューン自らが朗読する詩と幽玄な演奏の融合が試みられています。これは当時のECMばかりでなく、けっこうジャズの本流でも認められていた一種の技法でした。
しかし本質はスティーヴ・キューンの鋭いピアノタッチ、流麗なメロディ展開、そして独特の歌心が楽しめる素敵な演奏で、パンドの纏まりも素晴らしいですねっ♪ こういうところは、個人的にキース・ジャレットなんかも影響を受けていると思います。つまりスティーヴ・キューンが1960年代から演じていたエッセンスが、ここに完成した感じでしょうか。
何度聴いても、素敵です。
ということで、なかなか味わい深いアルバムです。尤もスタンダード曲を演じている最近の作品に比べれば、とっつきが悪いかもしれませんね。しかし本質は同じですし、多重録音を使っている点だって、きわめて自然ですから、気にはならないと思います。
春はエレピが心地良い♪