OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

自然体の強み

2008-03-08 17:25:26 | Weblog

フッと気がつくと、陽が長くなりましたですね。本格的な春も近いのでしょうが、花粉症のマスクをしている人も目立ちます。

春も良し悪しがあるんですね。

ということで、本日は――

Crazy Rhythm / Lionel Hampton (EmArcy)

1930年代に全盛だった所謂スイングジャズが進化して、R&Bとビバップに分化したのは歴史ですが、もちろん黒人系ビートを強調してダンス音楽の側面を強めたのが前者であり、暗黙の了解性を強めてリスナーの感性に強く訴える観賞用音楽となったのが後者です。

我国のジャズファンは、どちらかと言えば後者の贔屓が多いようで、R&Bスタイルのミュージシャンを軽視するところがありますが、その両方でリアルタイムに凄い活動をしていたのが、ライオネル・ハンプトンでした。

ご存知のとおり、ベニー・グッドマンのバンドでは看板スタアとして大ブレイクした後、独立してからはR&Bの創成に深く関わるダンスヒットを連発し、平行して正統派4ビート演奏もどっさり残しているのです。

その主要楽器はヴァイブラフォンなんですが、同時にドラムスやピアノでも独特の芸を持った才人であり、何よりも楽しさ優先モードのエンターテイナーでもあり、スイングもモダンも関係ない凄いアドリブが出来るジャズ演奏家だったと思います。

このアルバムは1955年3月のフランス巡業の際、地元の精鋭を交えたセッションが収められていて、かなりモダンなアドリブの応酬と地味ながら洒落たアレンジの中で、ライオネル・ハンプトンの自然体の実力が楽しめる好盤になっています。

メンバーはライオネル・ハンプトン(vib,p,ds) 以下、ナット・アダレイ(tp)、ベニー・ベイリー(tp)、ベルナール・フリン(tp)、モーリス・メニエ(ts,cl)、ウィリアム・ブーカヤ(bs)、デイブ・エイムラム(fhr)、ルネ・ユルトルジェ(p)、サッシャ・ディステル(g)、ギ・ペデルソン(b)、マック・カック(ds) という、なかなか興味深い面々です――

A-1 Crazy Rhythm
 如何にもジャムセッションにぴったりという狂騒の原曲も、ここでは膨らみがあって洒落たアンサンブルによる穏やかなテーマ演奏が、なんともパリの佇まい♪
 アドリブパートでもライオネル・ハンプトンがスインギーな歌心を披露すれば、ナット・アダレイが明るい雰囲気のマイルス・デイビスみたいな名演を聞かせてくれます。
 そしてウイリアム・ブーカヤの柔らかなバリトンサックス、ベルナール・フリンのハスキーな音色が魅力のトランペット、小粋なサッシャ・ディステルのギターと、地元勢も力演ですが、ルネ・ユルトルジェのファンキーモダンなピアノは新鮮ですねぇ♪
 するとライオネル・ハンプトンが再登場し、刺激を受けたようなモダンな感覚のアドリブが、ハッとするほど良い感じの締め括りになっています。

A-2 Night And Day
 ライオネル・ハンプトンとリズム隊だけの演奏で、お馴染みの名曲をリラックスしたテンポで聞かせてくれますが、ほとんど12分近い長丁場をワンマンショウの趣でアドリブに撤するライオネル・ハンプトンが実力の証明です。
 もちろんルネ・ユルトルジェやサッシャ・ディステルにも短い出番はあるのですが、あまり冴えたことはやっていません。まあ、ルネ・ユルトルジェがジョン・ルイスっぽいところが面白いという……。

B-1 Red Ribbon
 再びホーン陣が加わった景気の良いアップテンポの演奏で、ライオネル・ハンプトンが参加メンバーのアドリブ受渡しの頭に登場するという、全くジコチュウな仕掛けが憎めません。
 もちろんそのアドリブパートは充実♪ 中でもモーリス・メニエのクラリネットが良い味を出しまくりです。

B-2 A La French
 ライオネル・ハンプトンが書いた妙にウキウキする名曲・名演です。地元リズム隊によるミディアムテンポのグルーヴが、ジャズのお洒落な感覚を自然体で表しているのは目からウロコです。
 演奏はホーン陣が抜けた小編成によるもので、またまたライオネル・ハンプトンの一人舞台が濃厚なんですが、今度はサッシャ・ディステルのギターが大健闘♪ 本当に良いフレーズを弾いてくれます。

ということで、なかなかモダンでお洒落な演奏ばかりなんですが、だからといってライオネル・ハンプトンに力んだところが感じられないのは流石です。もちろんアドリブフレーズはスイング時代と同じでも、ノリが微妙に変化しているのは当たり前で、それが極めて自然体なんですねぇ。

そういう人だからこそ、ジャズばかりでなくR&Bの世界でも大成功したのでしょうし、かなり高齢になっても衰えることのない楽しい演奏が出来たのでしょう。

我国のジャズマスコミではイマイチ、取上げ方が不足していると感じますが、スイングだとか、モダンだとか、そういうジャンル分けが無意味な天才演奏家だと思います。

コメント
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