実に暖かな日が続いていますね。
しかし世の中は、お金の話、政治の話題、悪法の噂が蔓延して……。
こういう時には、スカッとこれを――
■On The Spur Of The Moment / Horace Parlan (Blue Note)
ホレス・パーランの代表盤といえば「アス・スリー(Blue Note)」と決まっているけれど、この2管クインテット盤も正統派ハードバップの傑作として私は愛聴しています。
録音は1961年3月18日、メンバーはトミー・タレンタイン(tp)、スタンリー・タレンタイン(ts)、ホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、アル・ヘアウッド(ds) というアクの強い5人組! 時期的にはハードバップから一歩進んだモード手法も取り入れていますが、しかし根底にあるドロドロとした黒い情念を爽快なアドリブの応酬に転化させた名曲・名演ばかりです――
A-1 On The Spur Of The Moment
ホレス・パーランが書いた調子の良いブルースで、独特のスピード感とグルーヴィな味わいを醸し出すリズム隊に煽られ、フロントのタレンタイン兄弟が快演を披露します。
まずトミー・タレンタインが人見知りするような最初の音出し、続いて流麗なフレーズを連ねていくところにゾクゾクさせられます。また全く独自のノリが楽しいホレス・パーランのピアノからは黒い魂が発散され、続くスタンリー・タレンタインの豪快なテナーサックスに繋がるあたりは、完全にハードバップ愛好者のツボでしょう。
あぁ、何度聞いても自然に体が揺れてきます。
ジョージ・タッカーのベースソロも、実にエグイ!
A-2 Skoo Chee
モードを使った痛快なハードバップ曲で、モードにハードバップというのは!? と、お叱りは覚悟の断言! これが実にハードバップなんです! まずはアドリブ先発のスタンリー・タレンタインが真っ黒いフィーリングで完全にKOされますよ。これがジョン・コルトレーンだったら、熱くなって終りですからねぇ。暴言ご容赦願います。
そしてトミー・タレンタインが陰影の滲み出る、これまた名演♪ 背後からキメのリフをぶっつけてくるリズム隊と強調しつつも、決して妥協していません。
するとホレス・パーラン以下のリズム隊が魂の逆襲! おぉ、完全に「アス・スリー」ですよ♪ アル・ヘアウッドのシンバル&スネアの快感が存分に楽しめますし、最後の掛声は歓喜悶絶のお楽しみ♪ 最高です。
A-3 And That I Am So In Love
ベニー・グリーン(tb) も十八番にしている楽しい隠れ名曲が、このメンツで演奏されるという嬉しいプレゼント♪ スタンリー・タレンタインの野太いテナーサックスでテーマメロディが吹奏された瞬間、本音で浮かれてしまいます。
もちろんアドリブも黒っぽさがモロ出しとなってウキウキさせられますし、トミー・タレンタインもテーマメロディを上手く変奏し、またホレス・パーランのファンキー節も、本当にたまりませんねっ♪
終始、弾みが効いたリズム隊も良い感じなのでした。
B-1 Al's Tune
これがまた、実にスカッとするテーマ演奏♪ そして神妙にして思わせぶりなアドリブが冴えた名曲・名演の決定版です。
アドリブ先発のトミー・タレンタインはマイルス・デイビスを意識したような感じですが、これは使われているモードの所為でしょう。むしろブルー・ミッチェルっぽいところが魅力的です。
またスタンリー・タレンタインが、ここでも深みのあるブロースタイルで押し通し、その黒さ満点の歌心に驚嘆させられます。これが嫌いな人って、いるのかなぁ~。
そしてさらにグッとくるのがリズム隊のパートで、キメのリフ、ホレス・パーランのアドリブともにシャープでアクが強く、ファンキーの進化形として夢中にさせられます。
ラストテーマの吹奏も鮮やかですよ。
B-2 Ray C
これぞファンキーという名曲♪ 押しの強いリズム隊、そして陰影を滲み出すタレンタイン兄弟のテーマ合奏! これがハードバップの最大魅力かもしれません。
アドリブパートも王道を外さない豪快さで、全員の真っ黒な魂が遺憾な無く発揮されています。特にトミー・タレンタインが良いですねぇ~♪
肝心のホレス・パーランも執拗なブロックコード弾きが開放的に展開する得意技を聞かせ、またジョージ・タッカーのベースソロがビンビンに響きわたるという、このバンドならではの“お約束”が潔いと思います。
ラストテーマの合奏も一筋縄ではいきません。
B-3 Pyramid
オーラスはラテンビートを使った、ちょっと哀愁モードの胸キュン曲♪ しかしサビからは微熱っぽい4ビートとなり、う~ん、これはホレス・シルバー!? なんて思いますが。
しかしアドリブパートでの脂っこい雰囲気は、間違いなくホレス・パーランの世界です。豪快にドライブするスタンリー・タレンタインのテナーサックスが唯一無二なら、トミー・タレンタインは明快なフレーズを連ねてリラックスムード♪
そしてホレス・パーランがドラムス&ベースと渾然一体となったグループで突進! けっして派手さはありませんが、ジワジワと熱くなってからのブロックコード弾きと重なって吹奏されるラストテーマが、本当に快感ですよ。
ということで、なかなか分かり易い演奏ばかりの楽しいアルバムだと思います。なにしろタレンタイン兄弟が自然体で好印象♪ 特にトミー・タレンタインは何時も以上に好調です。
そして主役のホレス・パーランは良く知られているように、右手に障害があって指が2本しか動かないとか言われていますが、普通に聴いているぶんには全く気になりませんし、それゆえの個性とか努力の跡を殊更に強調しなくとも、非常に真っ黒なフィーリングが好ましいスタイルです。
モダンジャズには、こういうアクの強さが必要なんでしょうね。これも隠れ人気盤の1枚ではないでしょうか。