OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ピケット対オールマン=フェイム組の凄さ

2012-01-20 16:04:30 | Soul

Hey Jude / Wilson Pickett (Atlantic)

幾ら強がっても、基本は気が弱いサイケおやじですから、ここ一番の仕事や生活の諸々で気合いが必要な時には、それなりの手助けを必要とする事が度々です。

そしてそんな時、特に有用なのが音楽であって、例えば本日ご紹介のアルバムはその点において、サイケおやじの愛聴盤のひとつ♪♪~♪

ご存じ、黒人R&Bの王道歌手として、まさにソウル度満点のボーカル&シャウトを存分に聞かせてくれたウィルソン・ピケットが1969年に出したヒットアルバムなんですが、実は告白すると、サイケおやじがこのLPをゲットしたのは別の目的でありました。

そうです、既にご推察の皆様も大勢いらっしゃるはずですが、ここに収録の歌のバックには早世した天才ギタリストのデュアン・オールマンが参加しているのです。

 A-1 Save Me
 A-2 Hey Jude
 A-3 Back In Your Arms
 A-4 Toe Hold
 A-5 Night Owl
 A-6 My Own Style Of Loving
 B-1 A Man And A Half
 B-2 Sit Down And Talk This Over
 B-3 Search Your Heart
 B-4 Born To Be Wild
 B-5 People Make The World

さて、今では既定の事実として良く知られていますが、黒人R&Bの制作現場は、ほとんどの場合において白人が主導しているのが常であり、それは全体を統括するプロデューサー以下、特にセッションのカラオケパートが白人ミュージシャンによって演じられていたという真相は、それをバックに歌う黒人歌手にとっても最初は戸惑いがあったと言われています。

そしてウィルソン・ピケットの場合も例外ではなく、実はニューヨーク周辺では黒人ミュージシャンを中心として行われていたレコーディングの実際が、むしろさらに本質的なブラックソウルを全面に打ち出していたアメリカ南部録音の諸作、つまり所謂サザンソウルの場合は、例えばメンフィスのスタックスサウンドのように、その本質が白人によって作られていた現実があって、最初にそれを知らずに現場へ入った瞬間、驚愕したと本人が事ある毎に語っていたほどです。

しかし流石は大物の貫録というところでしょうか、ウィルソン・ピケットがそうした現場から最初のヒットを出したのは、おそらく1965年の「In The Midnight Hour」からだと思うのですが、とにかくずっしりとヘヴィなバックの演奏と粘っこい熱血ソウルなボーカルスタイルの相性の良さは抜群! 以降の大ヒット連発は有名な歴史だと思います。

で、そうした流れの中の1968年晩秋、ウィルソン・ピケットのレコーディングセッションに参加したのが、後にオールマン・ブラザース・バンドで大ブレイクするデュアン・オールマンであり、そこから作られたのが本日掲載のアルバムというわけですが、既にレコード産業はLP主体に移りつつあったとはいえ、まだまだ時代はシングルヒットが優先され、アルバムが出されるのは、それがあってこその実情でしたから、セッション毎に幾つか録られた楽曲は当然ながらシングル向けの候補が必要であり、なんとっ!? 選ばれのはビートルズが同時期に世界中で大ヒットさせていた「Hey Jude」なんですから、これにはウィルソン・ピケット本人も躊躇いがあったと言われています。

ちなみに書き遅れていましたが、件の現場はアラバマ州のフェイムスタジオで、プロデューサーはそこのオーナーである白人のリック・ホールということは、参加ミュージシャンがジミー・ジョンソン(g)、バリー・ベケット(key)、デヴィッド・フッド(b)、ロジャー・ホーキンス(ds) 等々を中核とする所謂マスル・ショールズ・リズムセクションであり、デュアン・オールマンは西海岸に出てのメジャーデビューとなったアワ・グラスというバンドの失敗から出身地の南部に舞い戻り、当時はセッションギタリストとして活動していた頃……。

それがどういう経緯か、とにかくフェイムスタジオにおいてウィルソン・ピケットのセッションで名演を残したことは決定的で、特に問題の「Hey Jude」はもちろん歌の魅力は絶大ながら、デュアン・オールマンのド派手なギタープレイがあってこそのシングル発売決定だったように思います。

それは誰もが知っているメロディを抑え気味に歌い出すウィルソン・ピケットがジワジワと提供する荘厳なムード、それに寄り添いながら要所で鋭いツッコミを入れ、絶妙のスパイスとなるデュアン・オールマンのギター♪♪~♪ そして後半からの盛り上がり大会では激しくソウルフルなシャウトをさらに煽るアグレッシヴなフレーズの乱れ撃ち!

あぁ~、何度聴いても、興奮しますっ!

しかし、正直に告白すれば、この「Hey Jude」を最初に聴いた時のサイケおやじは、その凄さや興奮性感度の高さには馴染めず、何故ならば、オールマンズで堪能させてくれたロックギター本来の流麗にしてハードなノリが無かったからで、もうひとつ事情を述べておけば、それはデュアン・オールマンの死後に纏められた「メモリアル・アルバム」という故人のセッション活動時代の業績も含む2枚組オムニバスLPに入っていたトラックでしたから、他の収録演目と比較して、何が名演なのか? イマイチの実感が掴めなかったというわけです。

ところが、このアルバム単位で聴くウィルソン・ピケットとデュアン・オールマン、そしてフェイムスタジオのセッションミュージシャンとのコラポレーションは最高の極みとしか言えないほど、濃密で熱いグルーヴに満たされています。

実はデュアン・オールマンが明確にギターを弾いていると断定出来るのは、「Hey Jude」の他に「Save Me」「Back In Your Arms」「Toe Hold」「My Own Style Of Loving」「Search Your Heart」「Born To Be Wild」だけと思われますから、アルバム全体に捨て曲無しの仕上がりを鑑みれば、如何に参加ミュージシャン全員のレベルが凄かったか!?!

完全に震えて実感するばかりですっ!

それはデュアン・オールマンの名演として持ち上げた「Hey Jude」にしても、ウィルソン・ピケットの歌に呼応するが如き盛り上げに資するホーンセクションの熱さ然り、エッジの効いたリズム隊のエグ味然し!

そうしたところがあって、初めて成立する傑作トラックだと思います。

その意味で個人的にも好きでたまらないのが、グツグツとミディアムテンポで血が滾っていくような「Back In Your Arms」のソウルグルーヴの凄さで、もちろん基本は黒人ゴスペルフィーリングでしょうし、さらにディープな「Search Your Heart」の真っ黒な蠢きも最高ですよっ!

また流行歌というか、「Hey Jude」にしてもそうなんですが、リアルタイムでヒットしていたロック曲のカバーである「Born To Be Wild」はステッペンウルフの「ワイルドで行こう!」ですから、まさにイケイケのウィルソン・ピケットが満喫出来ますし、ほとんどCCRスタイルの「A Man And A Half」にしても、実質的にスワンプロックの種明かし的な仕上がりになっているのは、もうひとりの参加プロデューサーとして暗躍したトム・ダウトの仕業かもしれません。

しかし、このアルバムの出来が素晴らしいのは、黒人公民権運動との繋がりも深いと思われる名曲「People Make The World」をオーラスに配置したことでしょう。

まあ、率直に言えば些か大袈裟な感じも致しますが、それでもこれだけの名曲名唱は滅多にあるものではなく、おそらくは作者のボビー・ウーマックが弾いているであろうギターの味わいも、なかなか深いものがありますよねぇ~♪

ということで、繰り返しますが、個人的には聴くだけで「力が入る」、まさに気力充填の愛聴盤です。

特に強いバックビートに支えられた、横揺れするようなリズムの快感は至極であり、熱血と情緒を併せ持ったウィルソン・ピケットのボーカル表現は絶好調! 加えてデュアン・オールマンのギターが随所で楽しめるとあっては、繰り返し何度も針を落してしまうのは必定であり、それでいて決して飽きることがありません。

そのあたりはアクが強すぎるスタイルとも言えるウィルソン・ピケットの歌いっぷりを鑑みて、ちょい聞きには若干の精彩に欠けるというご意見も各方面であるようですが、十人十色の好き嫌いと断じます。

それほど、このアルバムが好きっ!

というのがサイケおやじの偽りの無い心情であります。

そして最後になりましたが、デュアン・オールマンを聴くために買ったLPで、実はフェイムスタジオ組の実力を再発見させられ、そっち方面の奥の細道を辿り始めたことを追記させていただきます。

コメント (2)
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