OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

神の領域

2006-05-18 17:59:09 | Weblog

今場所の大相撲は、近年稀な熱戦が多いですね。物言いとかキワドイ勝負が頻発して、おもわずテレビに釘付けに! うへぇ、仕事が進まん……。

ということで、本日は何の脈絡もなく、これを――

Boss Guitar / Wes Montgomery (Riverside)

アドリブ名人はどんな企画・編成でも不滅の輝きを放つと、以前書きましたが、やはりジャズ者としては、小編成でバリバリとアドリブをやった演奏を聴きたいのが、本音だと思います。

このアルバムは当にそれで、実はウェス・モンゴメリーは同じ時期にガチガチにアレンジされたストリングス入りの作品を製作中だったことから、その反動とも解釈出来る自由奔放な演奏が楽しめます。

録音は1963年4月22日、メンバーはウェス・モンゴメリー(g)、メル・ライン(org)、ジミー・コブ(ds) というトリオ編成です――

A-1 Besame Mucho
 ラテンの人気曲に真っ向から勝負するウェス・モンゴメリーはワルツっぽいニュアンの速い4ビートという、怖ろしい解釈を聴かせてくれます。しかし難解なところは全く無く、爽快そのもの! 溢れ出るアドリブ・メロディは歌心に満ちており、十八番のオクターブ奏法からコード弾きという展開も、お約束を超越した迫力です。
 脇を固めるジミー・コブのドラムスも歯切れ良く、メル・ラインのオルガンも控えめながら健闘しています。

A-2 Dearly Beloved
 ミュージカルの大スタアであるフレッド・アステアの小粋な歌があまりにも有名なこの曲を、ウェス・モンゴメリーは高速4ビートで聴かせてくれます。ジミー・コブのシャープなドラムスをバックに、全く乱れぬ運指が神業です。親指だけのピッキングも力強く、やはりこれは神の領域か!?
 そこへいくと、メル・ラインのオルガンは人間らしくて憎めません。

A-3 Days Of Wine And Roses / 酒とバラの日々
 一転してムード満点な演奏で、この名曲の解釈としては、ファンが望むところを大切にしての大サービスだと思います。
 ジミー・コブのサクサクいうブラシも気持ち良く、ウェス・モンゴメリーは即興とは思えぬ美メロを弾きまくりです♪

A-4 The Trick Bag
 初っ端からド迫力のハードバップ曲は、ウェス・モンゴメリーのオリジナルということで、十八番のフレーズがピンピン飛び出してきます。あぁ、これがウェスですねぇ~♪
 メル・ラインのオルガンも疾走感がありますし、ジミー・コブのドラムスは何時だって素晴らしい! 終盤ではドラムソロとリフの掛け合いという見せ場も用意されていますし、全体にバンドとしての纏まりも最高です。

B-1 Canadian Sunset
 このアルバムのハイライト♪ まずジミー・コブが叩き出す快適なボサビートに乗って抜群のテーマ解釈を聞かせるウェス・モンゴメリーが、最高です! しかも、この部分だけ聴いて、もう辛抱たまらん状態なんですが、その後のアドリブが素晴らしさの極致! これも神の領域です♪ この和みと緊張感のバランスが余人には真似出来ない境地でしょうねぇ~♪
 そしてメル・ラインも畢生の名演! こんなん、何処かのラウンジで聴かせてもらったら悶絶必至です♪ あぁ、何度聴いても最高です!

B-2 Fride Pies
 これもウェス・モンゴメリー作曲によるハードバップで、ビシッとキメまくりのリズム的快感が楽しめます。それはトリオ3者のコラボレーションの妙技が冴えている証で、ツボを押さえたブルース進行の楽しさ、奥深さを堪能させられます。
 ちょっと聴きには簡単そうなウェス・モンゴメリーのここでのソロは、いざ、コピーすると地獄へ直行の物凄さで、特に後半のオクターブ奏法からコード弾きは天使と悪魔の鬩ぎ合いです。

B-3 The Breeze And I / そよ風と私
 またまた人気ラテン曲を聴かせてくれるウェス・モンゴメリーは、ここでも高速4ビートで神業を披露しています。う~ん、全くこの人は人ではなくて、神です。厳密に言えばミスタッチもあるのですが、それすらも完成形の一部にしてしまう凄みが!
 それとジミー・コブのドラムスも最高で、シンバルとオカズの美学がたっぷり楽しめますし、メル・ラインのオルガンソロのバックでウェス・モンゴメリーとグルになって聞かせる煽りも強烈です。

B-4 For Heaven's Sake
 アルバムのラストはスローな歌物、グッとクールダウンを狙った演奏になるはずが、この内側からこみあげてくる情熱はなんでしょう……! 押さえた表現の中に泣きの美メロをちりばめてアドリブを完遂するウェス・モンゴメリーは、やはり……。あぁ、絶句して聞き終えるこのアルバムの素晴らしさ……!

ということで、これはムード満点、迫力たっぷりの名盤です。小編成ということで、自宅で聞き流してもイケますが、そうしているうちに、いつしか聴き惚れてしまうこと請け合いです。

ちなみに現行CDには別テイクのオマケがついていますが、ウェス・モンゴメリーのアドリブは全く違う展開になっているあたりが、聴きところでしょう。やはり名人は違います。

そして一番凄いのは、緊張感と同等に和みも大切した、その演奏姿勢だと思います。

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モンク!

2006-05-17 15:45:50 | Weblog

人間は好き嫌いがはっきりしているほうが、良い! と思うことがあります。

もちろん実社会では困りものなんですが……。決意表明も時には必要でしょう。

でも、それを貫き通すと偉人か変人の2つにひとつの結果しか残せないわけですが……。

ということで、本日の1枚はこれを――

The Unique / Thelonious Monk (Riverside)

タイトルに偽り無し!

セロニアス・モンクは全く唯我独尊のスタイルを貫きとおした黒人ジャズ・ピアニストです。それは不協和音と「間」の妙技であり、常に賛否両論渦巻く、そのたどたどしいピアノ奏法は、ヘタウマという言葉だけでは括れません。

というか、かなり奥深いものがあるはずだと、聴き手が自ら納得していないと耐えられない瞬間が、多々あるのです。

平たく言うと、こんなん、あり~!?

あり、なんですよ、モダンジャズでは♪

で、このアルバムはピアノ・トリオ作品ですから、ピアノと同等にベースとドラムスが重要な役割を担っているところを逆手にとった、なかなか好き嫌いがはっきりした仕上がりです。もちろん、それを狙ったんでしょう。

録音は1956年3月と4月、メンバーはセロニアス・モンク(p)、オスカー・ペティフォード(b)、アート・ブレイキー(ds) という我侭トリオです――

A-1 Liza (1956年3月17日録音)
A-2 Memories Of You (1956年3月17日録音)
A-3 Honeysuckle Rose (1956年4月3日録音)
A-4 Darn That Dream (1956年4月3日録音)
B-1 Tea For Two / 2人でお茶を (1956年4月3日録音)
B-2 You Are Too Beautiful (1956年3月17日録音)
B-3 Just You, Just Me (1956年3月17日録音)

上記のように、演奏しているのは全て有名スタンダード曲ですから、セロニアス・モンクの数多あるリーダー盤では、タイトルどおりにユニーク! 何しろセロニアス・モンクのアルバムは、自らが作曲した幾何学的なオリジナルを中心にするのが常道ですから!、

で、やっていることはアルバムを通して、全て同じです。ですから今回は、曲毎にああだ、こうだとは書きません。

セロニアス・モンクはお馴染みのスタンダード曲を全く自分勝手に弾きますが、テーマ・メロディは大切にされています。しかしアドリブは訥弁というか、ブツブツ、パキパキ、ズバーンっという擬音でしか表せない境地です。

当然、弾くべきところで弾いていないという「間」も存分に楽しめます。

そして今回は優れたベーシストとドラマーがついているので、その「間」を絶妙に埋めていくところが、聴きところだと思います。

またセロニアス・モンクのスタンダード解釈は、異様な寂しさや寂寥感が漂います。

実は個人的には、セロニアス・モンクのピアノはジャズにおけるユダヤ人モードからの脱却を狙ったものだと思っています。

ご存知のように、所謂アメリカで生まれたスタンダード曲はユダヤ人が作ったものがほとんどで、それはユダヤ人モードに黒人のリズム・シンコペーションを掛け合わせたものかと思います。

ですから純粋に黒人音楽を追求しようとすれば、ユダヤ人モードは排斥しなければならないのですが、悲しいかな、ジャズは黒人&欧州モードから誕生したという経緯が濃厚です。しかもピアノという楽器は、完全に欧州音階で作られているのですから、その全てを取り除けば、残されているのはセロニアス・モンク的な不協和和音と「間」の妙技しかないのでは……。

なんて言うのは、私の思い込みです。セロニアス・モンクの音楽ほど、文章にして虚しいものは無く、まずはこのアルバムあたりから聴いて、その天国と地獄をご確認いただきとうございます。

私は「You Are Too Beautiful」を聴くと、何時も涙してしまいます……。

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春風のハードバップ

2006-05-16 15:59:47 | Weblog

ようやく春らしいというか、初夏前の、私が一番好きな季節になりました。長閑なんですよ、とにかく気持ちが良い天候です。

そこで聴いたのが、これです――

South American Cookin' / Curtis Fuller (Epic)

モダンジャズに暗い情念は付物かもしれませんが、そればっかりでは身が持ちません。私は逆に陽気なノーテンキ盤が、けっこう好きです。

このアルバムは、リーダーのカーティス・フラーが1961年夏に南米巡業をした際の印象から作られた、心底楽しい1枚です。

メンバーはカーティス・フラー(tb)、ズート・シムス(ts)、トミー・フラナガン(p)、ジミー・メリット(b)、デイヴ・ベイリー(ds) という、ジャズ者にはお馴染みの面々♪ 実際、前述の南米巡業にはズート・シムスとデイヴ・ベイリーが同行していたという事から、意志の疎通もバッチリのセッションです――

A-1 Hello Young Lovers
 いきなり無謀な選曲! しかもカーティス・フラーのワンホーン演奏なので、ますます暴挙としか思えません。何故ならば、この曲はトロンボーンの神様=J.J.ジョンソンが「ブルー・トンロボーン(Columbia)」という極みつき名盤で、決定的な演奏を残しているからです。
 当時のカーティス・フラーは、そのJ.J.ジョンソンを追走する一番手とはいえ、これは??? となるのですが、しかし逆に興味津々! もしかすると……、という部分が、聴く前からジャズ者の魂を熱くさせるのです。
 で、肝心の演奏はテンポもJ.J.ジョンソンのバージョンに近く、ご丁寧にもピアニストが同じトミー・フラナガンなので、雰囲気はそっくりです。う~ん、かなりの重圧になるはずですが……。
 結論からいうと、楽しい快演です♪ カーティス・フラーのトロンボーンは、そのハスキーな音色と長閑なフレーズの妙、さらに陽気で大らかなノリというスタイルがウリですが、それが全開しています。
 なにしろテーマ吹奏からして陽気な雰囲気♪ アドリブ・パートに入っても単純なフレーズしか吹いていません。単音のモールス信号とリズムへのアプローチを主体にして演奏を進め、ここぞっ! という瞬間に早いパッセージを入れ込むという手法です。とてもJ.J.ジョンソンのようなメカニカルなフレーズは吹けていませんが、それ故に、とても良い味を出しまくりです。
 それはサポートのリズム隊、特にトミー・フラナガンの存在が限りなく大きいと思います。そして何度聴いても憎めない演奏です。

A-2 Besame Mucho
 アート・ペッパー(as) を筆頭にモダンジャズでは幾多の名演があり、その全てが日本人は大好きという名曲です。
 ここではボサ・ビートで演奏されますが、全体のリズム処理がジャズロックに近くなっているところが面白いと思います。
 ちなみにアメリカにおけるボサノバ・ブームは、このアルバム録音の翌年=1962年からですし、ジャズロックはさらに次の年=1963年になって本格化するのですから、ここでのリズム・パターンは興味深いところです。
 肝心の演奏はズート・シムスが登場するや、ハードバップの4ビートに転換するのですが、それがまた、最高なんですねぇ♪ あぁ、ズート・シムス、あんたは何時だって最高だぜっ! その歌心、絶妙のウネリ、ソフトな音色とハードドライブなノリには、毎度、感涙です。
 そして再びカーティス・フラーが登場、負けじと4ビートの真髄を追求してくれるのですから、全く、こたえられない演奏です♪ もちろんトミー・フラナガンも趣味の良いピアノをたっぷりと聴かせてくれますし、ジミー・メリットのベースも豪放さが快感です。

A-3 Willow Weep For Me
 通常は粘っこいノリで演奏される黒い雰囲気のスタンダード曲を、ここでは軽く陽気なテンポで処理していますので、いきなり暢気にテーマを吹奏されると拍子抜けするのが、本当のところだと思います。
 ところが、それにすっかり馴染んでいると思われたカーティス・フラーが、アドリブ・パートに入ると豹変して黒~いフレーズとノリを全開させます。
 リズム隊も強靭なジミー・メリットのベースを中心として、完全にゴスペル色に染まっているのですから、たまりません。後半はズート・シムスまでもが我を忘れる展開になるのでした。

B-1 One Note Samba
 ボサノバの代表的な曲を烈しいビートで演奏するあたりが、やはりハードバップ専門家の凄みでしょう。イノセントなボサノバ・ファンは、このリズム処理には激怒か、仰天でしょうねぇ……。
 しかし、ここでの演奏は熱く、別の意味で南米的な解釈になっています。カーティス・フラーは十八番のフレーズばかりで勝負していますし、いささかバタバタしているドラムスとベースを尻目に軽快なノリを披露するトミー・フラナガンも流石だと思います。

B-2 Wee Dot
 何と、これもトロンボーンの神様=J.J.ジョンソンが自作して十八番にしているブルースに、カーティス・フラーが果敢に挑戦という趣向です。
 ここでは初っ端から猛烈な勢いで演奏がスタートし、まずズート・シムスがドライブ感満点の荒っぽさ! 続くカーティス・フラーは、またまたモールス信号ですが、少しずつ難しいフレーズを繰り出していくという、いささかズルイ手を出しています。しかし憎めないんですねぇ~♪
 全体的に、如何にもハードバップというラフな演奏ですが、それでも乱れていないところはリズム隊の上手さに他なりません。そこを中心に聴いて正解だと思います。デイヴ・ベイリーの地味で堅実なスタイルが、逆に素晴らしいのです。
 もちろんトミー・フラナガンも熱演ですし、ジミー・メリットは大波の如し!

B-3 Autumn Leaves / 枯葉
 いきなりズート・シムスが悠然とテーマを吹奏、それに絡むカーティス・フラーが、また快感を生んでいます。おまけにサビではそれが逆転するという、またまた甘く切ない仕掛けがニクイところです。
 そしてアドリブ先発のズート・シムスが大名演! カーティス・フラーも負けじと本領発揮のハスキーな泣きを聞かせてくれます。
 う~ん、それにしてもこのアルバムは、完全に日本人が好きな曲・演奏ばかりだと思います。まさか当時、そんな事は意識していなかったのでしょうが、やはり怖ろしい偶然はあるものです。このアルバムによってジャズ地獄に引き込まれる人は、かなり多いのではないでしょうか……?
 で、ここでもリズム隊が好演で、ジミー・メリットが大技・小技の連発でアドリブ・ソロを披露すれば、トミー・フラナガンは絶妙のコードで味付けの勝負、さらにデイヴ・ベイリーは実直なスタイルの真髄を♪
 当にアルバムのラストを飾るに相応しい名演だと思います。なによりも気負っていないところが、素敵ですね。

ということで、これは名盤というよりも人気盤です。それは何よりも選曲が魅力ですし、また参加メンバーも充実しているのですから、これで演奏がつまらなかったら詐欺罪適用でしょう。

哀しいかな、後年、日本のレコード会社はこれを真似たような企画、つまりオールスターのメンツに人気曲を演奏させて売らんかな! という姿勢を見せました。それは確かに魅力的ですが、あまりにも自意識過剰な出来に、イノセントなジャズ者は抵抗をみせたのものです。

それがこのアルバムには感じられないと言うのは、私の思い込みに過ぎませんが、この楽しく陽気な雰囲気を、皆様にもぜひとも味わっていただきたいと思います。  

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没頭盤

2006-05-15 18:10:16 | Rock

仕事にはトラブル続出、だれも真相が分かっていないのか?

という嘆き節が続きそうなので、気分転換に没頭出来るアルバムを選んでみました。身も心も捧げて、なお、気持ち良いです――

Caravanserai / Santana (Columbia / Sony)


ジャズロックかロックジャズか、とにかくロックとジャズが急接近していったことで誕生した名盤は、圧倒的にロックの方が多いように思います。

それはジャズロックは商業的意識が強いのに反して、ロック側はさらなる高みを希求したからとするのは、穿ちすぎではありますが、ジャズ側からすれば常に馬鹿にする対象だったロックから、従来のジャズを凌駕する作品が次々に生み出されることには、心中穏やかではなかったはずです。

本日の1枚は、そんなロックの大傑作で、ジャズを吸収して見事に消化した名作です。その主人公はギタリストのカルロス・サンタナが率いるラテンロック・バンドのサンタナ! 発売されたのは1972年、う~ん、その基本姿勢を崩さずに、公式デビューからほぼ3年でこの高みに到達したことは驚異です。

メンバーはカルロス・サンタナ(g) 以下、ニール・ショーン(g)、グレッグ・ローリー(key)、トム・コスタ(key)、ダグ・ローチ(b)、マイク・シュリーヴ(ds)、チェピート・アリアス(per)、ミンゴ・ルイス(per)、アーマンド・ペラザ(per)、ハドリ・キャリマン(ts,fl) あたりの所謂サンタナ・ファミリーを中心に大勢のゲストが参加しています。というもの、実はこの当時のサンタナは解散状態でオリジナル・メンバーは散逸状態、新メンバーによるグループ再編の時期だったのです。

しかし内容は素晴らしい! 何度聴いても圧倒されます――

A-1 Eternal Caravan Of Reincarantion
A-2 Waves Within / 躍動
A-3 Look Up / 宇宙への仰視
A-4 Just In Time To See The Sun / 栄光の夜明け
A-5 Song Of The Wind / 風は歌う
A-6 All The Love Of The Universe / 宇宙への歓喜

 A面には上記6曲が収められていますが、曲間は無く、LP片面がメドレー状態というか、1曲が終わると次の曲がそこに被ったりして始まるのです。
 まず初っ端が、いきなり虫の音です! そしてそこへ不気味なサックスとウッドベースの蠢きが被さり、えっ、これがサンタナ? という雰囲気に仰天させられた当時の記憶が、今聴いても、まざまざと蘇ります。
 演奏は少しずつリズミックなものに変化していきますが、なんとなく電化時代のマイルス・デイビスのトランペットが流れてきそうな……。
 で、そうこうしているうちに、躍動的な打楽器を伴ったカルロス・サンタナの野生のギターが叫びだして2曲目がスタート! 独り天空に飛翔して消えていく次の瞬間、おぉ、これぞサンタナっ! というワイルドなラテンロックが爆発し、まず妖しいオルガンの蠢きにカルロス・サンタナのギターが泣いて応えるという、最高の展開になります。ただし、まだまだ演奏は押さえ気味……。
 4曲目に入って演奏はようやく本性を表したボーカル入りのサンタナ・ミュージックになるので、ファンは一安心♪
 そして次がA面のハイライト「風は歌う」です! あぁ、この伸びやかなギター、歌心満点の快楽的なギターは驚異的です! この瞬間を迎えるためにだけ、今までの演奏があったというような、それほど素晴らしい演奏です。この「サンタナ気持ち良いモード」は、この後もライブでは度々使われる十八番となり、例えば他流試合では、エリック・クラプトンやジョン・マクラフリンという達人ギタリストをも屈服させる優れものです。あぁ、何時までも聴いていたい……♪
 という快感の嵐が過ぎ去って、次に襲い掛かってくるのが、暴虐の名曲「宇宙への歓喜」です。最初は大仰な雰囲気ですが、清々しいボーカルと躍動的なリズムが呼び水となり、演奏は白熱してタイトルどおりに宇宙的な広がりに展開していくのです。大暴れするダグ・ローチのベースも凄いですが、ここでは当時、若干17歳だったニール・ショーンのギターも炸裂し、グレッグ・ローリーと丁々発止のバトル大会! その背後ではマイク・シュリーヴのドラムスも大爆発です。
 肝心のカルロス・サンタナは最終パートでようやく登場して、あの官能のギターを聴かせてつつ、演奏は消えていくのでした。

B-1 Future Primitive
B-2 Stone Flower
B-3 La Fuente Del Ritomo / リズムの架け橋
 B面もA面同様、最初の3曲が繋がっています。
 まず、いきなり始まる宇宙空間的なキーボードの響きには、これってウェザー・リポート? と思わせておいて、高速パーカッションの嵐が!
 そして続く2曲目には、アントニオ・カルロス・ジョビンの名作が登場しますが、歌詞はカルロス・サンタナとマイク・シュリーヴがつけたもののようです。
 とはいえ、ここでの演奏は密度が濃く、明らかに新しいサンタナの姿を示しています。それはアフリカとブラジルの混血的なラテンロックで、リアルタイムで聴いた時には違和感があったのですが、今日の耳には大変に心地良いものです。その秘密はウッドベースの使用にあるのでしょうか……? それゆえにジャズ色も強く打ち出されていますが、そう思っていると、いきなり始まるのが高速ラテン曲「リズムの架け橋」です。
 もちろん、そのタイトルどおりにラテン・パーカッションが大爆発! 定型リフのピアノのリズムも隠し味となり、カルロス・サンタナのギターが左右前後に飛び交って、トム・コスタのエレピの名演を引き出すのでした。

B-4 Every Step Of The Way / 果てしなき道
 前曲がフェードアウトして、ようやくこのアルバムでは「間」が生まれました。そしてその一瞬の沈黙を破って始まるのが、大団円のこの曲です。
 ここでもウッドベースが使用され、執拗な絡みを聞かせるラテン・パーカッションと蠢く2本のギターが熱気溢れるボリリズムを形成していくのです。もちろんマイルス・デイビスのトランペットが流れてきても不思議が無い雰囲気です。
 しかし実際には、その頂点で突如流れが早くなり、カルロス・サンタナのギターが楽園から宇宙の果てに、突風の如く突っ込んでいきます。そしてさらに凄いのが打楽器の競演と何時の間にか被っているオーケストラの存在の強さ! ここで踏ん張るカルロス・サンタナも強烈ですねっ♪

ということで、出来すぎの作品です。それゆえに初期3枚のアルバムに濃厚に漂っていた妖しい色気が失われ、直裁的なエロスに転換されたというか、ある種のモロ見え演奏になっています。

もちろんそれは魅力的、且つ刺激的なので、これがサンタナの最高傑作と賞賛されることに、やぶさかではありません。

そしてサンタナは、これ以降、ますますジャズ・フュージョンの道を邁進していくのです。しかしそれは、必ずしも聴いて楽しい演奏にはなっていないと思います。

その意味で、このアルバムこそ分岐点に置かれた問題作! つまらない名盤という側面さえありますが、アナログ盤時代にはA面を堪能し、次にB面に盤をひっくり返すという儀式をあってこそ、完結の呈を成す名作だと思います。

ちなみに現在、日本盤CDが紙ジャケット使用で再発中♪ リマスターも素晴らしいので、激オススメです。

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豪放!

2006-05-14 14:41:52 | Weblog

今日は「母の日」です。皆様、お母様にプレゼントを、ねっ♪ 感謝の言葉のひとつでもいいわけですよ。

それにしても「母の日」は輝いていますが、「父の日」の影の薄さよ……。

ということで、本日は元気の出る、豪放な、これをっ――

A Day In Copenhagen / Dexter Gordon & Slide Hampton (MPS)

正統派モダンジャズがフリージャズやロック&ポップスに食い荒らされた1960年代後半、それでもジャズに拘りぬいたベテラン達の多くが、欧州に活躍の場を求めたことは正解でした。

そこではライブばかりでなく、素晴らしいアルバム製作も行われたのですから♪

この作品もそんな1枚で、録音は1969年3月11日、メンバーはディジー・リース(tp)、スライド・ハンプトン(tb)、デクスター・ゴードン(ts)、ケニー・ドリュー(p)、ニールス・ペデルセン(b)、アート・テイラー(ds) という実力派が勢揃い♪ もちろんタイトルどおり、コペンハーゲンのスタジオでのセッションです――

A-1 My Blues
 いきなり快調なテンポでリズム隊がペース設定、ここはケニー・ドリューが主役ですが、ニールス・ペデルセンとのコンビで作り出されるグルーヴは、欧州系ハードバップではお約束のノリ♪ つまりこの頃の「時代の音」になっています。しかもここではドラムスが本物のハードバップを叩けるアート・テイラーということで、ズバリと核心をついた演奏になっています。
 そして続けて3管による豪快なテーマ吹奏からデクスター・ゴードンが悠々自適なアドリブを展開すれば、気分は完全にグルーヴィです。う~ん、それにしてもアート・テイラーは良いですねっ! この人はもっと評価されてもいいドラマーだと思います。
 それに煽られてケニー・ドリューも気持ち良くスイングしていますし、ディジー・リースからニールス・ペデルセン、そしてスライド・ハンプトンへとリレーされていくアドリブソロは、全員が快調そのものです。

A-2 You Don't Know What Love Is
 モダンジャズはでは通常、スローテンポで演奏されるスタンダード曲ですが、ここではアップテンポで最高にカッコ良いハードバップに作り変えられています。
 そのアレンジはスライド・ハンプトンによるもので、この人はトロンボーンの豪快な演奏スタイルと同様に、作編曲面でも野太いところが特徴です。
 アドリブパートでは、まずスライド・ハンプトンが大暴れした後、デクスター・ゴードンが負けじと豪快なスタイルを披露し、ディジー・リースの引き締まったトランペットにバトンタッチされています。
 しかし最大の聴きものは、やはりこれぞハードバップという変奏されたテーマそのものでしょう。余韻と潔さが同居したエンディングも最高です。

A-3 A New Thing
 これまた痛快なハードバップで、作編曲はスライド・ハンプトン!
 アドリブパートはほとんどデクスター・ゴードンのツボを外さない一人舞台ですが、リズム隊も好演です。

B-1 What's New
 これもモダンジャズでは定番のスタンダードをハードバップにアレンジした秀逸な演奏です。アドリブパートはデクスター・ゴードンが堂々と先発を務め上げ、それを受け継ぐディジー・リースもジャズの雰囲気を大切にしています。この人はジャマイカ生まれのイギリス育ち、1950年代後半にはアメリカでも活躍した隠れ名手ですが、ここでは新しいフレーズも取り入れて頑張りを聴かせてくれます。
 演奏はこの後、スライド・ハンプトンからケニー・ドリューにソロが受け渡されますが、次に飛び出すニールス・ペデルセンのベースが凄すぎる快演です。

B-2 The Shadow Of Your Smile / いそしぎ
 これもモダンジャズの定番と言っていいでょう、デクスター・ゴードンの十八番でもありますから、ここは緩やかなムード満点で演奏されています。そしてリズム隊の素晴らしさも特筆物で、特に派手さを押さえたニールス・ペデルセンのベースが素晴らしいと思います。

B-3 A Day In Vienna
 大団円はド派手なリズムの豪快なハードバップ♪ もちろん作編曲はスライド・ハンプトンです。そしてアドリブ先発のデクスター・ゴードンが文句無しの豪放さを発揮すれば、ディジー・リースはドライなスタイルで応戦! 続くスライド・ハンプトンも大健闘しています。
 そしてリズム隊の素晴らしさ! 特にアート・テイラーは流石の快適なクッションで場を盛り上げていきますので、ケニー・ドリューはバカノリですし、ニールス・ペデルセンも遺憾なく驚異のテクニックを披露していくのでした。

ということで、これは往年のハードバップを、本場を遠く離れた地で再現した趣向と解釈していいんでしょうか? 形式的に再現したというには、あまりにも熱気ムンムンです!

実はジャズ史的には、このセッションの直後、ネオ・ハードバップ旋風が欧州から本場のアメリカへ吹き込んでいくのです。結局それはフュージョン・ブームには勝てませんでしたが、ジャズ喫茶文化のある日本では大歓迎されています。

このアルバムもその流れの中で、当時はジャズ喫茶の人気盤でした。個人的にもケニー・ドリューのグルーヴィなスイング感にKOされた記憶が鮮明ですし、このリズム隊でピアノ・トリオのアルバムを作って欲しかったと、今でも思っています。特に、繰り返しますが、アート・テイラーの真の凄みが良く出ていますねっ♪

ハードバップ好きには激オススメの1枚です。

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猫♪

2006-05-13 17:19:52 | Weblog

私は猫が好きです。理由は無いんですが。また猫=キャットとはジャズ者の意味も含んでいるとか♪

ということで、本日はこれを――

The Cat / Jimmy Smith (Verve)

ジャズはアドリブ命なので、ある意味では自分勝手、自己満足の音楽ですから、なるべく自由にやったほうが良い演奏が生まれると思われがちですが、超一流の演奏者には何の関係もありません。

例えばチャーリー・パーカー(as)、アート・ペッパー(as)、ウェス・モンゴメリー(g) といったアドリブの大名人は、ガチガチにアレンジされたストリングスやオーケストラとの競演しても、名盤と絶賛される作品を作っています。

では何故、個人芸のジャズにアレンジされたバック演奏が必要かと言えば、大衆性の追及が主なところでしょう。つまり口当たりを良くして売りたいという思惑です。ただし、ジャズ者は天邪鬼が多いので、あまりにも売れセン狙いだと逆効果! ですからその中で主役になろうとする者は、尚一層、アドリブ芸に命をかけねばならないというわけです。そしてこれは超一流の者だけが成しえることです。

本日の1枚の主役であるジミー・スミスは、その存在からして既に合格でしょう。なにしろモダンジャズにオルガンを持ち込んだ革命児として1950年代からブルーノートに夥しい録音を残し、その驚異的なアドリブ能力とジャズ魂、さらにゴスペルやR&B感覚がたっぷり染みこんだ演奏で、忽ち人気者になりました。

このアルバムは1960年代に入って移籍したヴァーブ・レコードで製作されたもので、ラロ・シフリンが作編曲したオーケストラをバックに、演奏は臨時のメンバーが主体ですが、ジミー・スミスが大爆発している人気盤です。

録音は1964年4月27&29日、リズム隊はケニー・バレル(g)、ジョージ・デュビビェ(b)、グラディ・テイト(ds) が中心となり、トランペットとトロンボーン、フレンチホルンを主体としたブラス陣がついています――

A-1 Theme From “Joy House”/ 危険がいっぱいのテーマ
 アロン・ドロン主演による同名映画の主題曲です。もちろん作曲は、このアルバムのアレンジを担当したラロ・シフリンということで、ここでの演奏も抜群の仕上がりです。
 ハードボイルドに蠢くリズム隊に導かれ、静々と登場して燃え上がっていくジミー・スミスのオルガンは、そのバックで咆哮するブラス陣との対比も鮮やかです。
 ラロ・シフリンは1970年代の「燃えよドラゴン」や「ダーティ・ハリー」のサントラで一躍有名になりますが、1960年代にも良い仕事を沢山やっています。

A-2 The Cat
 これもラロ・シフリンのオリジナルで、スピード感満点のテーマ・メロディは最高のカッコ良さです。リズム&ブラスのアレンジも秀逸ですし、ジミー・スミスのオルガンも完全無欠の物凄さ! ジャズロックとかソウルジャズとか論争する余地が全く無い、当にしなやかな猫の身のこなしを思わせる名曲・名演です。確か当時、シングル盤としても発売されていたので、皆様一度は聴いたことがあろうかと思いますよ♪ 切れ味鋭いブラス陣にもKOされるはずです。

A-3 Basin Street Blues
 ジャズの古典曲をじっくりと演奏するジミー・スミスのオルガンは、やはり最高です。元メロディの哀愁を大切にしつつ、要所で咆哮するブラス陣を振り切るようにアドリブに専念するジャズ魂は流石!
 ラロ・シフリンもそのあたりを充分把握して抜群のアレンジを施しており、全てが名演のこのアルバム中でも上位の仕上がりになっています。

A-4 Main Title From “The Carpetbaggers”/ 大いなる野望
 これも当時公開されていた映画から、エルマー・バーンスタインが作曲したテーマを演奏しています。
 ここでのアレンジはラテンビートも導入し、重苦しいブラスとシャープなリズムの対比の中で、スリルとサスペンスに満ちたジミー・スミスのオルガンが躍動します。そのアドリブはかなりハードで、全くアレンジに負けていません。

B-1 Chicago Serenade
 ケニー・バレルのギターがリードするテーマ・メロディは、何となく昭和歌謡曲です♪ フランク永井の「君恋し」を連想するのは私だけでしょうか♪ いゃ~、本当に良いですねぇ~♪
 主役のジミー・スミスも楽しそうにアドリブしてくれますが、もちろん日本人の琴線に触れまくりの泣きを連発! おそらく黒鍵モードなんでしょうねぇ♪ 絶妙な思わせぶりも交えて大サービスの演奏になっています。
 ケニー・バレルにレコード大賞をっ!

B-2 St.Louis Blues
 これもジャズの古典曲ですが、アッと愕く高速演奏にアレンジされています。もちろんジミー・スミスにとっては、かえって十八番のテンポですから大暴走はお約束! 指も体も動いて止まらないアドリブが展開されていくのでした。
 ラテン・パーカッション入りのリズム隊も躍動的です。

B-3 Deion's Blues
 タイトルどおり、俳優のアラン・ドロンに捧げたブルースです。アルバムの解説によれば、ジミー・スミスは欧州巡業の際にアラン・ドロンと交友があったらしく、ちゃんとアラン・ドロンのポートレートまでも載せています。もちろんそれはアルバム冒頭に収めた「危険がいっぱい」の関連もあるのでしょう。
 肝心の演奏はミディアム・テンポのグルーヴィな出来で、当にジミー・スミスが本領発揮! ラロ・シフリンのアレンジもツボを外していないカッコ良さです。

B-4 Blues In The Night
 確か「夜のブルース」というアメリカ映画のタイトル曲で、ダイナ・ショウの名唱があまりにも有名です。曲そのものはブルース形式ではありませんが、緩やかなブルース感覚がたっぷりなので、ジミー・スミスにとっても十八番の展開がたっぷり楽しめます。ドヨヨヨヨヨヨ~~、というタメのあるオルガン・フレーズが頻発され、また驚異の早弾きとプログレ感覚まである炸裂弾きは痛快ですねぇ♪ これがジミー・スミスです!

ということで、このアルバムは分かり易い演奏ばかりです。しかもキーワードはカッコ良さ♪ これにはどんな堅物の評論家の先生も、ケチをつけるスキなど有りはしないと思います。なにしろアレンジはシャープで厚みがあり、その中で奔放に弾けるジミー・スミスのオルガンは完璧! 1964年に発売されるや、忽ち世界中で大ヒットしています。

演奏技術的には相当に高度な部分が多々あると思いますが、ちっとも難しく聴こえてきません。むしろウキウキ、ワクワク、スリル満点、何度も言うけどカッコ良い! 私なんか高速ドライブの必需品としてカーステレオに常備しています。アクセル踏みすぎにご用心の1枚なのでした。

やっぱり猫は良いなぁっ♪

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過渡期の名盤

2006-05-12 18:21:00 | Weblog

仕事に追われ、全てにおいて余裕が無くなっています。

これじゃ、イカン……。そこで本日は和みの1枚を――

Blues Etude / Oscar Peterson (Limelight)

音楽でも文学でも、創作活動で偉大なるスタイルを築きあげた人の過渡期の作品は、意外と軽視されるものです。

本日の主役、オスカー・ピーターソンはジャズ史では並ぶ者が極僅かというピアノのバーチュオーゾです。そしてレイ・ブラウン(b) とエド・シグペン(ds) を入れて1959年から率いた自己のトリオは、常に完璧な演奏を披露して「黄金のトリオ」と称されました。

しかし1965年末に、まずエド・シグペンが脱退、続けてレイ・ブラウンもレギュラーから降りたことで、「黄金のトリオ」は崩壊……。そして長年在籍していたヴァーブ・レコードから新レーベルのライムライトへの移籍があり、慌しい中で製作されたのが、この作品です。

録音は1965年12月と翌年の5月、メンバーは12月のセッションがレイ・ブラウン(b) とルイ・ヘイズ(ds)、5月のセッションがサム・ジョーンズ(b) とルイ・ヘイズ(ds) という組合せですが、このアルバムはA面が後者、B面に前者という構成になっています――

A-1 Blues Etude (1966年5月4日録音)
 初っ端に収められたアルバムタイトル曲は、オスカー・ピータソンの作ったブルースですが、テーマ部分はクラシックの味が濃厚です。しかしアドリブ・パートでは一転、超アップテンポでウルトラ・テクニックのピーターソン節が全開です。
 ベースのサム・ジョーンズとドラムスのルイ・ヘイズは直前までキャノンボール・アダレイ(as) のバンドではレギュラーのリズム・コンビでしたから、ここでも息がピッタリ♪ オスカー・ピーターソンの要求にきちんと応えていますから、演奏は白熱していくのでした。
 う~ん、それにしても、このピアノは凄過ぎ~!

A-2 Shelley's World (1966年5月4日録音)
 穏やかなワルツ曲がシンプルに演奏されますが、ビートはなかなかに刺激的です。それは新たな相方となったサム・ジョーンズ&ルイ・ヘイズ組の黒っぽい味付けが秘訣のようです。特にルイ・ヘイズのブラシが素晴らしいですねぇ~♪
 もちろんオスカー・ピータソンは自由自在のノリをたっぷりと披露、後半には指でピアノ線を直に撫で回す裏技まで使いますが、迷いの無いサム・ジョーンズの存在感も流石です。

A-3 Let's Fall In Love (1966年5月4日録音)
 モダンジャズ・ピアノ・トリオでは定番のスタンダード曲ですが、オスカー・ピーターソンは、かなり高度なアレンジを施して、豪快に演奏しています。
 もちろん、このトリオに破綻はありません。それどころか、逆にさらなる高みへ飛翔しようとする勢いまで感じられる名演だと思います。
 特に、ここでもルイ・ヘイズが絶好調で、最初はネバリとキレのバランスが最高のブラシを聞かせ、途中でスティックに持ち替え、シンバルを主体にトリオをスイングさせていくところはスリル満点です。
 そしてラスト・テーマの変奏も素晴らしい限り!

A-4 The Shadow Of Your Smile / いそしぎ (1966年5月4日録音)
 お馴染みのスタンダードをボサノバで演奏するお約束は守られていますが、アドリブパートはファンキーな4ビートで盛り上がります。しかし前曲が素晴らし過ぎたので、やや、当たり前に聴こえてしまうあたりに、このトリオの凄さがあるんでしょうねぇ……。

B-1 If I Were A Bell (1965年12月3日録音)
 マイルス・デイビスが取上げてからモダンジャズの人気曲になったスタンダードですが、オスカー・ピータソンの解釈も流石です。
 かなりの高速で演奏されますが、ここからはベースが旧知の盟友=レイ・ブラウンになっているので、トリオ全体にリラックスしたグルーヴが生まれていると思います。しかしそれゆえにルイ・ヘイズのドラムスが、前任者のエド・シグペンに比べて物足りない雰囲気になっているところが残念……。

B-2 Stella By Starlight / 星影のステラ (1965年12月3日録音)
 モダンジャズでは定番中の定番スタンダード曲を、変幻自在に演奏するトリオの真髄が楽しめます。その要はもちろんレイ・ブラウンのベースで、要所を締めながらも自由闊達なサポートは流石です♪
 オスカー・ピーターソンもファンキーなフレーズを交え、さらに当たり前のように繰り出す驚異の早弾き、おまけに迫力のコード弾き! もう、矢継ぎばやに大技を連発しています。

B-3 Bossa Beguine (1965年12月3日録音)
 タイトルどおり、オスカー・ピーターソンが作曲した哀愁のボサノバです。しかし演奏テンポが速すぎるが勿体無いと、私は思います。
 ただしブレイクから全くのソロでアドリブを展開し、瞬時にベースとドラムスを従えて猛烈にスイングするオスカー・ピーターソンは、やっぱり凄い! 千変万化のリズムを要求され、必死で応えるルイ・ヘイズのドラムスも好感が持てます。

B-4 L'impossible (1965年12月3日録音)
 これもオスカー・ピーターソンが作った愛らしい名曲ですが、どこかで聴いたようなところが嬉しいですねぇ~♪ クラシックかなぁ~?
 で、演奏は快適そのもので、アドリブにはハードなところもあるのに、穏やかに和みます♪ 何回聴いても、飽きません♪ ボサ・ビートも素敵です♪ オススメです♪ 美味しい紅茶が欲しくなります♪

B-5 I Know You Oh So Well (1965年12月3日録音)
 緩やかなテンポでオスカー・ピータソンの一人舞台が楽しめる出だしから、絶妙のタイミングで滑り込んでくるレイ・ブラウンのベースが鮮やかです。
 ルイ・ヘイズも慎重なサポートに撤しているので緊張感がありますし、落ち着いた雰囲気の中に深~いグルーヴが感じられる名演だと思います。

ということで、どうなんでしょう、人気盤と言って良いんでしょうか? なにせオスカー・ピーターソンは残した演奏全てが名演・名盤という人ですから、人気盤はゴロゴロしており、それゆえに、このアルバムなんて目立たない1枚かもしれません。

オスカー・ピーターソン・トリオ自体も、これ以降、頻繁にメンバー・チェンジがあるので、とても「黄金のトリオ」には及ばないのが正直なところです。しかしライムライトの次に契約したレーベルのMPSでは、ヴァーブ時代に比肩する名盤を残しているところから、どうしてもライムライト時代は見過ごされ気味……。

とはいえ、これは文句無しに傑作盤だと、私は思います。実は文中でいろいろ書いたルイ・ヘイズの素晴らしさに気づかされたのは、このアルバムからでした。先に行われたB面でのセッションで聴かれた硬さが、5ヶ月後の録音を収めたA面では解れているのが分かります。

そして収録曲が魅力いっぱい♪ ぜひとも聴いてみて下さい。今の季節にピッタリです。

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スマートな情熱

2006-05-11 15:12:51 | Weblog

今日も、いろいろとドタバタやってます。スケジュールの狂い、思惑のハズレ、本末転倒……。ハレハレ~って雰囲気が充満していますので、これを聴いて、スカッとします――

Woodlore / Phil Woods (Prestige)

情熱のアルトサックスと言えば、フィル・ウッズとしか答えられません。この人は白人なんですが、モダンジャズを創生した黒人天才アルトサックス奏者のチャーリー・パーカーに心酔し、独自のスタイルを身につけています。

ですから同じ白人でありながら、リー・コニッツ(as) やアート・ペッパー(as) あたりとは決定的に違う魅力があって、それはズバリ、ハードバップの烈しいウネリです。

とにかく1回聴いたらギョエッ、となる猛烈さがあり、尚且つ、スロー物では情熱の迸りというか、文学青年的な歯が浮くような心情吐露が聞かれるのです。それゆえに分かり易く、また若干クサイ芝居のようなところもあるのですが、本日の1枚はキャリア初期の演奏とあって、それが若さゆえの暴走と許される魅力盤です。

録音は1955年11月25日、メンバーはフィル・ウッズ(as)、ジョン・ウィリアムス(p)、テディ・コティック(b)、ニック・スタビュラス(ds) というワンホーン編成です――

A-1 Woodlore
 いきなりズバッと飛び出すフィル・ウッズが痛快なオリジナル曲です。最初は何だかはっきりしないメロディラインなんですが、タメと泣きのフレーズが適度に入っており、リズム隊が送り出す刺激的なビートにノセられたフィル・ウッズは快調です。
 そのスタイルはチャーリー・パーカー直系ですが、師匠ほどのドライブ感も、またエキセントリックな天才性は、もちろんありません。しかしウネリというか、独自の聴かせどころは完成されています。
 それとリズム隊の溌剌度が素晴らしく、ジョン・ウィリアムスのピアノはホレス・シルバー調で、なかなか楽しめます。

A-2 Falling In Love All Over Again
 ハリウッド映画みたいなスロー曲が、じっくりと演奏されます。ここでもリズム隊が素晴らしく、それゆえにフィル・ウッズも安心してアドリブに専念しているようです。それは若い情熱の迸り♪ ただし、こういう曲調に必要な和みが、やや足りないようです。

A-3 Be My Love
 アップテンポで魅惑のメロディが奏でられていく、そのテーマ部分だけでKO必死だと思います。なにしろリズム隊が作るイントロがまず、抜群ですからねぇ~♪
 で、アドリブパートではブレイクから静かに、少しずつ盛り上げていくフィル・ウッズが流石です。かなりアウトしたフレーズも交えながら、基本は歌心を大切にして吹きまくるのですから、大したもんだと素直に驚嘆です。ドラムスとの対決からラストテーマを変奏していくところにも、上手さ表れていますねっ♪

B-1 On A Slow Boat To China
 このアルバムの目玉演奏がこれです。溌剌としたジョン・ウィリアムスのイントロに導かれ、フィル・ウッズが素敵なテーマをジャズ魂満点に吹奏し、そのままアドリブに突っ込んでいく、そこからはもう、興奮と感動の大嵐です。
 あぁ、このメロディ展開の上手さ、猛烈なドライブ感、泣きのフレーズも交えながらフィル・ウッズの突進は止まることを知りません。とにかく素晴らしいアドリブ・フレーズが、これでもかと溢れ出ています。
 そしてもちろんリズム隊も秀逸で、ジョン・ウィリアムスの活き活きとしたピアノからはビバップ王道の響きが感じられますし、ベースもドラムスも心から楽しく躍動しているのでした。
 さらにラスト・テーマを変奏するフィル・ウッズは文句なし!
 ジャズ史的にはソニー・ロリンズ(ts) の名演があまりにも有名な曲ですが、負けていません。

B-2 Get Happy
 ノッケから大爆発している演奏です。素材はスタンダードなんですが、もうそれは文字通りに素材でしかありません。アドリブ命というモダンジャズの真髄に挑戦するフィル・ウッズとバンドの面々は、当に火の玉状態です! このエキセントリックな雰囲気は白人が演奏しているとは思えないほどですが、実は泥臭いところが無く、あくまでもスマートな鋭さが魅力です。
 それにしても、これだけのアップテンポで乱れもせずに素晴らしいフレーズを連発するフィル・ウッズには無条件降伏するしかありません! クライマックスのドラムスとの対決も強烈です。

B-3 Strollin' With Pam
 ラストに相応しいファンキー調のブルースです。
 おぉ、なかなか黒~いフレーズが飛び出しますねぇ♪ その実態は、もちろんチャーリー・パーカーのフレーズを借りているのですが、そのウネリと思わせぶりなところは、フィル・ウッズが後々まで十八番とする独自のノリです。
 このあたりは同じチャーリー・パーカー直系の黒人アルトサックス奏者のルー・ドナルドソンと比較して聴くと、尚一層、鮮明になると思います。個人的な感想としては、ルー・ドナルドソンは陽気な黒っぽさが強く、フィル・ウッズには何を吹いても温か味が感じられるのです。ちなみにフィル・ウッズには、その名もズバリの「ウォーム・ウッズ(Epic)」という名盤もあります。

ということで、これは断然B面がオススメです。ジャズ喫茶でリクエストする時には、ぜひっ!

また、現行CDにはオマケとして別テイクが収録されていますが、中では「On A Slow Boat To China」のテイク 1 に捨てがたい魅力があると思います。

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熱気!

2006-05-10 18:53:37 | Weblog

今日は暑かったです。蒸し暑~い!

そこで――

The Cape Verdean Blues / Horace Silver (Blue Note)

ジャズはゴッタ煮音楽です。と、本日もいきなり極めつける私ではありますが、ゴッタ煮だって素材を活かした味付けがしっかりしていれば、一流料理になるのです。

ジャズの場合、その味付けがシンコペイションの妙、つまりリズムとビート、メロディと音符の兼ね合い、そして全体のノリという三位一体があってこそ、美味しい演奏になるのです。

このアルバムは当にそうした1枚で、基本はラテン・リズムでありながら、オフ・ビートなアクセントと擬似ロックなノリ、さらに哀愁のメロディを潜ませた演目の数々と、楽しくて深い内容になっています。

ちなみにリーダーのホレス・シルバーは1950年代のハードバップでは立役者のひとりで、ジャズ・メッセンジャーズから独立して以降、自己のハンドを率いてヒット作を連発していた黒人ピアニストです。その人気の秘密はリズミックなピアノと抜群の作曲能力、常に自己を曲げない左派的な演奏指向でしょうか。ズバリ、ジャズ的にカッコ良い人です。

録音は1965年10月1日&22日、メンバーはウディ・ショウ(tp)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ホレス・シルバー(p)、ボプ・クランショウ(b)、ロジャー・ハンフリーズ(ds) という当時のレギュラーに加えて、B面にだけ、天才トロンボーン奏者の J.J.ジョンソンが入っています。

A-1 The Cape Verdean Blues (1965年10月1日録音)
 ラテン・リズムの楽しい曲で、哀愁たっぷりのリフはポルトガルのモードでしょうか? 単純なリフを基本にしていながら、とにかく躍動的なホレス・シルバーのピアノは最高です。隙間を埋めるように絡み合うリズム隊が、また素敵♪
 その土台があるのでジョー・ヘンダーソンもリズムに対するノリで勝負のアドリブを展開しています。
 全体としては、ほとんどテーマの変奏に終始していますので、アッという間の4分57秒です。

A-2 The African Queen (1965年10月1日録音)
 テーマのリフは、なんとなく聴いたことがあるような……。あぁ、我国が世界に誇る天才ギタリストの寺内タケシがアドリブで多用するフレーズじゃないか……? あるいはチャーリー・ベンチュラのドラム・ブギーか?
 まあ、それはそれとして、全体に重苦しいムードが漂う中でジョー・ヘンダーソンが呻きます。この人は一応はコルトレーン派の第一人者なんですが、ここでは独自のヒステリックなフレーズも交え、さらにラストでは得意のサブトーンでフスススススス~、とキメてくれます。
 また続くウディ・ショウは熱血派の本領発揮! 内気な想いを、ここぞとばかりに吐露する瞬間がたまりません。もちろんバックのリズム隊も抜群の反応です。特にロジャー・ハンフリーズのドラムスが◎ですねっ♪
 そしてホレス・シルバーが気分はロンリーな呟きピアノで締めてくれますが、全体の暗~い雰囲気は、1970年代前半までのジャズ喫茶にドン・ピシャな演奏です。

A-3 Pretty Eyes (1965年10月1日録音)
 ワルツでファンキーな哀愁曲です。全体の大らかなノリは、ホレス・シルバーだけが醸し出すことの出来る得意技♪ アドリブ先発のジョー・ヘンダーソンは、そのあたりを大切にした熱演ですが、ウディ・ショウは我関せずの態度に終始して場を盛り上げていくところが痛快です!

B-1 Nutville (1965年10月22日録音)
 ここからJ.J.ジョンソンが加わっていますが、ノッケは大ハードバップ大会! 躍動的なラテン・リズムと4ビートの交錯する演奏は、本当に興奮度が大!
 もちろんアドリブの先発は J.J.ジョンソンで、そのド迫力の炸裂ぶりにはバックでリフをつける若手も仰天でしょう。続くウディ・ショウも必死の吹奏ですし、ジョー・ヘンダーソンも健闘していますが、やや気迫負けでしょうか……。それほどJ.J.ジョンソンが貫禄を聴かせてくれます。
 また大張り切りのロジャー・ハンフリーズのドラムスが印象的なリズム隊も強烈ですし、もちろんホレス・シルバーも爆発しています。

B-2 Boneta (1965年10月22日録音)
 これも、ややネクラ系の曲ですが、深~いラテン・グループがあるので意外に心地良いノリが楽しめます。
 まずホレス・シルバーが力強い左手のコード弾きを主体にペースを設定すれば、ジョー・ヘンダーソンが思わせぶりなフレーズを積み上げていきます。そして、やっぱり J.J.ジョンソン! この悠然たる存在感は凄みがありますねぇ。ですから続くウディ・ショウはチンピラ風情なんですが、そこがまた良かったりします。

B-3 Mo' Joe (1965年10月22日録音)
 これもアップテンポのハードバップなんですが、要所にキメのリフとブレイクがあるのでスリル満点です。
 まず J.J.ジョンソンがドギモを抜くような豪快なアドリブを聴かせれば、ジョー・ヘンダーソンはやや屈折したフレーズで応戦、ウディ・ショウも落ち着きを取り戻して熱い血潮の滾り! ロジャー・ハンフリーズの煽りも強烈です。
 そしてホレス・シルバーは十八番のガンガン響く左手のコード弾き、リズミックな右手のフレーズというシルバー節をたっぷり♪ シンコペーションが全く独自なんですよ、う~ん、凄いです!

ということで、全篇が迫力の演奏で占められていますが、特にB面がジャズ喫茶向けでしょうか。

実はこのアルバム発表当時のホレス・シルバーは人気が下り坂……。この作品の評価も高くありません。というか、評論家の先生方からは無視状態……。確かに内容はマンネリ気味で、例の大ヒット「ソング・フォー・マイ・ファーザー (Blue Note)」の二番煎じを狙った部分がミエミエですからねぇ……。

しかし個人的には好きです。藤原紀香みたいなジャケ写の美女も素敵ですし、熱帯の蒸し暑さがダイレクトに伝わってくるようなグルーヴを、ぜひとも、お楽しみ下さいませ。

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ソフトな硬派

2006-05-09 17:58:45 | Weblog

今日は暑かったですねぇ、午後3時頃に国道の気温計を見たら、28℃! 車の中はクーラー全開! そして聴くのはボサノバが定番ですが――

Stan Getz - Laurindo almeid (Verve)

軟弱そうで、実は硬派という人は大勢いますね。ジャズ界では白人テナーサックス奏者のスタン・ゲッツあたりが、そういう最右翼かもしれません。

それは歌物スタンダードばかりか、ボサノバを演奏してさえもです! 例えば聴いてほしいのがこのアルバムで、録音は1963年3月22日、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、ローリンド・アルメイダ(g)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、デイヴ・ベイリー(ds)、エジソン・マッシャード(ds,per)、ホセ、ソーレス(ds,per)、ルイス・パルガ(ds,per)、ホセ・パウロ(ds,per) あたりがクレジットされていますが、実際には正体不明のピアニストが参加していますので、確定的なことは言えません。

しかし演奏は極上♪ 何時聴いても、グッときます――

A-1 Menina Moca / 若い娘
 軽快なリズムに泣きのテーマ・メロディ♪ これをスタン・ゲッツはクールに熱いフレーズで歌い綴ります。いゃ~あ、本当に良いですね♪ メロディを縦横に展開させていくスタン・ゲッツは、甘さに流れることなく、かなり硬派なツッコミをいれてくるのですが、リズム隊が全く崩れないところも最高です。
 また相方のローリンド・アルメイダはナイロン弦の生ギターで応戦しますが、ここではテーマ・メロディをストレートに弾いて、尚且つ感動させてしまう、ある種の大技を披露しています。
 そして次に出るのが正体不明のピアニスト! 正直言ってヘタウマ系なんですが、妙に憎めません。おまけにそれを受けて、再びアドリブを展開しつつラスト・テーマに帰していくスタン・ゲッツには脱帽です。

A-2 Once Again
 アントニオ・カルロス・ジョビンが作曲した魅惑のメロディをスタン・ゲッツはクールに吹奏し、アドリブに入っても軽快なリズム隊の意図を理解しつつ、膨らみのある展開を聴かせてくれます。
 ローリンド・アルメイダは、ここでも元メロディの変奏に終始しますが、それがまた、良いんですねぇ~♪ つまり原曲が良すぎます♪

A-3 Winter Moon / 冬の月
 スタートから、これはムード満点♪ こんなん洒落たキャバレーで聴いていたら、もう、たまらんでしょうね……。もちろん隣の席には日活アクション系の女優さん、例えば芦川いづみとか南風夕子とか……♪
 しかしスタン・ゲッツは硬派です! かなり烈しい思惑を秘めたフレーズを吹いているのです。またローリンド・アルメイダも懐の深いソロを聴かせてくれるのでした。

B-1 Do What Yo Do, Do
 アップテンポで泣きのテーマ・メロディが提示されますが、ここはノッケからシビアなものを含んでいるようで、スタン・ゲッツが過激なノリを聴かせてくれます。ただしそれは奥底の話で、表向きには爽やかな力強さ♪ そこが天才性の表れかもしれません。聴き手は曲の終わりまで気を抜けない演奏だと思います。

B-2 Samba Da Sahra / サーラのサンバ
 ローリンド・アルメイダ作の名曲です。ややネクラなテーマをスタン・ゲッツが哀愁を滲ませて吹奏すれば、ローリンド・アルメイダは微妙なメジャーコードを混ぜて応戦していきます。う~ん、好きですねぇ、このメロディ展開と解釈は! 
 そして後半は、このセッションにおけるスタン・ゲッツのガチンコぶりが良く表れていると思います。

B-3 Maracatu-too
 アルバムの締め括りは陽気な打楽器の競演からハードなスタン・ゲッツが大ブローしていくという、なかなか迫力のある仕上がりになっています。おそらく、きちんと作られた曲というよりは、即興性を大切にしたジャム・セッションから生まれた曲なんでしょう。
 しかし演奏は鋭さがいっぱいです。ラストだからといっても、和みなんてありません。ここでも正体不明のピアニストが登場したり、またアドリブ全体がモードの解釈に基づいて展開されるところもあります。
 リズム隊も強烈です!

ということで、スタン・ゲッツのボサノバ物の中では、やや人気薄の盤なんですが、私は好きですねぇ~♪ かなりジャズ寄りでありながら、原曲メロディを大切にした演奏がたっぷりです。

それはローリンド・アルメイダの参加がミソでしょうか。

この人はボサノバがブームになる以前にブラジルからアメリカにやってきて、主に西海岸派のジャズメンと共演していたのですが、リーダー盤としてはかなり軟弱なムード系の作品を多数出しています。最近ではそれがソフトロックとかラウンジとかの括りで再発見されて人気盤化していますが、こういう硬派な作品も、ぜひ聴いていただきたいものです。

原曲メロディをストレートに弾いて、尚且つジャズにしてしまうところが、凄いです。

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