OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

名盤天国part-2

2006-08-10 19:23:17 | Weblog

暑いですね~、もう、こんな事しか書くこと無いし、もちろん日常の挨拶もおんなじです……。

寒くて雪の多かった今年の冬には、こんな日が来るなんて思わなくて、早く暖かくなればなぁ~、なんて贅沢タレていたわけですが、いや、全く自分の身勝手が身に染みまする。

ということで、本日も名盤天国、その2です――

Dippin' / Hank Mobley (Blue Note)

現在では人気盤の中の大定番として、ジャズ入門ガイドにも載っているこのアルバも、1970年代中頃まではジャズ喫茶でしか聴くことの出来ないブツでした。

説明不要の快楽的内容であるにもかかわらず、オリジナル盤はとっくに廃盤、また日本盤も出てない状況が長く続いていたのです。

したがってジャズ喫茶で聴いてレコード屋へ行っても買えないという不条理に、どれだけのファンが泣いたかしれません。それゆえに日本盤が出た時は、物凄い勢いで売れまくったのが、このアルバムです。

録音は1965年6月18日、メンバーはハンク・モブレー(ts) をリーダーとして、リー・モーガン(tp)、ハロルド・メイバーン(p)、ラリー・リドレイ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という今では夢の組み合わせです――

A-1 The Dip
 これぞブルーノートというべきジャズロック! 作曲はもちろんハンク・モブレーですが、ありきたりのブルース進行ではなく、「泣き」を含んだサビの展開がなおさら素敵♪ そしてその一抹の哀愁を滲ませたテーマメロディを引き立てるのが、ビリー・ヒギンズの素晴らしいドラムスを要にしたリズム隊です。
 あぁ、ノッケからこのグルーヴィな雰囲気には完全降伏です。
 アドリブパートの先発は、もちろんハンク・モブレーが分かり易くファンキーな歌心で盛り上げ、続くリー・モーガンは最初っから爆裂フレーズの連発です。そのキモはテーマに仕込まれたサビの展開の妙で、ここで自然についてしまう「泣き」のアクセントには、素直にシビレる他はありません。
 リズム隊もそのあたりは百も承知の好サポートで、ハロルド・メイバーンはモードを使いながらもラテンロックのグルーヴを大切にしたノリが痛快です。

A-2 Recado Bossa Nova
 出ました! 誰が何と言おうとも、このアルバムのウリはこの曲、この演奏です。
 全く快楽的なボサロックで、ジャズ喫茶でこのアルバムをリクエストする人は、皆、これが聴きたくて! と断言しても良いほどです。
 そうです、今でこそこの曲と演奏は有名になっていますが、1970年代にはジャズ喫茶の暗い空間でしか楽しむことの出来ない、秘められた快楽だったのです。
 肝心の演奏内容についても、私の稚拙な筆では表現出来ないほどの奥深さと快楽がびっしり詰まっています。なにしろハンク・モブレーは通常のボサノバとは別感覚のグルーヴを発散させていますし、リー・モーガンもラテンジャズの範疇を飛越えた激烈なノリで迫っています。
 もちろんその背後ではビリー・ヒギンズが白熱のドラミングで煽りまくりですし、なによりもそれに応えたフロントの2人が分かりやすい歌心に満ちたアドリブを聴かせてくれますから、ジャズ喫茶とはいえ、リスナーはもう大合唱してしまう瞬間まであるという、極みつきの悦楽地獄が待っているのです。
 そして真の立役者が実はハロルド・メイバーンで、そのピアノから発散されるラテンロックのグルーヴには、完全にKOされます。これでハロルド・メイバーンのファンになった人は数知れずでしょう。とにかく調子の良い伴奏から弾けるソロパートまで、もう最高っ♪♪~♪

A-3 The Break Through
 このアルバムについて「快楽的」と何度から書きましたが、この演奏こそ、そのハードな解釈とでも申しましょうか、典型的なハードバップの大ブルース大会が強烈なテンションのアップテンポで演奏されています。
 まず何よりもハンク・モブレーが書いたテーマが最高にカッコ良く、そのスピード感に満ちた部分が見事にアドリブパートで活かされています。それは「モブレー節」の大サービスであり、タメのモタレのコンビネーション、一転して流れて止まらない流麗なフレーズと、当に千変万化の完成度です。
 またリー・モーガンも、お約束のフレーズを使いつつもリズムに対する先鋭的な感覚を大切にしたソロを聴かせてくれますし、ハロルド・メイバーンは楽しいマッコイ・タイナーという美味しさです。
 演奏はクライマックスでビリー・ヒギンズとの対決で白熱のソロ交換となりますが、全く好調なセッションの成果が存分に楽しめる仕上がりです。

B-1 The Vamp
 B面に入ると、いきなりハードで重苦しいこの曲が入っていますが、それを吹き飛ばすのが絶好調のリー・モーガンです。その輝かしい音色とアドリブフレーズは、当にハードバッブの真髄で、これに刺激されたハンク・モブレーが密度の濃いフレーズを積み重ねて山場を作っていくあたりは、本当にジャズを聴いているなぁ、という自虐的な快感に溺れる瞬間でもあります。
 そしてこういう展開ならば俺に任せろっ、がハロルド・メイバーンです♪ その張り切り過ぎる寸前の弾け方は、自分の指がひとりでに鍵盤を彷徨い、異次元から魅惑のフレーズを連れてきてしまったかのような喜びに満ちているのでした。やばいっ、コルトレーンが出てきそうな……。

B-2 I See Your Face Before Me
 モダンジャズでは地味なスタンダード曲ですが、こういう選曲が如何にもハンク・モブレーらしいところで、実はマイルス・デイビス(tp) が名演を残しているところがミソになっています。
 しかし流石はハンク・モブレーです。この余韻が漂うテーマ解釈はイノセントなジャズの魅力がたっぷり♪ 寄り添うラリー・リドレーのベースもツボを押さえた素晴らしさです。
 そしてリー・モーガン! マイルス・デイビスとは全く異なる魅惑のミュート・トランペットが、ジンワリと心に染みてまいります。これも隠れ名演でしょうねっ♪ もちろんハロルド・メイバーンも繊細な味を披露しています。

B-3 Ballin'
 オーラスは烈しく楽しく、哀愁までもが漂うハードバップです。全体に仕掛けられたポリリズムの罠を完璧に叩き出すビリー・ヒギンズの凄さは言わずもがな、先発でアドリブパートに突入するハロルド・メイバーンも素晴らし過ぎです♪
 もちろん溌剌としたリー・モーガンの弾けっぷりも痛快です!
 そして我等がハンク・モブレーは、何故か悠々自適と最後に登場し、煮え切らないフレーズばかり積み重ねて行きますが、それが如何にもハンク・モブレーらしく、ラストテーマの爽快さを引き立てるのでした。

ということで、これはジャズがこんなに楽しくていいんでしょうか? と自問自答してしまう大快楽盤です。製作された時期のジャズ界はモードからフリーの大嵐にジャズロックやコテコテ系ソウルジャズが入り乱れていた頃で、また何よりもビートルズを筆頭にしたロックが世界中を席巻していました。

そんな中で王道モダンジャズだって快楽的で何故悪い? と開き直る前に、自然体でそれをやってしまったハンク・モブレーという構図が、このアルバムから素直に聞きとれます。

ただ、そんな素晴らしい資質が「お気楽」と受け取られ、ハンク・モブレーが軽く見られたのも、また事実でした。このアルバムが本国で早々に廃盤となったのもその所為かもしれません。

しかしジャズ喫茶という日本独自の素敵な文化の中で、このアルバムは生き続け、ますます強い生命力を発揮していたのです。

後年、健康を害して逼塞していたハンク・モブレーが一時的にカムバックした時、ある評論家の先生がインタビューでこのアルバムの日本での人気を持ち出したところ、何と本人はこのセッションについてすっかり忘れていたという伝説が残されています。

そんなハンク・モブレーの終り無き日常と自然体が、私にはたまらなく愛しいのです。

また、このアルバムは、マイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー」がそうであるように、このセッションに参加したメンツでなければ表現出来なかった演奏だと思います。誰一人替わっても、このグルーヴは再現不能! そんな唯一無二の楽しさを素直に味わうのが、音楽の魅力だと思います。

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名盤天国

2006-08-09 20:04:15 | Weblog

暑くてダウン寸前です。麦茶がぶ飲み状態から冷水シャワー天国、そして熱波の地獄行きと、そんな積み重ねで日が暮れて……。

疲労困憊には、こんな定番・大名盤が、分かっちゃいるけど快感です――

Now He Sings, Now He Sobs / Chick Corea (Solid State)

鳴り出すと、その場の空気が変わるという盤が、確かにあります。特にジャズ喫茶では、例えばジョン・コルトレーンの「ビレッジ・バンガード」はA面初っ端の「Spiritual」が鳴り出すと、なんかその場が本当に厳かになって、真剣に聴かないとバチが当りそう……。

本日の1枚もその類というか、バチこそ当らないものの、いきなり真剣勝負の場に放り込まれたような気分にさせられます。

録音は1968年3月、メンバーはチック・コリア(p) だけしかオリジナル盤のジャケットに明記されていませんが、他にミロスラフ・ビトウス(b) とロイ・ヘインズ(ds) が加わったビアノトリオの超名演が繰り広げられています――

A-1 Steps - What Was
 いきなり不安な色彩に満ちたチック・コリアのピアノが始まり、バックではかすかに打楽器が響いているところが、また悪い予感に満たされているのですが、すぐにリズミックな展開でモードがバリバリのアップテンポに突入していくあたりが、痛快です。
 そのキモはオカズが多くてメシが無いというロイ・ヘインズのドラムスです!
 また完全一人旅状態のミロスラフ・ビトウスのベースは、その軋みまでもが鮮明に録音れさていて、これまたエグミの強いプレイだと思います。
 つまり、あえてメンツをジャケットに記載しなくとも、聴けば分かるというあたりがモロなんですねぇ~♪ それにしても凄いリズムコンビです。
 肝心のチック・コリアはリズム的興奮を織込んで、さらに地獄まで突っ走る勢いですが、中盤からは思い直したように思索的展開に突入し、ここでロイ・ヘインズの亜空間ドラミングが炸裂します。あぁ、この小刻みなパルスビートは、全くこの人だけの持ち味で、最高です。
 そしてお膳立てが出来たところで、いよいよチック・コリアが十八番の地中海モードでの哀愁パート! これが「Waht Was」という曲なんでしょうか? とにかくアッという間に、その魔法にかかって呻くのはリスナーという仕掛けです。
 実際、ここは何度聴いても快感です♪ そして盛り上げきったところで、余韻を残しつつミロスラフ・ビトウスのベースソロに受け渡す頃には、感涙が滲むのでした。ズバリ、大名演だと思います!

A-2 Matrix
 快適なテンポの変形ブルースですが、テーマが内容している幾何学性がアドリブパートにも活かされているので、一筋縄ではいかない雰囲気です。しかしそこが見事にジャズ的な快感に直結しているんですねぇ~♪
 バックの2人も、次にチック・コリアが何をしてくるのか読みきったような余裕があり、しかし緊張感を失っていないところは流石、百戦錬磨の強者です。特にロイ・ヘインズは、名前だけはビバップ時代からの生き残りという雰囲気ですが、例えばジョン・コルトレーンとの最先端セッションやここでの強烈なツッコミで、ジャズ界では唯一無二のスタイリストと認識されました。

B-1 Now He Sings, Now He Sobs
 フリーに見せかけたスパニッシュモードが鮮やかな展開を聴かせる名演です。やはりチック・コリアには、これを出してもらわなければ納得出来ません。本当に良いフレーズの連発で、それは余韻とミステリアスな雰囲気の両立、厳しさと安らぎの交錯という素晴らしさです。
 ロイ・ヘインズのドラムスも鋭く、またミロスラフ・ビトウスも野太いグルーヴを発散して、トリオはどこまでも新主流派としての面目を模索していくのでした。もう、最高です!

B-2 Now He Beats The Drum - Now He Stops
 チック・コリアの限りなくフリーに接近したソロピアノから、少しずつ独自の秩序を模索していく展開がスリリングな演奏です。そして4分30秒目あたりから、ようやく入って来るベース&ドラムスの導きによって、チック・コリアが抜群のスイング感を発揮していく後半が、痛快です。
 というか、分かっていてもノセられてしまう快感があるんですねぇ~♪ これもこのトリオの上手いところです。しかし予定調和という事ではなく、ミロスラフ・ビトウスはそんなものは何処吹く風のツッコミを連発するのでした。もちろん、打ち震えるような繊細なペースソロが圧巻です。

B-3 The Law Of Falling and Catching Up
 これもフリー色が強い演奏で、静寂の中から蠢くベースやピアノの不協和音、さらに空間に穴を穿つような打楽器の響きが絡み合いながら、奈落の底へ一直線! トリオの完全な自己満足に、私は発狂寸前になるのでした……。

ということで、これはもう、名盤の中の大名盤! これなくしては現代のピアノトリオは成立しえないとまで断言出来ます。

もちろんそれはビル・エバンスが確立した方程式の発展形ではありますが、ビル・エバンスほどディープにならずとも、リズムやビートに変化を持たせることで万人が納得出来るというか、もっと広いスタイルでビル・エバンスを解釈していこうという姿勢が潔いと思います。

もちろんチック・コリアも天才ではありますが♪

そしてこの3人は1980年代に入って再度結集したセッションを持ち、ライブやスタジオで名演を残していきます。そしてそこでも全く妥協の無い演奏に終始して、ますますこのアルバムの存在価値を高めていくのでした。

近年はこの時のセッションから未発表曲も入れたCDが出ていますが、まずはオリジナル仕様で聴いてみて下さい。揺ぎ無い感動が押し寄せてきます♪ 

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メチャ暑!

2006-08-08 19:57:54 | Weblog

メチャクチャに暑い1日でした。仕事も様々にハードな局面が多く、甲子園球場の高校野球も乱打戦ばかりの荒れ模様でしたねっ! 若さって素晴らしいです。

なんか台風も接近中らしいですし、明日からは、またまた厳しい日が続きそうということで、本日はハードな1枚を――

Stan Getz Live At The Left Bank (Hyene)

発掘音源には、何時も心躍らされてしまいます。特に主役が故人の場合は、もう心から手を合わせたくなるようなブツが出てきたりしますから、ちょっと複雑な心境でもあるんですが……。

この音源はアメリカはボルチモアの有名ライブハウス=レフトバンクに残されていたライブテープからの発掘です。ちなみにこの店からの同趣向のブツとしては、過去にもリー・モーガン(tp)、ウィントン・ケリー(p)、フレディ・ハバード(tp) 等々の優良音源が出ていますので、このスタン・ゲッツ盤にも大いに期待したところです。

録音は1975年5月20日、メンバーはスタン・ゲッツ(ts) 以下、リッチー・バイラーク(p)、デイプ・ホランド(b)、ジャック・ディジョネット(ds) という、イケイケのリズム隊が参加しています――

01 Invitation
 何ともジャズ者の琴線にふれる哀愁のテーマが魅力のスタンドード曲で、ジョン・コルトレーン(ts) やアル・ヘイグ(p)、そしてジョー・ヘンダーソン(ts) 等々の名演が残されていますので、スタン・ゲッツにも大いに期待してしまいます。
 それはズバリ、天才による歌心の発露にですが、ここでは幾分テンポを速めながら、まずテーマのサビで思いっきり泣きます!
 しかしアドリブパートでは暗中模索というか、モヤモヤしたものを膨らませつつ、何と自らのゲッツ節を封印するかのような歌心放棄の一本道です……。
 なんとウェイン・ショーター(ts) 的なアプローチなんですねぇ……。
 それでも少しずつ天才の片鱗というか、真髄を聞かせていくのは流石と言えば、そのとおり!
 リズム隊も全く調子が出ておらず、スタン・ゲッツの一人舞台に終始した演奏です。

02 Untitled
 モード全開! ノッケからアップテンポでブッ飛ばしですが、完全にアドリブ真っ向勝負の演奏です。そしてこういうハードな展開になると、自らもそれにノメリこんでいくスタン・ゲッツの物凄さが! もう地獄のようなフレーズの連続で、流石のイケイケ・リズム隊も押され気味です。
 それでもリッチー・バイラークのソロパートになると、イキイキと自分達だけのノリを聞かせてくれるんですねぇ~♪ ジャック・ディジョネットはステックにブラシに千変万化の大活躍ですし、デイブ・ホランドは唯我独尊の一人旅ながら、ツッコミ所は心得たもので、このあたりは完全に1970年代ジャズの真髄です。
 そういえば、この3人にデイヴ・リーブマン(ts,ss,fl) を加えた「ファースト・ヴィジット(Philips)」なんていう日本製作の名盤もありましたですねっ!

03 Spring Is Here
 前曲の熱演で鳴り止まぬ拍手の中、スゥ~と始まる会心のバラード演奏です。もちろん主役のスタン・ゲッツは、もう天才の名を思うがままというメロディ展開の至芸を聞かせてくれます。
 それは単に歌心なんてものでは無く、幻想的でありながらシャープな素直さという素晴らしさです。等と自分でも上手く表現出来ないもどかしさが、本当に情けないほどの名演だと思います。
 そしてこれが本当に凄いのは、こんな名演が日常茶飯事という雰囲気ですねっ!

04 Litha
 昔の子分だったチック・コリア(p) が書いた名曲です。
 オリジナルは「スウィート・レイン(Verve)」というスタン・ゲッツ自身の名盤に入っていますが、複雑なリズムパターンを鮮やかにきり抜けていくアドリブがウリだったこの曲が、ここではどう料理されているかが聞き所と覚悟を決めていると、何とこれがウルトラ級の激しさでした!
 なにしろリズム隊が容赦無い雰囲気で襲い掛かってきますから、スタン・ゲッツも油断ならない強烈なフレーズの連発です。甘さなんぞは、微塵もありません。あぁ、怖ろしや!
 そしてフワッと突然の余韻を残してリズム隊に受け渡されるアドリブパートでは、まずリッチー・バイラークがチック・コリアも真っ青のモード節♪ デイブ・ホランド&ジャック・ディジョネットも鬼神のビートで波状攻撃です。
 演奏はこの後、スタン・ゲッツが再び変幻自在の名人芸を聞かせつつ、テーマの変奏に移るのでした。最後のラテングルーヴも楽しいですねっ♪

05 Lucifer's Fall
 ミディアムテンポのモード曲で、これもウェイン・ショーター風の曲調&展開になっています。
 しかし中盤からテンポを上げての高速4ビートにしていますから、最後にはスタン・ゲッツだけのアドリブ地獄に落とされるという仕掛けです。つまりここでも甘さが無いのですねぇ……。凄いんですが、ちょっと疲れてきます。

06 My Foolish Heart
 と嘆いていると、思わず唸るこの演奏が始まります。
 原曲はビル・エバンス(p) の名演があまりにも有名なスタンダードですが、ここでのスタン・ゲッツは、当にビル・エバンスのテナーサックス的展開とでも申しましょうか、まず素晴らしいイントロをつけているリッチー・バイラークがビル・エバンスどっぷりで、憎めません。
 肝心のスタン・ゲッツのテナーサックスはどこまでもディープに歌心を綴り、テーマに含まれている美旋律を徹底的に解明していくのですから、最高です♪
 告白すれば、最近の私は朝の一番に、この演奏を鳴らしているほどです。

07 Fiesta
 こうしてライブの現場をゲッツ色に染上げた後に演奏されるこの曲は、タイトルどおりに楽しいラテンジャズです。もちろん作曲はチック・コリアということで、スタン・ゲッツにも余裕というか安心感に浸りきって吹奏しているところがあり、それゆえに、やや気抜け気味ですが……。
 リズム隊もルーズな雰囲気でレイドバックしており、これはこれで楽しいんですが、ここまでが緊張感と厳しさに満ちた演奏の連続でしたからねぇ……。
 それでも所々にウェザー・リポートみたいなる瞬間があったりして、それなり発見と楽しさがあるのでした。

ということで、これはスタン・ゲッツの終りなき日常のひとコマ♪ まさか自分の没後に陽の目をみるなんてことは、考えていなかったと思われます。それゆえに自然体の演奏が楽しめるわけですが、この頃のスタン・ゲッツは何故かボサノバをやっていなかったというガチンコぶりが、嬉しいような哀しいような……。

録音もプライベート・レコーディングにしてはライン録りの優れものですし、演奏も厳しさがいっぱいですから、ハードなスタン・ゲッツがお気に入りの皆様ならば、聴いてみて下さいませ。

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連敗中

2006-08-07 20:12:28 | Weblog

ヤフー・オークションで3連敗中です。悔しい……。

しかも、内2回が同じ人に負けているんですねぇ……。

普通の感覚では欲しがらないブツのはずなんですが、世界は広いというか、同好の士に出会えた喜びもあるんですが、それにしても最初っから法外な入札をされては、太刀打ち出来んです……。

ということで、本日の1枚は――

The Dealers (Status)

「Mal Waldron with John Coltrane」と副題がありますが、特にグループということでは無く、ジャズでは定番のスタジオ・ジャムセッション物です。ちなみに発売した「Status」は、プレスティッジの傍系レーベル「NewJazz」の下で廉価・発掘作品を出していたところで、レコード会社あるいはレーベルという存在ではなく、プレスティッジ社内の一部門という扱いでしょうか。

このアルバムもそうした発掘音源というか、残り物を集めた様な感じですが、何せ製作されたのがモダンジャズ全盛期でしたから、侮れません。流石プレスティッジ! 縁のスタアが勢揃いです♪

収録されたセッションはA、B面にきちん分かれており、まずA面の録音は1957年4月19日、メンバーはビル・ハードマン(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ジョン・コルトレーン(ts)、マル・ウォルドロン(p)、ジュリアン・ユエール(b)、アート・テイラー(ds) という、つまり既に発売されていたマル・ウォルドロンのリーダー盤「マル2」のセッションからの発掘になっています――

A-1 Blue Calypso
 タイトルどおりに楽しいラテンジャズで、作曲はネクラのイメージがあるマル・ウォルドロンと知って仰天、聴いて楽しい演奏です。
 まずアート・テイラーのリムショットのラテンビートに乗ってマル・ウォルドロンが楽しくシンプルなテーマ~ソロを披露してペースを設定、続けてジョン・コルトレーンが暴れるところから快適な4ビートとラテンビートの交錯となりますが、これがなかなかハードバップしていて、素敵です♪
 続くビル・ハードマンも、特徴的な詰り気味の音色で快調に飛ばしていますし、ジャッキー・マクリーンは最初から激情の泣きじゃくりですから、たまりません♪
 そして再び登場するマル・ウォルドロンは、執拗に同じフレーズを繰り返すという十八番も入れて、当に情念のイタコ弾きですから、アート・テイラーは激怒のオカズと大車輪ドラムソロで鬱憤を晴らすのでした。
 う~ん、とても残り物とは思えないハードパップの隠れ名演だと思います。

A-2 Falling In Love With Love
 モダンジャズでは人気のスタンダード曲が、こちらの期待どおりに快適に演奏されます。
 テーマをリードするのは、この曲が得意のビル・ハードマンですから、そのまま突入する先発のアドリブは、俺に任せろという楽しいフレーズを連発しています。 そして続くジャッキー・マクリーンも独自の「泣き」を入れたハードバップの真髄に迫っていますし、ジョン・コルトレーンは危なっかしいところを逆手に取った未完成のシーツ・オブ・サウンドで、烈しく咆哮するのです。
 あぁ、このホーン陣の奮闘だけで大満足の演奏ですが、さらに素晴らしいのがアート・テイラーのシンバルとパワーに満ちた煽りで、これにはマル・ウォルドロンも張り切る他は無く、例の訥弁スタイルから不思議な歌心を披露してくれるのですから、数多い同曲のモダンジャズ・バージョンとしては屈指の演奏になっていると思うのですが……。

さてB面は完全なジャムセッションで、これも既に発売されていた「ホイーリン&ディーリン」というアルバムの別テイクを集めたものです。録音は1957年9月20日、メンバーはフランク・ウェス(ts,fl)、ジョン・コルトレーン(ts)、ポール・クインシェット(ts)、マル・ウォルドロン(p)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) という、新旧入り乱れの面白さがあります――

B-1 Dealin' (take-1)
 スローでグルーヴィな変態ブルースで、3管の響きが如何にもジャズっぽいところです。
 アドリブの先発はマル・ウォルドロンがネクラな心情吐露に終始しますが、所謂モールス信号弾きも聴かせてくれます。
 続いて出るフルートは、もちろんフランク・ウェスのお家芸! この人はカウント・ベイシー楽団のスタアとしての活躍の他に、こういうモダンジャズどっぷりのセッションでも多くの至芸を披露しており、これもそのひとつです。
 そして次はベテランのポール・クインシェットが登場♪ この人はレスター・ヤング(ts) の影響下にある、まあプレモダン派のひとりですが、なかなか良い味出しまくりですねっ♪ ブレスティッジにはジョン・コルトレーンと一騎打ちを演じたアルバムも残しています。
 で、お目当てのジョン・コルトレーンはダークな音色で落ち着いた中にも激情を迸らせる瞬間が、本当に熱いです。ウリのシーツ・オブ・サウンドも完成まで、あと一歩の呻きが痛切です。
 演奏はこの後、フランク・ウェスがテナーサックスに持ち替えて、小型コールマン・ホーキンスを演じ、再びマル・ウォルドロンがネクラを演じてテーマに結びつけています。

B-2 Wheelin' (take-1)
 如何にもハードバップという屈折したテーマから、アップテンポでジョン・コルトレーンが飛び出した瞬間、周囲はジャズそのものになる痛快さが魅力です。
 そして次にポール・クインシェット、さらにフランク・ウェスのテナーサックスが続き、この3者が短いコーラスでソロ交換を行うという、所謂テナーバトルの三竦みが展開されます。もちろん各々が超個性派ですから、リスナーは今、誰が吹いているか簡単に分かるので安心感があります。
 で、個人的にはジョン・コルトレーンに思い入れが強いのですが、その他の2人も引き立て役どころか、逆に目立つ瞬間があるのは、リアルタイムでの立場を鑑みれば当然ですねっ♪
 さらにここではマル・ウォルドロンが素晴らしいアドリブを聴かせてくれるのが、意想外の嬉しさ! 単音弾きの繰り返しからモールス信号、おまけにセロニアス・モンクも真っ青という不協和音の乱れ打ち! こうした積極性が出るのも、アート・テイラー&ダク・ワトキンスというハードバップ真打コンピの熱演の所為でしょうねっ♪ なかなか強烈な演奏だと思います。

ということで、残り物には福がある、というよりも、これがモダンジャズ全盛期の底力なんでしょう。

ハードバッブの隠れ名盤と断言させて下さい。

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渚の1枚

2006-08-06 16:30:41 | Weblog

昨夜から赴任地の海岸のキャンプ場で、身内や友人と過ごしています。

バーベキューでは、焼き枝豆が大ヒツト! 隣のグループへ次々に伝播するという快挙でした♪ あずき様、ありがとうございます。私は久々に良い顔が出来ましたです。

ということで、本日の1枚は――

Frank Rosolino (Capitol)

西海岸を中心に活動したフランク・ロソリーノは、明朗闊達派のトロンボーン奏者で、その演奏は常に爽快さに満ちています。

何と言うか、ノーテンキと紙一重の魅力がありますし、驚異的なテクニックから繰り出される早いフレーズは、楽しさが一杯♪ あくまでもジャズなんですが、ジャズに拘らなくても楽しんで聴ける演奏も魅力です。

その活動範囲はビックバンドの一員として、あるいは自分のリーダーセッションで、はたまたスタジオでの仕事まで含めて膨大なレコーディングが残されていますが、その芸暦で一番輝かしいのが、スタン・ケントン・オーケストラのスタアだった時期でしょう。

このアルバムはその当時、親分スタン・ケントンの肝煎りでキャピトルに吹きこまれたリーダーセッションを集めたもので、もちろん小気味良いウェストコーストジャズの真髄が聴かれます。

録音は1954年の3月と11月で、メンバーはサム・ノート(tp)、フランク・ロソリーノ(tb)、チャーリー・マリアーノ(as) というホーン隊は不動ながら、リズム隊が3月のセッションではクロード・ウィリアムソン(p)、カーティス・カウンス(b)、スタン・リーヴィー(ds)、11月のセッションではピート・ジョリー(p)、マックス・ベネット(b)、メル・ルイス(ds) という布陣になっています――

A-1 Ragamurrin (1954年11月6日録音)
 明るく快適なウェストコーストジャズの典型のようなテーマから、アドリブの先発はチャーリー・マリアーノのアルトサックスですが、これが強烈なパーカー・フレーズを織込んで素晴らしいです!
 そして続くフランク・ロソリーノは何の屈託も無い明るい吹奏♪ 隠れ名手的存在のサム・ノートがイマイチ調子を崩していますが、メル・ルイスのドラムスを要としたリズム隊の活躍で好演になっています。

A-2 Embraceable You (1954年11月6日録音)
 数多い名演が残されているスタンダードの人気曲を、フランク・ロソリーノは、通常よりは少し早めのテンポで、明るく爽やかに吹奏してくれます。チャーリー・マリアーノも、ほどよく泣いたフレーズを聴かせてくれますが、どこまでも明るさに撤した演奏なので愁いとは程遠く、そこが逆に良かったりします。

A-3 I'm Gonna Sit Right Down And Write Mysilf A Letter (1954年11月6日録音)
 これも快適としか言いようが無いアップテンポの演奏です。原曲はスローな解釈が多い哀愁系のスタンダードですが、全くフランク・ロソリーノの手にかかると、楽しいハードバップになってしまいますね。
 そう、これはハードバッブです。それはチャーリー・マリアーノのグルーヴィなアルトサックスに顕著で、当時、これだけ露骨にチャーリー・バーカーをやっていた白人も珍しいのでは?
 もちろんフランク・ロソリーノの駆け足っぽい早吹き、溌剌としたサム・ノートまでもが、とにかく素敵です♪

A-4 Freckles (1954年3月録音)
 ここではリズム隊が前3曲と変わっていますが、その所為か、ウェストコースト派の色合が強い中にも、黒っぽさが滲みでているようです。
 特にピアニストのクロード・ウィリアムソンが黒いですねっ♪ またスタン・リーヴィーも粘っこく、ベースのカーティス・カウンスは黒人ということで、文句なしです。まあ、そんなリズム隊にシビレている間に終わってしまうという短さが残念です。
 
A-5 Boo Boo Be Doop (1954年3月録音)
 これも快適過ぎるハードバップですが、サム・ノートが良いですねっ♪
 アンサンブルでも全体をリードしていますし、負けじと突っ込むフランク・ロソリーノ、チャーリー・パーカーを尊敬しまくるチャーリー・マリアーノも健闘! そしてリズム隊のグルーヴィなノリは、もう最高です。

B-1 Besame Mucho (1954年11月6日録音)
 これはもう、笑って許してもらうしか無い演奏です。哀愁を期待するとハズレます。とにかくこんな楽しい「ベサメ」も珍しいです。
 まず歯切れの良いラテンリズムに導かれて早いテンポで演奏がスタートし、手のこんだテーマでの絡みから、高速4ビートでアドリブパートをブッ飛ばすフランク・ロソリーノは、爽快の極み!
 続くサム・ノートも溌剌と淀みの無いトランペットの真髄を聴かせ、ピート・ジョリーのピアノはひたすらに楽しいのでした。

B-2 Linda (1954年11月6日録音)
 最初からオトボケの狙った楽しい演奏です。
 この和みのムードは白人ならではの洒落た感覚でしょう。特にフランク・ロソリーノは十八番の早吹きを聞かせながら、和みのフレーズも繰り出していますし、チャーリー・マリアーノのハードバッブに拘ったミスマッチが、また楽しかったりします。

B-3 Frank 'N Earnest (1954年11月6日録音)
 かなりハードなリズム隊に煽られたモダンジャズになっています。
 テーマには楽しさよりも素材としての価値が大きく、アドリブの材料としてバンド全体に引き寄せられている雰囲気ですから、チャーリー・マリアーノは大張り切りで大健闘! サム・ノートもスタン・ケントン楽団でならした名手ぶりを遺憾なく発揮しています。
 肝心のフランク・ロソリーノは、ややマンネリ気味のフレーズばかりですが、それが唯一無二の個性になっているのは、流石だと思います。
 これぞ、白人ハードバップ!

B-4 Carioca (1954年3月録音)
 アップテンポで楽しいラテンジャズです。というか、後年のアメリアッチ風なテーマ解釈が素敵ですねっ♪
 もちろんフランク・ロソリーノにとっては十八番の展開とあって、高速4ビートのアドリブ、さらにバンドアンサンプルでも大張り切り! サム・ノートも負けじとバリバリ吹きまくりです。

B-5 Yo Yo (1954年3月録音)
 これまたアップテンポの快演で、まさに何処までも走って行きたくなるような、青春の香りまでしてきます。

ということで、このアルバムには哀愁のスロー物なんてものは、ひとつもありません。唯、ひたすらに楽しく快適にブッ飛ばした演奏ばかりなので、家で聴いていると、ちょっと飽きてくるのが正直なところです。

しかし本日のように休日の海辺とか海岸線のドライブには、うってつけ♪ ウキウキワクワク、後は疲れて眠るだけ♪ そしてウタタ寝の後には冷たいビールに焼き枝豆♪ そんな夏の休日には、ぴったりの1枚でしょう。

これがアート・ペッパーあたりの演奏だと、ちょっと重いものが漂ったりして、そうもいかない雰囲気になりますから、ここでの楽しさ、ご理解願います。

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バーベキュー♪

2006-08-05 17:42:16 | Weblog

なんか本日もPCが不調です。プログのアップが出来ない…。

これは管理サイト側の問題でしょうか?

否な予感が……。

ところで、これから夜は海辺でバーベキュー大会なので、あずき様のプログで仕入れた「焼き枝豆」でウケを狙います♪

実際、最高の美味さですからねっ♪

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CDブレイヤーを買う♪

2006-08-04 18:19:52 | Weblog

12年ぶりにCDプレイヤー買いました。

自分にしては思い切って高級機に手を出したんですが、いろいろとあって自分の人生の行く末を思うと、誰が何と言っても買うと決めた結果です。

今、仮繋ぎして聴いてみたら、あぁ、私は今まで何を聴いていたのかっ!

そんな驚きと喜びに包まれて、久々に幸せです。

ということで、本日の1枚は休載です。

なにせこれからセッティングとか配線とかありますので、ご容赦下さい。

 

 

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レイドバック・グリ~ン♪

2006-08-03 18:08:55 | Weblog

真夏になりましたですね。

そして世間は夏休みモードということで、赴任地に借りている一軒家に家族や親戚がやって来ました。狙いは海や鮎釣らしいですが、無闇に遊んでばかりとは羨ましい限り……。

こっちは、汗だくで仕事なんだぞぅ~!

明日夜には友人一家もやって来る予定だし、こっちは怠惰を決め込む所存ですが、そこで、このアルバムを――

Am I Blue / Grant Green (Blue Note)

1960年代にブルーノート・レーベルの大看板となった黒人ギタリストのグラント・グリーンは、決して純粋なジャズを演奏していたわけではありませんが、逆にこれほど王道ジャズファンを喜ばせてくれる人もいないでしょう。

そのスタイルはブルースやR&B、ゴスペルに根ざしているのが明らかですが、グラント・グリーンの凄いところは、それを何の衒いも無くモダンジャズに変換させているところです。

その単音でバリバリと弾き出されるフレーズは分かり易く、しかも迫力があり、さらにハードバップばかりではなく、モードやフリーの領域までカバーしていく雑食性が強力です。

しかし私が一番聴きたいグラント・グリーンとはゴスペルどっぷりの演奏で、このアルバムはその色合がとても強い1枚になっています。

録音は1963年5月16日、メンバーはグラント・グリーン(g) 以下、ジョニー・コールズ(tp)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ジョン・バットン(org)、ベン・ディクソン(ds) という、ジャズ者にはなかなか気になる編成です――

A-1 Am I Blue
 いきなりホーン隊が唸り、ドラムスがドンドン、きます!
 しかし演奏は静謐なゴスペルムードがいっぱいで、中でもベン・ディクソンのドラムスの響きが、明らかにハードバップとは違うあたりがミソでしょうか。ジョン・パットンのオルガンのウネリも効果的です。
 肝心のグラント・グリーンは、その中で何時もよりは幾分センの細い演奏を聴かせてくれます。それは繊細というよりは、思わせぶりが満点で、聴いている私はグラント・グリーンが何時、本領を発揮してくれるのか? そればかり待ち続けるのですが……。
 続くジョー・ヘンダーソンは、スローな展開の中でソフトに黒い音色を満喫させてくれますが、これも消化不良ということで、実はこれといってソロパートが無いジョン・パットンのオルガンばかりに耳がいってしまうのでした……。
 あぁ、ゴスペル!

A-2 Take These Chains From My Heart
 陽気な哀しみの満ちたムードが素敵なゴスペルジャズです。
 ベン・ディクソンのイモっぽいドラムスは、おそらく演技でしょうが、ドドンパのアクセントで入ってくるホーン・リフにも、和みます。
 もちろんグラント・グリーンは何時ものグリーン節でアドリブを聴かせますし、実は密かに期待していたジョニー・コールズは、決定的な脱力ノリ♪ ジョー・ヘンダーソンのオトボケもたまりません!
 そしてジョン・パットンのオルガンは、間延びしたベースパートと緩~いグルーヴを満載して、私をレイドバックさせてくれるのです♪
 あぁ、心底、脱力! 気分は最高です。

A-3 I Wanna Be Loved
 これも厳かというよりは、ノンビリしたゴスペルジャズですが、秘められた哀愁がなんとも言えません。本当にハードなところが無く、演奏はひたすらに和みモードです。
 しかもジョニー・コールズの音程が危ないトランペットが、ここでは不思議と最高! グラント・グリーンはもちろん主役を務めていますが、ヤル気を疑うようなフレーズばかりです。そして実は、これが気持ち良いんですねぇ~♪

B-1 Sweet Slumber
 フニャフニャの出だしから、ここでも脱力モードが継承されたゴスペルジャズが展開されています。ハードバッブなんて、どこの国の音楽? と言わんばかりの雰囲気がたっぶりで、僅かにジョン・パットンが熱血ぶりを聴かせるのですが……。

B-2 For All We Know
 ようやくここに来て、少~し熱気が漂います。
 アドリブ先発のジョニー・コールズのバックではリズム隊がハードバップをやってくれますし、ジョニー・コールズ本人もマイルス・デイビスの物真似が冴えているのです。
 しかしジョー・ヘンダーソンは、得意のウネウネフレーズを繰り出しつつも、煮えきりません。なんだかこのセッションでは完全に調子を狂わされたというような言い訳に走っています。
 そしてグラント・グリーン! やっと本来の持ち味であるバキバキのピッキングと針飛びレーズを聴かせてくれるのですが……。

ということで、多分演目は有名ゴスペル曲ばかりなんでしょうが、それにしても不完全燃焼のアルバムです。おそらくこんなに脱力しているグラント・グリーンの作品も無いでしょう。

しかし不思議な魅力があるのも確かで、黒人ゴスペル本来の味のひとつが、こういうスタイルなのかもしれません。レイジーというかレイドバックというか……。

ですから私は仕事が終わって自宅に戻り、蒸し暑い部屋でビールを飲みながら怠惰に過ごしたい時には、これに決めています。

実際、アメリカ南部の田舎では、黒人達が家の前庭に椅子を持ち出して夕涼みしている光景が普通です。そんな時、傍らに置いたラジカセからは、こんな音楽が流れていた時もあったのでしょうか?

ちょうどこのアルバムの片面を聞き終える時間ぐらいで、何とも言えない気持ち良さに包まれてしまう私です。

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ジャズ喫茶盤

2006-08-02 19:55:42 | Weblog

今日も仕事に追われ、暑さにやられ、ヘトヘトです。

こういう時は冷房の聴いたジャズ喫茶で昼間から居眠りモードに入るのが一番なんですが、それは無理ということで、気分だけでもジャズ喫茶はこの作品で――

New Horn In Town / Richard Williams (Candid)

日本にだけ存在する「ジャズ喫茶の人気者」とは、つまりジャズ喫茶という独自の文化がなければ成立しえないレトリックです。

なんて、最初から私に似合わない書き出しで、この暑苦しい中、なおさら額に汗が滲むわけですが、本日の主役であるリチャード・ウィリアムスというトランペッターこそ、そういう人としか言えません。

なにせ歴史的な名盤を出しているわけでもないし、有名バンドで活躍したという履歴も無し、スタジオの仕事からビックバンドの一員となっての堅実な仕事もOKという、まあ、派手さとは無縁の人なんですが、時折あたるスポットライトの中では、本当にキラリと光る名手でもあります。

そのスタイルの根幹は、クリフォード・ブラウン直系ですが、もちろん本家ほどの力量はありません。しかしその真摯な演奏姿勢は、当に日本のジャズ喫茶にはピッタリの魅力に満ち溢れています。

このアルバムは1960年代初頭に先鋭的なジャズ作品の製作していた「キャンディド」というマイナーレーベルに残されたリーダー盤で、録音は1960年9月27日、メンバーはリチャード・ウィリアムス(tp)、レオ・ライト(as,fl)、リチャード・ワイアンズ(p)、レジー・ワークマン(b)、ボビー・トーマス(ds) という実力者が揃っています――

A-1 I Can Dream, Can't I ?
 初っ端から哀愁と和みのハードバップが展開されます。
 原曲は一応スタンダードですが、如何にもハードバップ的な臭いに満ちたメロディ展開があり、こんな選曲をするリチャード・ウィリアムスのセンスにグッときます。もちろん先陣を切るアドリブパートでも輝かしい音色で歌心を披露しますが、惜しむらくは、思い余って技足りず……。音程が危なくなっていたり、スケールアウトしたりというアラが目立ちます。
 また続くレオ・ライトのアルトサックスは艶やかな音色が魅力的ですし、リチャード・ワイアンズのビアノは小粒ながらスイング感満点という、如何にもジャズ者の琴線に触れる良さがありますねぇ~♪
 そしてリズム隊はレジー・ワークマンが豪腕の名手ぶりを遺憾なく発揮、さらにボビー・トーマスはビシッとスジの通ったドラミングが最高です。
 ということで、最初からリーダーだけが厳しい状況に追い込まれたような雰囲気ですが、そのヤル気というか、真摯な演奏姿勢は憎めません。

A-2 I Remember Clifford
 そのリチャード・ウィリアムスが私淑しているクリフォード・ブラウンに敬意を表するとと同時に、同系統のトランペッター達に果敢にも挑んだ演奏です。
 オリジナルの演奏はリー・モーガンの畢生の名演があまりにも有名ですが、トランペッターならば、誰しも一度は通らなければならない関門でしょうか、他にも優れたバージョンが多数残されていますから、リチャード・ウィリアムスの自信と熱意は相当なものだと推察出来ます。
 で、肝心の出来は、素晴らしい♪
 輝かしい音色で丁寧に吹奏されるテーマの膨らませ方、微妙な変奏が琴線に触れてきます。
 レオ・ライトのフルートも哀感がありますし、ボビー・トーマスの連続ブラシ攻撃も素晴らしく、リチャード・ワイアンズのピアノも良い味出しまくり♪
 そして最後にはリチャード・ウィリアムスが魂のテーマ吹奏!

A-3 Ferris Wheel
 一転してラテンリズムと4ビートが不思議に融合した変態ハードバップが始まります。作曲はピアニストのリチャード・ワイアンズですが、この人の感覚は捨て置けません。
 アドリブパートは、レオ・ライトの含みのあるアルトサックスから仕掛けのリフを挟んでリチャード・ウィリアムスへとリレーされますが、背後であおるリズム隊の野太いグルーヴが最高です。
 したがってリズム隊だけのビアノトリオになると、なお一層、この不思議な曲調が輝きを増すという、魔法のような演奏になっています。つまり完全に作者のワナに落ちたというわけですか……。いやはや、楽しい演奏です。

A-4 Raucous Notes
 アップテンポのド派手なハードバップです。
 アドリブ先発はドライブしまくるレオ・ライトのアルトサックス! この音色でこれをやられると、ジャズ者は必ずや気になる存在として、この人を認めてしまうでしょう。
 またリチャード・ウィリアムスも溌剌と突進、リチャード・ワイアンズも素晴らしいのですが、さらに凄いのがドラムスとベースの弾け方です♪ この豪放なノリは、このアルバムでは大きなウリではないでしょうか。
 クライマックスではドラムスとホーン陣の対決があり、もう辺りはハードバップ色に満たされていくのでした。ラストテーマに聴かれる刹那の突進力も強烈です。

B-1 Blues In A Quandary
 リチャード・ウィリアムスのミュートトランペットとレオ・ライトのフルートのコントラストが最高のテーマ吹奏が、まず魅力です。
 ミディアムテンポでグルーヴするリズム隊も素晴らしく、全くジャズを聴く楽しさに満たされた演奏になっています。

B-2 Over The Rainbow
 お馴染みの人気スタンダードが、定石どおり、スローで演奏されます。
 もちろんお目当てはリチャード・ウィリアムスの華麗なソロ♪ 輝かしい音色と丁寧な吹奏が本当に素敵です。もちろんそれは、クリフォード・ブラウンという天才を大いに意識したものですが、当然ながらその境地には至らないものの、そのどうしても届かない部分を必死で追求していく魂の熱さには、本物のジャズを感じてしまう私です。
 反面、続くリチャード・ワイアンズのピアノからは、意識的にそういう必死さを取り除いたクールな部分が聴かれます。しかしこれは、実は上手いコントラストになっていて、再び熱を帯びてラストテーマの吹奏に入るリーダーを盛り立てているようです。
 ズバリ、隠れ名演!
 
B-3 Renita's Bounce
 オーラスは叩きつけるような烈しいハードバップです!
 その要はボビー・トーマスの爆裂ドラムスで、この人は後年、末期ウェザー・リポートに参加するほど息の長い活動をした名手ですが、この演奏に限らず、このアルバムが成功したのは、ボビー・トーマスの参加ゆえではないでしょうか? とにかく全篇で素晴らしい活躍をしていますねっ! 絶妙な荒っぽさがあって、私は好きなんです。
 肝心のリチャード・ウィリアムスは溌剌とハードにスイングし、レオ・ライトはひたすらにドライブしていきます。ちなみにレオ・ライトもディジー・ガレスピーのバンドではレギュラーだった隠れ名手で、自己のリーダー盤ではハードバップからフュージョンに近いものまで、幅広い作風を聴かせてくれた実力者です。
 そして最後にはボビー・トーマスのパワー&ラフなドラムスが主役となり、このアルバム最後の花火を打ち上げるという仕掛けです。

ということで、なかなか素晴らしいハードバップ盤だと思うのですが、これがリアルタイムで一般的に売れたのかというと、おそらく否、だと私は思います。それは元々がマイナーレーベル作品ですし、参加メンバーも地味ですから……。

しかしわが国ではジャズ喫茶を中心にした隠れ人気盤で、長らく幻化していたこの作品が再発された時は、かなりの話題になった記憶があります。

それは存在がマイナーでありながら、反面、演奏そのものは一級品という、自分だけのS級盤になる可能性を秘めた部分に、ジャズ者が共感を覚えるからでしょう。少なくとも私はそうでした。

実際、ジャズ喫茶で聴くこのアルバムは格別なのです♪

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名盤今昔

2006-08-01 19:25:39 | Weblog

何だか仕事の予定が狂いっぱなしで、地獄になってきました。

アテとフンドシは向うから外れるとは、昔の人の言い伝えではありますが……。

ということで、本日は苦境に咲いた花一輪か――

Something For Lester / Ray Brown (Contemporary)

フュージョンの全盛期=1970年代後半の日本のジャズ喫茶では、逆に闇雲に4ピート物の新譜が歓迎されました。

それが新人であれ、ベテラン勢であれ、とにかく王道の4ビートを演じていれば良かった時代とも言えます。そこには妙な矛盾があるのは確かですが、「ジャズ喫茶」という独自の文化がある日本においては、見事に成立していた論理です。

で、実はその中から、新しい名盤と言うか、今日、新定番とされるアルバムが続々と生まれたのです。それは1980年代からの「新伝承派」ブームによる4ビートの本格的復権前の出来事として、忘れてはならないと思います。

つまりフュージョンがあって、初めて人気を集めた王道ジャズの作品があったという! もう少し具体的に言わせていただければ、モダンジャズ黄金期ならば、それほどの評価も得られなかったのではないか? という疑念がつきまとう……。

まあ、それはそれとして、確かに素晴らしい王道盤が、本日の1枚です。

録音は1977年6月22~24日、メンバーはシダー・ウォルトン(p)、レイ・ブラウン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という本格派ピアノトリオです――

A-1 Ojos De Rojo
 エルビン・ジョーンズのポリリズム入りラテンビートが炸裂する中、レイ・ブラウンが骨太のペースを響かせ、シダー・ウォルトンが哀愁のテーマを弾き綴るという、当に王道路線の演奏です。
 アドリブ先発はこの曲の作者であるシダー・ウォルトンが、流石に曲の構造とキモをしっかり掴んだ好演を聴かせますが、背後で暴れるレイ・ブラウンとエルビン・ジョーンズばかりに耳が行くのも、また事実です。
 実はこのアルバムが出た当時、私は大した期待もしていなかったのですが、それは失礼ながら、シダー・ウォルトンの参加ゆえのことでした。なんとなく、事勿れ主義に走っているのではないか……? という諦めムードが先に立っていたのです。
 ところが、それは完全に私の先入観念でした。グリグリと突っ込んで来るベースとドラムス、必死にそれに対抗するピアノという、理想的なトリオ演奏が現出されていたのですから、私は素直に脱帽する他はありませんでした。
 そして、フッと気がつくと、これはレイ・ブラウンのリーダー盤だったという、いまさらながらのオチがついていたのです。

A-2 Slippery
 グッと重いビートで演じられるゴスペルジャズとでも申しましょうか、ブルースフィーリングやゴスペル味が全開した、黒~い演奏です。
 シダー・ウォルトンのピアノもブロックコードを交えてガンガンやっていますが、不思議なことに、どこかしら淡白な雰囲気が漂うのは???
 こういう曲調ならば、もっとギトギトに演じて欲しいのですがぁ~!
 と嘆いていると、演奏は何時しかレイ・ブラウンの超絶技巧が披露されているのです。う~ん、やっぱり軽さが決め手なのか……? ちなみに作曲はレイ・ブラウンですが……。

A-3 Something In Common
 シダー・ウォルトンが作った不思議系のハードバップです。
 その演奏は、ほとんどがトリオの3者による絡みで進行し、エルビン・ジョーンズはブラシとステックの併用ですが、中盤からはグッとテンポ上げ、シダー・ウォルトンが十八番の展開に入ります。
 それは歌心があるんだか、無いんだか? という妥協しないハードさが特徴です。そしてそこが逆にジャズ者の琴線に触れるのですねぇ~♪

A-4 Love Walked In
 ピアノトリオには付物の有名ジャズスタンダード曲です。
 ここでは軽く演奏しているように見せかけて、内実はハードにスイングしているあたりが、大きな魅力です。とにかくグイグイ演奏を引張るレイ・ブラウンのウォーキングベースが圧巻!

B-1 Georgia On My Mind
 問答無用の有名曲で、とにかく元メロが良いですから、哀愁と泣きを含んだ展開はお約束です。
 もちろんここではスローな出だしから、じっくりとテーマを熟成させていくレイ・ブラウンのベースが驚異的な出来! そしていきなりテンポを上げて突っ走るシダー・ウォルトンにエルビン・ジョーンズが烈しく襲い掛かっていくという、4ビートジャズの醍醐味が味わえますし、クライマックスは長~いドラムソロです。

B-2 Little Girl Blue
 ちょっとオスカー・ピーターソン時代のレイ・ブラウンを彷彿とさせる演奏です。それはアレンジに顕著ですし、シダー・ウォルトンも何とかスケールの大きなプレイをしようと奮闘していますが……。
 あぁ、これがフィニアス・ニューボーンならばなぁ、なんて不遜なことが心を過ぎってしまうのでした。

B-3 Sister Sadie
 オーラスはホレス・シルバーの人気曲に挑戦した大ハードバップ大会です。
 ただしシダー・ウォルトンのピアノに、ややアクがないのが残念……。

ということで、今聴くと、何となく物足りない雰囲気が漂っている作品なのですが、リアルタイムではジャズ喫茶を中心に大ヒット! ここでの演奏展開を模倣したピアノトリオが続々と現れていきます。

特にシダー・ウォルトンは、元々、実力派としてリーダー盤も出していた人なんですが、ここでの演奏で確実にランクが上がったと思います。そのスタイルがコピーされるという認められ方も、ジャズ特有の現象でしょう。

しかし私は、これがシダー・ウォルトンではなく、フィニアス・ニューボーンだったら……? という願望と妄想を消すことが出来ません。このアルバムを製作したコンテンポラリー・レーベルには、レイ・ブラウン&エルビン・ジョーンズが件の天才ピアニストと共演した傑作盤が残されているのですから、もしかしたらレイ・ブラウンは、ここでもその再現を狙ったのでは……?

と、まあ、シダー・ウォルトンには失礼極まりない文章になりましたが、実際、これはフュージョン全盛期だからこそ、持て囃された盤ではないか? という疑念をどうしても払拭出来ない私です。

悪いアルバムではないのですが、今日聴いてみたら、どうしてもリアルタイムでの感動が蘇えらなかったということで、本日は暴言ご容赦下さい。

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