発掘音源の発売がますます充実する今日この頃です。
例えばこんなブツまでも――
■Bud Shank - Bob Cooper European Tour‘58 (Lonehill Jazz)
西海岸派サックス奏者の名コンビであるバド・シャンク&ボブ・クーパーが1958年に敢行した欧州巡業から、放送録音を集大成し、さらにボーナストラックとしてアメリカにおける珍しい放送録音をぎっしり詰め込んだ2枚組CDです。
主役の2人は白人らしいスマートな感覚と嫌味にならない編曲に加え、フルートやオーボエという、ジャズでは異端気味の楽器まで用いて楽しい演奏を聴かせてくれますが、ほとんどレギュラー化していたバンドもメンツが充実していた時期なので、大いに期待して入手した音源集です――
★Disc 1
01 Intro
02 Scrapple from the Apple
03 Intro
04 Stella by Starlight
05 Intro
06 Way You Look Tonight
07 Intro
08 'Round Midnight
09 Intro
10 Bag's Groove
まず上記10トラックが、1958年3月のデンマークにおけるラジオ放送録音で、メンバーはバド・シャンク(as,fl)、ボブ・クーパー(ts,oboe)、クロード・ウィリアムソン(p)、ドン・プレル(b)、ジミー・パロット(ds) という当時のレギュラーバンドです。
肝心の演奏はモダンジャズの定番曲「Scrapple from the Apple」が11分を越える熱演で、脱色されたパーカー・フレーズを用いるバド・シャンクのアルトとレスター派の面目躍如たる流れるようなキーワークが見事なボブ・クーパーのテナーが絶妙です。
そしてさらに凄いのがクロード・ウィリアムソンのビバップ丸出しのピアノ! 白人バド・パウエルと称されたジャズ魂の炸裂が痛快です。
そのピアニストを中心としたリズム隊だけの演奏が「Stella by Starlight」で、スローな展開からインテンポしてのスイングしまくりが、もう楽しさの極み♪
また「Way You Look Tonight」と「'Round Midnight」はボブ・クーパーがメインのカルテット演奏で、前者はテナーサックスで大熱演、後者はオーボエでじっくりと歌う、この人だけの「味」を聴かせてくれます。
番組フィナーレとなる「Bag's Groove」はバド・シャンクがフルート、ボブ・クーパーがオーボエを駆使した、若干スノッブなブルース演奏ですが、リズム隊が思いの他グルーヴィなので、モダンジャズとしての違和感がありません。これも13分近い熱演です。
11 Scrapple from the Apple
12 Way You Look Tonight
続く上記2曲は、同じ巡業時からスウェーデンにおけるラジオ放送音源で、メンバーは前述どおりで、演目内容も似たり寄ったりですが、やや音質に厳しいものがあります。ただし両曲ともに、かなりテンポアップされているので、刹那的なド迫力が楽しめます。ボブ・クーパーはヤケクソ気味ですが、クロード・ウィリアムソンは存分に炸裂しています♪
13 Walkin'
14 Tickle Toe
「Disc 1」最後の2曲は、やはり同じ巡業時のドイツでの放送音源です。
まず「Walkin'」は、かなり黒い雰囲気でパードバップがグルーヴィに演奏され、バド・シャンクがヒステリックな泣きを入れれば、ボブ・クーパーは悠々自適の構えです。
そしてクロード・ウィリアムソン! この人が良いですねぇ~♪ ネバリのあるノリにはハンプトン・ホース(p) に近いものが感じられます。ドン・プレルのベースソロも秀逸!
さて大団円の「Tickle Toe」はレスター・ヤング(ts) の大名演があるので、ここは当然ボブ・クーパーが主役となってのワンホーン演奏♪ レスター派のお手本のような演奏に終始しますが、こういうリスペクト物は、とやかく言うよりも、その真似っ子ぶりを素直に楽しむのが王道かと思います。そして、ズバリ楽しいのです。
★Disc 2
01 Do Nothin' Til You Hear from Me
02 Scrapple from the Apple
03 'Round Midnight
04 Way You Look Tonight
05 All the Things You Are
06 Nearness of You / Bag's Groove
さて「Disc 2」の最初の6曲は、「Disc 1」最後の2曲と同じ時の放送音源で、音質も当時としては普通の良好なものです。
まずデューク・エリントンのヒット曲としてお馴染みの「Do Nothin' Til You Hear from Me」がバド・シャンクのアルトサックスをメインにして楽しく演奏されますが、惜しむらくは最後がブチ切れのフェードアウトになっています。
また続く「Scrapple from the Apple」「'Round Midnight」「Way You Look Tonight」の3曲は、この巡業時の定番演目だったようで、「Disc 1」収録のテイクと大差無い出来ということで、このあたりに、このバンドの平均点志向というか、安心感と限界が見えているようです。
しかし「All the Things You Are」は、このアルバムでは初出の演目とあって新鮮な気分で聴けるということで、アルト&テナーのサックスの絡みが秀逸なテーマ演奏からボブ・クーパーの寛いだアドリブに、まず和みます。
またバド・シャンクはアート・ペッパーとリー・コニッツの中間のような、薄味スタイルで押し通しているあたりが潔く、好感が持てるのでした。
そして「Nearness of You / Bag's Groove」のメドレーは、バド・シャンクのフルートとボブ・クーパーのオーボエのコントラストが、やはり絶品です♪ 特に前半のスタンダード曲解釈では「胸キュン」系のフレーズの応酬がたまりません。ただし後半のブルースはバンドテーマというか、非常に短いのが残念……。
ということで、以上が1958年3月の欧州巡業での音源でした。そして以下はバド・シャンクを中心とした発掘音源がボーナス扱いで収められています。
07 All the Things You Are
1958年のロスにおけるライトハウス・オールスターズの演奏で、メンバーはショーティ・ロジャース(tp)、フランク・ロソリーノ(tb)、バド・シャンク(as)、ボブ・クーパー(ts)、ビクター・フェルドマン(vib)、ハワード・ラムゼイ(b)、スタン・レヴィ(ds) とされています。
演奏は快適至極で楽しさ満点、録音状態も良く、アレンジも最高なんですが、惜しむらくは3分42秒でフェードアウト……。ただし一応全員のソロが聴かれます。
08 Crazy Rhythm
09 Lover Man
10 Lamp Is Low
上記3曲は1956年11月26日に録音されたテレビ番組「ボビー・トゥループ・ショウ」からの音源で、メンバーはバド・シャンク(as,fl)、クロード・ウィリアムソン(p)、ドン・プレル(b)、チャック・フローレンス(ds) という、強力なワンホーン体制になっており、いずれも短い演奏ですが、密度が濃い出来になっています。
まず「Crazy Rhythm」は烈しいアップテンポで、バド・シャンクのビバップどっぷりのアルトサックスが楽しめます。もちろんアート・ペッパー(as) の後追いをやってしまうわけですが、あくまでも熱演の結果として、そうなっているだけという雰囲気が憎めません。またクロード・ウィリアムソンがバカノリです♪
続く「Lover Man」はビートを強めた仕掛けがあり、意外に力強いバド・シャンクの熱演が情熱的で、隠れ名演かと思います。
さらに「Lamp Is Low」は、まずフルートで幻想的なテーマ解釈を聴かせ、一転して高速4ビートのアドリブパートではアルトサックスで颯爽とブッ飛ばし! けっこう細かいアレンジも入れているあたりが、油断なりません。もちろんクロード・ウィリアムソンも最高♪~♪ 音質も良好ですので、映像も観たいところです。
11 These Foolish Things
12 Do Nothin' Til You Hear from Me
13 Polka Dots and Moonbeams
14 All of You
最後の4曲は1956年秋のニューヨークでのライブ音源で、メンバーはバド・シャンク(as,fl) とラス・フリーマン(p) 以外は不明というワンホーン・セッションです。
最初の人気スタンダード「These Foolish Things」はバド・シャンクの一人舞台でフルートの至芸がたっぷりと楽しめますが、ラス・フリーマンの伴奏もツボを押さえています。
続く「Do Nothin' Til You Hear from Me」は、バド・シャンク十八番とあって、ここでも快調♪ アルトサックスで独自の歌心を追求していますが、ラス・フリーマンがソロに伴奏に大活躍しているのが嬉しいところ♪ かなりファンキーなフレーズが出ています。
「Polka Dots and Moonbeams」は再びフルートを聞かせるバド・シャンクが、スローな展開で慎重にフレーズを積み重ねていきます。
そして最後の「All of You」もスローテンポで、ややリズム隊がダラけている所為か、バド・シャンクのフルートも冴えないうちに演奏が終了というお粗末でした。
ということで、発掘音源にありがちなバラツキもありますが、「Disc 1」のボブ・クーパーの好調さと、「Disc 2」のバド・シャンクの熱演が、西海岸ジャズ愛好者にはたまらないはずです。
このシリーズは他に2枚同時発売されており、それは欧州勢と共演した珍しい内容になっていますが、今回これを取上げたのは、個人的にクロード・ウィリアムソンが聴けるという点に尽きています。そしてその期待に違わぬ力演が記録されているのでした。