OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ブルースロックの保守本流

2010-04-10 16:09:30 | Rock

Couldn't Stand The Weather / Stevie Ray Vaughan (Epic)

驚愕のデビューアルバム「テキサス・フラッド」で一躍、ブルース&ハードロックのギターファンを狂喜させたスティーヴィ・レイ・ヴォーンが待望のセカンドアルバムで、これまた、ブルースというよりはロックギター最良の瞬間が、きっちり楽しめる秀作でした。

発売されたのは1984年の初夏でしたから、当時の流行音楽とは大きく立ち位置の異なるそういうスタイルは、リアルタイムでブルースロックに心を奪われていた青少年が大人になったその時、本当に掛け替えのないものだったのです。

もちろんサイケおやじも含めて、スティーヴィ・レイ・ヴォーンのレコードを率先して買っていたのは、そういう世代でしょう。しかし、この凄腕ギタリストの放出するエネルギーは、もっと若い世代にもアピールしていたことは確実でした。

 A-1 Scuttle Buttin'
 A-2 Couldn't Stand The Weather / テキサス・ハリケーン
 A-3 The Things That I Used To Be
 A-4 Voodoo Chile
 B-1 Cold Shot
 B-2 Tin Pan Alley
 B-3 Honey Bee
 B-4 Stang's Swang

演奏メンバーはスティーヴィ・レイ・ヴォーン(vo,g) 以下、前作と同じトミー・シャノン(b)、クリス・レイトン(ds) のダブルトラブルですから、その気心の知れたハートウォームな雰囲気が尚更にハードなブルース&ロックを提供してくれたものと思います。

とにかくA面ド頭の「Scuttle Buttin'」からして、激しく燃え上がるスピード満点のブルースインスト! というよりも、これは完全にロックインストでしょうねぇ~♪ 実は私のような者には全盛期のベンチャーズを想起させれる場面さえあるんですが、ちっとも古くなっていないそのフィーリングは、ベンチャーズとスティーヴィ・レイ・ヴォーンの普遍性を証明するものでしょうねぇ。僅か2分に満たない演奏時間の短さも流石です。

そして続くアルバムタイトル曲「Couldn't Stand The Weather」は思わせぶりなギターのイントロから、これはもう完全なハードロック! しかもキメになっているがスティーヴィ・レイ・ヴォーンの素晴らしいカッティングなんですねぇ~♪ これは実際にコピーに挑戦してみると痛感するんですが、ちょっと出来そうで、なかなか難しいんですよ。まあ、私の技量不足は言わずがなではありますが、もちろん間奏のギターソロも用意周到に展開されています。まさに邦題「テキサス・ハリケーン」に偽り無し!

その意味でジミヘンのカパーに敢然と挑んだ「Voodoo Chile」は、なかなか怖いもの知らずというか、無謀というか、その意図が良く分からないと言えば贔屓の引き倒しですが、やはりアマチュアバンドがそれをやるのとは立場が違います。

正直言えば、ジミヘンの唯一無二の凄さがますます際立ってしまう結果だったと思いますが、実際のライプステージでは常にやっていたそうですから、自らの存在意義を明確にしたかったんでしょうか……? あえて言えば、ジミヘンよりもジミヘンっぽいギターを弾きたかったのかもしませんねぇ。そういうところが絶対、憎めません!

そうした心意気は有名ブルース曲のカパー「The Things That I Used To Be」でも全開ですし、ジワジワとその場の空気に染み込んでいくスローブルースな表現が素晴らしすぎる「Tin Pan Alley」は、その刹那の甘さが後戻り出来ない境地かもしれません。本当にゾクゾクしてきますよっ♪♪~♪ ちなみに「Tin Pan Alley」はデビューアルバム「テキサス・フラッド」の最新リマスターCDにボーナストラックとしてアウトテイクが収められていますから、聴き比べも興味津々だと思います。

また正統派ブルースロックの「Cold Shot」や「Honey Bee」も安定感のある快演ですが、オーラスの「Stang's Swang」は、アッと驚くモダンジャズな自作のインスト!?! ゲストとしてスタン・ハリソン(ts) が加わっている所為もありますが、あえてライトタッチを心がけたような短い演奏が逆に印象的かもしれません。

ということで、全体としては幕の内弁当的なバラエティが、ブルースロックだけに限定されない音楽性を披露する目論見だったのでしょうか。しかしその中にあるブルースロックな本質が、尚更に強く感じられる結果は、深読みすれば大成功!

おそらくスティーヴィ・レイ・ヴォーンの人気は、このアルバムで決定的になったと思われます。

さて、現在発売中のCDには以下のボーナストラックが入っています。

 S.R.V Speaks
 Hide Away
 Look At Little Siste
 Give Me Back My Wig
 Come On (Part.Ⅲ)

何れもこのアルバムセッション時のアウトテイクですが、「S.R.V Speaks」は文字通り、スティーヴィ・レイ・ヴォーンへの短いインタビューで、その中で一節を弾いた「Hide Away」が、次にインストで完奏されるのはニクイばかり♪♪~♪ ご存じ、エリック・クラプトンも十八番にしているフレディ・キングのオリジナルですから、聴き比べも楽しいところですが、ここでのスティーヴィ・レイ・ヴォーンの自然体の余裕は凄いですねぇ。軽くやって、これ、ですからっ! いや、軽くやっているように感じさせられるところが、本当に凄いんでしょうねぇ~♪

ですから同じく「Look At Little Siste」「Look At Little Siste」「Come On (Part.Ⅲ)」と続く有名ブルース曲のカパー三連発も楽しさ最高の極みで、正直に言えばアルバム本篇よりも好きなぐらいです。とにかくスティーヴィ・レイ・ヴォーンのギターが泣き喚きの連続ですし、バンドが一体となったグルーヴも素晴らしく、しかも適度に肩の力が抜けたボーカルの味わいも良い感じ♪♪~♪

あぁ、ブル~スロック、万歳!

それが保守的であろうともっ!

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疑似ステ・トゥデイ

2010-04-09 16:40:44 | Beach Boys

The Beach Boys Today! (Capitol)

昭和47(1972)年、「カール&パッションズ」でおまけ扱いだった「ペット・サウンズ」に出会ったことにより、私は本格的にビーチポーイズの後追いを始めたわけですが、中でも春になると特に聴きたくなるのが本日ご紹介の1枚です。

 A-1 Do You Wanna Dance
 A-2 Good To My Baby
 A-3 Don't Hurt My Little Sister
 A-4 When I Grow Up
 A-5 Help Me Londa
(album version)
 A-6 Dance, Dance, Dance
 B-1 Please Let Me Wonder
 B-2 I'm So Young
 B-3 Kiss Me Baby
 B-4 She Knows Me Too Well
 B-5 In The Back Of My Mind
 B-6 Bull Sessions With “Big Dassy”

本国アメリカで発売されたのは1965年3月でしたから、明らかに春向きの作品かもしれませんね。実際、全篇の作風と曲調はハートウォームな魅力に溢れています。

まず冒頭「Do You Wanna Dance」は、邦題「踊ろよベイビー」としてボビー・フリーマンが1958年に自作自演で大ヒットさせたオールディズのカパー曲なんですが、ビーチボーイズは尊敬するフィル・スペクター十八番のアレンジとサウンドプロデュースをそっくり流用したかのようなリメイクが秀逸! 後にフィル・スペクターの作り出した諸作を聴くほどに、ビーチボーイズの悪辣とも言える凄みが痛感されるばかりです。

まあ、それはブライアン・ウィルソンのフィル・スペクターへの憧れ、そして尊敬の念の表れでしょうねぇ。

ですから他の自作曲は、一様に「らしい」節回しが全開!

「Don't Hurt My Little Sister」は実際にフィル・スペクターへ提供しながらボツにされた裏話があるそうですし、「Good To My Baby」にしても微妙に不安感を滲ませるメロディ展開とギターリフ、さらに素晴らしいコーラスワークが冴えまくり♪♪~♪ しかも極めて自然にメロディが出てきたんじゃないか!? と思わざるをえないほどブライアン・ウィルソンだけの「節」が堪能出来ますよ。

そして最初に聴いた瞬間から若き日のサイケおやじを天国へ導いたのが「When I Grow Up」です。もう、このスピード感溢れる演奏とコーラスの素晴らしさ♪♪~♪ 独得のメロディ展開とハープシコードまで使ったアレンジの妙♪♪~♪ 複雑にして快楽性に満ちたサウンドプロデュースは奇蹟といって過言ではないと思います。

それは痛快至極なビーチボーイズ流儀のR&R完成形となった「Dance, Dance, Dance」のシンプルなノリと相反するかのように転調を重ねていく曲の進行、さらにギターリフとロックビートの完全融合! あまりにも出来過ぎています。

しかしこのアルバムのもうひとつの凄さが、ミディアム~スローな歌を並べたB面の深淵な企みでしょう。

特に「Please Let Me Wonder」はブライアン・ウィルソンの最高傑作のひとつとまで巷間認められている珠玉の名作で、そのハーモニーセンスとメロディの雰囲気は際立つものがあります。う~ん、本当に何時聴いても、せつなくなってしまいますねぇ~~♪

そして続く「I'm So Young」はビーチボーイズのオリジナルではない、所謂ドゥワップのオールディズなんですが、おそらくはこれまたフィル・スペクター関連のロネッツバージョンを意識しているものと思われます。しかしブライアン・ウィルソンが歌うハイトーンのリード、そしてマイク・ラブの低い声を活かしたコーラスワークのコラポレーションは最高に素敵で、これも実にせつないですよ。エコーを存分に効かせたギターも良い感じ♪♪~♪

ですから同じような展開を聞かせる「Kiss Me Baby」、不思議なムードが横溢する「She Knows Me Too Well」といったオリジナルの歌と演奏が気品さえ漂わせる仕上がりになっているのも納得する他はなく、このあたりは後の「ペット・サウンズ」の予行演習とさえ思えるほどです。

それはテニス・ウィルソンが素朴なりードを歌う「In The Back Of My Mind」のバックを彩るストリングスや各種楽器によるカラオケパートにも言えることで、もちろん有能なスタジオミュージシャンが大量動員されたアルバムセッションの成果でしょう。

しかしオーラスの「Bull Sessions With “Big Dassy”」はインタビューというか単なるトークというか、ビーチボーイズと仲間達のお喋りだけというのが、如何にもボーナストラック……。あんまり存在する意味が無いように思うんですが、アルバムのプロデュースがブリライアン・ウィルソンであれば、納得するしかないでしょうねぇ。

その意味で「Help Me Londa」は、後にシングルヒットした名曲なんですが、ここに収録されたのはそれ以前のアルバムバージョン!?! 件のシングルバージョンに比べると些かシンプルな仕上がりにブライアン・ウィルソン自身が満足出来なかったと言われているんですが、個人的にはバンドサウンドで演じられるこちらのバージョンも好きです。曲想の素晴らしさは、まさに全盛期ですよねぇ~♪

ちなみにこのアルバムのミックスはブライアン・ウィルソンが意図的にモノラルしか作っていませんでしたから、掲載した私有盤にある「duophonic」とは疑似ステレオのキャピトル的な言い回しで、もちろん欺瞞に満ちたエコーが効いています。

しかし負け惜しみではなく、これが案外と心地良いんですよ。

というよりも、私が最初に買ったのが、この疑似ステレオ盤でしたから、充実した内容共々に、その音の雰囲気までも丸ごと、私をシビレさせたのです。そして当然ながら、後に国内盤でモノラルミックスを聴いたんですが、かえって妙な心持になったのは本末転倒かもしれません。

今となってはリマスターCDでさらに素晴らしく楽しめると思いますが、どうにも捨て難いのでした。

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もうひとつのビル・エバンスとジム・ホール

2010-04-08 15:38:59 | Jazz

Intermodulation / Bill Evans & Jim Hall (Verve)

最近、少しずつジャズモードへ戻りかけている自分を感じます。

で、そんな気分で取り出した本日の1枚が、ビル・エバンス(p) とジム・ホール(g) の再会盤というか、実はふたりの共演はレコードだけでも相当に残されているわけですから、あえて「再会」というのは相応しくないのですが、やっぱり超絶の名盤「アンダーカレント(United Artists)」でやってしまった奇蹟のデュオ演奏があるかぎり、その夢よ、もう一度はファンの願いでもありました。

そして美しき二番煎じを狙って作られたのが、このアルバムの目論見なのは、誰もが強く感じ、期待するところでしょう。ちなみに録音は前述の「アンダーカレント」から4年ぶりの1966年4&5日というのも絶妙のタイミングだと思います。

A-1 I've Got You Under My Skin
 コール・ポーターが書いたお馴染みのスタンダード曲ですが、おそらくはビル・エバンスにとっては初めてレコーディングした演目かもしれません。
 その所為でしょうか、まずはジム・ホールのギターが自然体でアドリブを始めるのが演奏のスタート!?! その歌心に満ちたフレーズの連続とビートを外さないリズム感は流石の一言ですし、続くビル・エバンスが、これまた十八番のアドリブフレーズから原曲メロディを忘れさせないラストテーマへの持って行き方は、至芸の極みだと思います。
 もちろんお互いのソロ&伴奏のコントラストとバランスは秀逸で、ふたりが頑固に自らのハーモニー感覚を譲らないコードワークにも耳を奪われるのでした。

A-2 My Man's  Gone Now
 これもご存じ、ガーシュインの黒人オペラ「ポギー&ベス」からの有名曲ですから、ビル・エバンスも薬籠中のハーモニーを用いた、実に優しいパラード解釈を聞かせてくれます。
 あぁ、この安心感は絶対ですよねぇ~~♪
 寄り添うジム・ホールも完全に分かっている姿勢が好ましく、ゆったりした流れの中に適度な緊張感を演出し、またアドリブではハートウォームな音色とフレーズの魔法を披露しています。

A-3 Turn Out The Stars
 晩年までビル・エバンスの定番演目になっていたオリジナルで、確か他界した父親に捧げた曲だったとか、インタビュー記事で読んだ記憶がありますから、尚更に心に染みいるエバンス節だけの展開が素晴らしいと思います。
 それはピアノによる独白からジム・ホールの卓越した伴奏を得て、グッと内向きな情感がジワジワと表に滲み出ていく過程が実に美しく、ジャズ的なスリルに満ちているのです。
 ちょっと聴きには地味かもしれませんが、出色の演奏じゃないでしょうか。
 当然ながらジム・ホールも好演♪♪~♪

B-1 Angel Face
 B面に入っては、アッと驚くジョー・ザビヌル作のスローバラード!?!
 当時の作者はキャノンボール・アダレイのバンドに在籍中でしたから、おそらくオリジナルバージョンはその諸作に入っているんでしょうが、勉強不足で私は知りません。
 ただ、ここでの演奏を聴いていると、丸っきりビル・エバンスの為に書かれたかのような印象が強く、ジェントルで幻想的な曲メロがジム・ホールとの共謀関係によって、尚更に膨らみのあるものへと昇華されたと感じます。
 ちなみにビル・エバンスは後のソロピアノアルバム「アローン(Verve)」でもジョー・ザビヌルの名曲「Midnight Mood」を演じていましたが、案外と気の合う仲間だったのかもしれませんね。

B-2 Jazz Samba
 作編曲家のクラウス・オガーマンのオリジナルですが、ビル・エバンスは前年に作った共演アルバム「ウイズ・シンフォニー・オームストラ」で既に弾いていました。ですから、ここでのアップテンポの演奏においても、怯むことのないメロディフェイクやノリの良いアドリブフレーズの連続技が冴え過ぎて、あまり「らしくない」結果になってしまったような……。
 しかしジム・ホールのコードカッティングは、前述した「アンダーカレント」の中の大名演「My Funny Valentine」を強く思い出させるものとして、ファンには嬉しいプレゼント♪♪~♪ アドリブソロは無くとも、大満足だと思います。

B-3 All Across The City
 オーラスはジム・ホールのオリジナルで、そこはかとない雰囲気が横溢していますから、如何にもこのふたりにはジャストミート!
 そして実際、気分はロンリーな美しいコード感覚を大切にしたビル・エバンス、自作の強みを活かしきったジム・ホールの素晴らしいコラボーレーションが決して強すぎる緊張感にならず、和みの世界を構築していくのです。
 ただし、それゆえに前述した「アンダーカレント」よりも名盤度数が落ちるという結果論がつきまとうのですが……。

ということで、私にしても「アンダーカレント」よりも一段落ちるという感想は否定出来ません。決定的に異なっているのは、クールな緊張感の足りなさかもしれないのです。

しかしビル・エバンスにしても、ジム・ホールにしても、そうそう何時もガチンコの「アンダーカレント」は作れないことが分かっていたのかもしれません。そしてこのアルバムセッションでは、別な方向性を目指していたんじゃないでしょうか?

個人的には、そう思いたいです。

何故ならば、このアルバムだって余人が到達出来る境地ではありませんし、もしも「アンダーカレント」が無かったら、傑作扱いになっていたはずなのです。

だから私は、時折に聴く時、意識過剰になるのかもしれません。

あぁ、不幸すぎる名盤!?!

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昨日よりも若くという個性のぶつかり

2010-04-07 15:11:18 | Byrds

Younger Than Yesterday / The Byrds (Columbia)

1967年に発表された、ザ・バーズにとっては公式に4枚目となるアルバムです。

当時のメンバーはジーン・クラークが正式に抜けた後のロジャー・マッギン(vo,g)、デヴィッド・クロスビー(vo,g)、クリス・ヒルマン(vo,b)、マイケル・クラーク(vo,ds) の4人組でしたから、必然的にレコーディングセッションには数名の助っ人が参加しています。

 A-1 So You Want To Be A Rock‘N’Roll Star / ロックン・ロール・スター
 A-2 Have You Seen Her Face
 A-3 C.T.A.-102
 A-4 Renaissance Fair
 A-5 Time Between
 A-6 Everybody's Been Burned / 燃えつくせ
 B-1 Thoughts And Words
 B-2 Mind Gardens
 B-3 My Back Pages
 B-4 The Girl With No Name / 名もない少女
 B-5 Why
(album version)

もちろん個人的には安い輸入盤を買い、後追いで聴いたわけですが、各方面から名盤扱いされているとはいえ、サイケおやじにはどうもイマイチ……。収録各曲はそれぞれに魅力的なんですが、アルバム全体としての纏まりの無さが気になります。

その原因は、どうやらグループ内外にあった当時の人間関係や活動方針の不統一にあったのかもしれません。

一般的な観点としてのザ・バーズといえばロジャー・マッギンがメインと思われがちですし、私も最初はそのように思っていたのですが、それはロジャー・マッギンがザ・バーズ特有のサウンドを象徴したエレキの12弦ギターを弾いていたという部分に大きいんじゃないでしょうか。

しかし実際にはバンドで一番にキャッチーな曲を書けたのはジーン・クラークでしたし、ザ・バーズのもうひとつのウリだったコーラスワークを支えていたのはデヴィッド・クロスビーでした。そしてジーン・クラークが脱退して以降になると、それまでは地味なペース奏者だったクリス・ヒルマンが持ち前の素養だったブルーグラスや白人伝承歌の世界を主張して、台頭するのです。

そしてそんな時期の1966年晩秋に制作されたのが、このアルバムというわけですが、中でも変則コードを用いたギターと最高のハーモニー感覚が唯一無二というデヴィッド・クロスビーの曲作りが冴えまくり!

例えば「燃えつくせ」は完全に後のCS&N時代を先取りしたアブナイ感覚の名曲名演で、ジャズっほいコードワークとギターのコンビーネーション、さらにクリス・ヒルマンの浮遊感溢れるベースプレイを得て、デヴィッド・クロスビーの優しくて、さらにドラッグ感覚に満ちた歌いまわしが最高の極みですよ♪♪~♪

そして「Mind Gardens」が、これまた当時の流行を先取りしたようなインド系モードを入れた無調のメロディ!?! 何時聴いても、あまりにブッ飛んでいます。おそらくはテープの逆回転等々で作り出したであろう演奏パートの不思議な感覚、さらに起承転結が見えない作者本人の歌いっぷりには、本当にトリップさせられますよ。

他にもロジャー・マッギンと共作したことになっている「Renaissance Fair」も、実はデヴィッド・クロスビーがほとんどを書き、好き放題に変態コードで彩ったサイケデリックフォークロックの決定版! クリス・ヒルマンのペースもドライヴしまくった名演でしょうねぇ~♪ もちろんコーラスワークはデヴィッド・クロスビー十八番の節がモロ出しです。

また本当の共作らしい「Why」は既にシングル盤「霧の8マイル」のB面に収録されたものとは別テイク!?! 明快に激しくなった演奏パートではギターとベースがスッキリと暴れていますが、これも所謂ラガ・ロックと呼ばれたインド風味のモードが導入されています。

一方、クリス・ヒルマンは、それまでのザ・バーズの正統を受け継ぐフォークロックの傑作「Have You Seen Her Face」、あるいは元祖カントリーロックな「Time Between」という、本当にシングルカットされても不思議ではない名曲を書き、アルバム全体では随所に素晴らしいベースプレイを聞かせてくれる大躍進!

その極みつきとしての「名もない少女」はカントリーロック、そしてフォークロックの両分野から高く評価されているようですが、個人的には「夢のカリフォルニア / ママス&パパス」の親戚みたいな「Thoughts And Words」がビートルズ系フォークロックの最高峰として大好き♪♪~♪ クリス・ヒルマンの作風って、意外にもビートルズっぽいんですよねぇ。

そういうわけですから、ロジャー・マッギンはシングルヒットした「ロックン・ロール・スター」やボブ・ディランの美メロ曲「My Back Pages」で存在感を示すのがやっとなんですが、しかしそれが実に魅力的なのがザ・バーズの秘密だと思います。

実際、1960年代ロックのポップサイケな一面を象徴したのが、「ロックン・ロール・スター」のヒット性感度の高さだと思いますし、「My Back Pages」こそは、せつない曲メロを存分に活かしきったアレンジと歌いっぷり、さらにハーモニーワークの神秘性が完全融合した大名演! 私は本家ボブ・ディランのバージョンよりも百倍は好きですよ。

ちなみにアルバムタイトル「Younger Than Yesterday」は、その「My Back Pages」の歌詞の一節から流用されたほどですから、もう全てはOKですよね♪♪~♪

しかし残念ながら、このアルバムはザ・バーズもレコード会社側も期待するほどの大ヒットにはなりませんでした。まあ、それでもチャートの20位にはランクされたらしいのですが、リリースされた1967年といえば、ドアーズのデビューアルバムやビートルズの「サージェント・ペパーズ」を筆頭にジミヘンやジェファーソン・エアプレインの諸作等々、リアルなロック黄金期のレコードがごっそり登場した時代でしたからっ!!

それゆえにザ・バーズにも焦りがあったことは確かなようで、「C.T.A.-102」なんていう中途半端にサイケデリックな歌と演奏が収められていることが、尚更にアルバム全体の纏まりを損ねている気がしています。

しかし既に述べたように、ひとつひとつの曲の完成度は高く、決して他に負けるものではありません。ただ、それらをひとつのアルバムに纏める過程がイマイチ、上手くいかなかったように思われます。

それはブロデューサーのゲイリー・アッシャーの手際云々よりも、むしろバンド内部の主導権争いというか、際立ち過ぎたメンバーの個性を重視すれば、既に結果は見えていたのかもしれません。

今日の歴史では、このアルバム制作時からデヴィッド・クロスビーが浮いてしまい、ついには脱退するのですが、そうしたグループ内での個性の発揮のありようは、後のCS&Nにおける成功に繋がったとも言えるんじゃないでしょうか。

サイケおやじとしては、この時期を中心に、デヴィッド・クロスビー関連のザ・バーズの楽曲を集めたカセットを作って楽しむという、なかなかアブナイ趣味に走ったこともありました。

つまり、そういう楽しみ方がどっさり潜在しているのですから、これはやっぱり名盤なんでしょうねぇ~♪ とにかく私は好きですから。

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やりまくったストーンズ!?!

2010-04-06 17:24:32 | Rolling Stones

More Fast Numbers / The Rolling Stones (Dog n Cat = Bootleg)

これも先日ゲットしてきたストーンズのブートで、内容は1978年発表の人気盤「女たち / Some Girls」関連のアウトテイク集です。

これが制作された時期のストーンズは例によって悪いクスリのゴタゴタ、いろんな訴訟やトラブルを抱えていたところへ、業界では所謂パンク~ニューウェイブの台頭によって、ワルの代名詞とさえ言われてきたストーンズにしても、旧勢力の代表格の如き叩かれ方が!?!

しかしストーンズの創作意欲はなかなかに旺盛だったようで、前作アルバムがライプ盤だったことから、約2年ぶりのスタジオ録音アルバムには、当時の流行に敏感なキャッチーでウケ狙いの歌と演奏がごっそり収録されていました。

ですから当然、そのボツテイクも大量に残され、それが流出してのブートも、LP時代から様々に登場してきたのです。

で、今回のブツは、アナログ時代の名作ブートLPと言われた「More Fast Numbers」と同じタイトルを用いながら、中身はCD2枚にぎっしりと優良音源を集めています。

☆Disc 1
 01 When The Whip Comes Down
(1977年10~12月録音)
 02 Start Me Up (1978年1~3月録音)
 03 Claudine (1977年10~12月録音)
 04 I Can't Help It (1977年10~12月録音)
 05 Miss You (1977年10~12月録音)
 06 Just My Imagination (1977年10~12月録音)
 07 Munich Hilton (1977年10~12月録音)
 08 Respectable (1977年10~12月録音)
 09 Lies (1977年10~12月録音)
 10 When The Whip Comes Down (1977年10~12月録音)
 11 I Can't Help It (1977年10~12月録音)
 12 Shattered (1977年10~12月録音)
☆Disc 2
 01 Some Girls (1977年10~12月録音)
 02 The Way She Held Me Tight (1977年10~12月録音)
 03 Beast Of Burden (1977年10~12月録音)
 04 I Need You (1978年1~3月録音)
 05 Do You Think I Really Care (1978年1~3月録音)
 06 Just My Imagination (1977年10~12月録音)
 07 Fiji Jim (1978年1~3月録音)
 08 Shattered (1977年10~12月録音)
 09 Miss You (1977年10~12月録音)
 10 A Different Kind (1977年10~12月録音)
 11 Far Away Eyes (1978年1~3月録音)
 12 Hang Fire (1978年1~3月録音)
 13 When The Whip Comes Down (1977年10~12月録音)

上記した演目は、その収録にテイク&バージョン違いのダブり曲がありますし、必ずしも「女達」に収録されず、後のアルバムで登場した演奏もありますが、裏ジャケットの記述を信じれば、一応は1977~1978年にパリのパテ・マルコニ・スタジオで行われたセッションからの音源のようです。

そこで手持ちの旧音源盤と様々に聴き比べた結果として、収録曲名の後に録音デートを入れておきましたが、これはあくまでも個人的な推察にすぎません。

まず3テイク収録された「When The Whip Comes Down」は、以降のステージでは定番となったストーンズ流儀の痛快R&Rで、その完成公式テイクは数本のギターがダビングされていましたので、その秘密が解明されています。それは「Disc 1 / 01」が10分超のラフな熱演ですが、「Disc 1 / 10」はその全段階的なリズム主体の演奏で、バックコーラスも入らず、ミック・ジャガーのボーカルもオフ気味なんですが、それにしてもチャーリー・ワッツのドラミングは凄いですねぇ。そして「Disc 2 / 13」が歌詞も公式テイクとほとんど同じになり、ダビングされたギターも確認出来るようになった完成直前バージョンながら、演奏時間はかなり長く残されています。

また説明不要の大ヒット曲「Miss You」は、そのディスコビートや基本のリフがビリー・プレストンに提供されたという逸話どおり、ストーンズ特有の幾分野暮ったいリズムのウネリと本物の黒人感覚が上手く融合された経緯として、ここに楽しめると思います。それは「Disc 1 / 05」がほとんど出来あがっている9分近いテイクなのに対し、「Disc 2 / 09」はサックスやハーモニカが未だダビングされておらず、バックコーラスも入っていない12分近い演奏なんですが、両方とも手探りのギターソロやエレピの伴奏等々から、ロックとニューソウルの幸せなな結婚を目指そうという意気込みが素敵♪♪~♪ 個人的には後者のラフな質感がとても好きです。

そうしたストーンズ流儀の黒人料理としては、ご存じ、テンプテーションズのカパー「Just My Imagination」も興味深いところで、そのオリジナルバージョンはストリングスも使ったパラードだったのに対し、ストーンズは果敢にもミディアムテンポのロックビートでリメイクしていますから、ここでの「Disc 1 / 06」と「Disc 2 / 06」のふたつのテイクも自分達が楽しんでいるかのようなムードが横溢しています。しかし公式テイクと比較するとドラムスとベースが相当に前に出たミックスになっていますし、ギターパートもダビングが完全ではありませんから、尚更に素顔のストーンズがあからさまのような気がしています。

次に「Respectable」と「Lies」という、まさにストーンズならではの激しいギターロックは、当時から「ストーンズのパンクへの返答」とまで言われていたほどのストレートさが魅力だったわけですが、ここでの「Respectable」には公式バージョンでは聞かれないギターがダビングされていたり、全体のミックスも荒々しくて最高です。一方、「Lies」も相当にラフな仕上がりで、特にミック・ジャガーが「Lies」を「Why」と歌い代えている所為もあるんでしょうが、とにかくメンバー全員の意気込みがヤケッパチ気味に熱いですよ。

そして「Shattered」が、これまたストーンズのロック魂が如実に感じ取れる制作段階の演奏で、収録された「Disc 1 / 12」と「Disc 2 / 08」は両方ともカラオケ段階のインストなんですが、あの印象的なリフがシンプルに楽しめるあたりが逆に魅力的♪♪~♪ ちなみに前者には途中からミックのシャウト気味のボーカルが小さく入っていますし、後者は厚みのあるモノラルミックス!?! ビル・ワイマンは参加しておらず、ロン・ウッドがベースを弾いたと言われているテイクです。

さらに面白いのが「Some Girls」で、ほとんど完成しているテイクながら、ゲスト参加したシュガー・ブルーのハーモニカが公式バージョンよりも大活躍しているからでしょうか、ますますスワンプロックな印象が強くなっています。

また、お目当ての「Beast Of Burden」はアレンジや演奏パートが完成に近くなっているものの、ミック・ジャガーのボーカルが疑似裏声というか、その些か湿っぽくて甘いフィーリングが結果オーライ♪♪~♪

それとストーンズ流儀のカントリーロックとして人気が高い「Far Away Eyes」も公式バージョンにかなり近い仕上がりになっていますが、ペダルスチールのギターフレーズが異なっていますよ。

以上、ここまではアルバム「女達」に収録された名曲のアウトテイクでしたが、「Start Me Up」や「Hang Fire」も次回作「刺青の男」で公式バージョンが登場したのですから、本当にこの時期のストーンズは充実していたと思います。特に「Hang Fire」は6分を超えるノリまくった演奏で、このラフな雰囲気は公式バージョンよりも相当に凄いです。

あぁ、これがストーンズでしょうねぇ~~♪

気になる「Start Me Up」はミック・ジャガーのボーカルやコーラスが中途半端な未完成テイクながら、如何にもキース・リチャーズというハードなノリが既に出来あがっていますから、ついつい、ノセられてしまいますねぇ。ただしヒスノイズが多めなのは減点……。

そして残りは本当のボツ曲群なんですが、やはりストーンズ中毒者には、たまらないものばかりです。

例えば「Claudine」は先日ご紹介した再発ブート「Lonly At The Top」にも収められていた問題曲ながら、こちらはファンキーロックなアレンジで押し通した7分半ほどのハードなテイク! これが本当にゾクゾクしてくる演奏なんですねぇ~♪

また「I Can't Help It」は、これまた直線的なファンキーロックながら、ちょいと曲そのものの出来がイマイチ……。しかしストーンズの演奏は流石にビシッとしていて、「Disc 1 / 04」のクールなキメ方は素晴らしく、一方、「Disc 1 / 11」はヤケッパチなフィーリングと団子状のミックスが心地良いという二面性が見事に楽しめます。

う~ん、軍配を上げるのが難しい~、と嬉しい悲鳴♪♪~♪

ですからスタジオジャムの「Munich Hilton」が尚更に心地良かったりするんですが、ちなみにこれも前述した「Lonly At The Top」収録のテイクとは異なる、なんとパーカッションも入った10分超のインスト!?!

そしていよいよのお楽しみなのが、未発表曲のあれこれで、まず「The Way She Held Me Tight」は名盤「メインストリートのならず者」に入っていても不思議ではない、ホノボノとルーズなカントリー系の歌と演奏に和みますよ。懐の深いリズムとビートの作り出し方は唯一無二のストーンズ流儀だと思います。また「I Need You」は歌詞が未完成ながら、ミック&キースのデュエットが気恥ずかしくなるほどなんですねぇ~♪ もちろん曲調は金太郎飴的なストーンズ独自のスワンプ系なのが、ニクイです。

そのあたりは名曲「Dead Flowers」を焼き直したような、本当に軽快なカントリーロックの「Do You Think I Really Care」、そしてちょいと哀愁モードの「A Different Kind」の両方で効果的なのロン・ウッドのベダルスチールギターにも言えることで、全くこの時期の趣味性がモロに出た瞬間が愛おしいばかり♪♪~♪

また「Fiji Jim」は、これまたストーンズがど真ん中のR&R大会なんですが、ちょっと平凡な曲メロをなんとかしようとするバンド全員の奮闘ぶりが微笑ましいところかもしれません。

ということで、中身の濃さに疲れるほど、本当のお楽しみが満載です。

気になる音質はステレオミックス主体の良好なものですから、ブート初心者にもオススメ出来ますが、まずは公式盤「女達」や「刺青の男」を聴きまくってから後には、尚更にシビレること請け合いです。

もちろん、この時期の関連ブート音源は、ここに収録されたものが全てではなく、まだまだどっさり残されています。おそらくCDにしたら6~7枚分はあるんじゃないでしょうか。

ついでに言えば、このプートのタイトル「More Fast Numbers」は公式盤「女達」の最初のタイトルでもありました。

いゃ~、ストーンズの奥の細道は長くて険しいですが、やめられませんよ、本当に!

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裏方ダニー・コーチマーの基本姿勢

2010-04-05 15:24:27 | Rock

Kootch / Danny Kortchmar (Warner Bros.)

ダニー・コーチマーはジェームス・テイラーの幼馴染みとして度々の共演が残され、そこでの決して脇役に留まらない活躍は、唯の優れたギタリスト以上のものがありました。

と書き始めていながら、私にしてもダニー・コーチマーを知ったのはジェームス・テイラーの諸作におけるギタリストとしての存在でしたから、その不思議にファンキーでジャズっぽく、しかも巧みな伴奏とカキクケコ系のソロフレーズの魅力に惹かれたのが偽りの無い気持!

ですから、ダニー・コーチマーがソロアルバムを出したという情報を知った瞬間、これはどうしても聴かなければという強い覚悟に突き動かされたのも、当然が必然でした。

そこで本日の1枚が、その該当アルバムというわけですが、ギタリストの作品集にしてはギターソロが少ないという、些か肩すかしな作りになっています。しかし、やっている中身はサイケおやじが大好きなファンキーロックがメインでしたから、結果オーライ♪♪~♪

 A-1 Put Your Dancing Shoes On
 A-2 Up Jumped The Devil
 A-3 Got To Say So Long
 A-4 For Sentimental Reasons
 A-5 Burnt Child
 B-1 Your So Beautiful
 B-2 My Mind Made Itself Up About You
 B-3 Don't Jump Salty
 B-4 Come Strollin' Now

今となっては「For Sentimental Reasons」の大名演が有名の極みですが、最初に聴いた時の印象は、とにかく全篇のグルーヴの統一感でした。

それはダニー・コーチマー本人のプロデュース、そして歌とギターばかりではなく、なんとベースとドラムスも自ら演奏して作り出していたのです!?!

ご存じのとおり、当時のダニー・コーチマーはジェームス・テイラーのバックバンドから発展したセクションというインスト系のバンドもやっていたので、このリーダー盤も、てっきり同じメンツが集合しているという先入観がありましたから、これは意外でした。しかもリズムとビートの決まり方が本当に違和感無く、むしろセクションの時よりも個人的には気に入ってしまったほどです。

ただし、それでも全てを自分でやることは無理だったのでしょう。助っ人して前述したセクションの仲間だったグレイグ・ダーギ(key)、ウィリアム・スミス(key)、ジム・ホーン(sax,fl)、ダク・リチャードソン(sax)、アビゲイル・ヘイネス(vo) が適材適所に登場しています。

で、収録された歌と演奏は、前述の「For Sentimental Reasons」を除いてダニー・コーチマーのオリジナルですが、特に素敵なメロディの曲はありません。しかし、そうした抑揚の少ないメロディラインをリードしてくのが、まさにファンキーというリズムのウネリ♪♪~♪ そしてアビゲイル・ヘイネスと共謀した刹那的で熱いコーラスワーク、そうした目論見を達成するアレンジの素晴らしさでしょう。もちろん多重録音が駆使されていますが、同時にシンプルなノリが大切にされているのは、特筆されます。

そのあたりは同じ頃にジワジワと流行り始めたニューオリンズ系のファンク、そしてゴスペルロックや初期フュージョン特有のゴッタ煮グルーヴということで、実際に聴いて、熱くなっていただく他はないんですが、おそらくは十人十色の好き嫌いが明確だと思います。

というのも、結果的にこのアルバムは全然売れなかったらしく、1970年代後半には我国でもカットアウト盤が大量に出回っていました。

それがどういう経緯か、唯一のスタンダード曲だった「For Sentimental Reasons」の快楽性が再発見され、所謂クラブなんていう場所で大人気となったんですから、時の流れは偉大です。

実際、ここでの「For Sentimental Reasons」はナット・キング・コールやサム・クックが歌っていた時と同じ、本当にジェントルな曲メロを大切にしながらも、弾むようなファンキーグルーヴとシンプルなビート感を提供するギター、ベース、そしてドラムスという、ダニー・コーチマー自らの単独演奏が素晴らしすぎます。

当然ながら、リアルタイムで聴いていた時からサイケおやじは、この「For Sentimental Reasons」が特に好きでした。決して上手くはないんですが、優しさが感じられるボーカルも良い感じ♪♪~♪

こうして以降、私はダニー・コーチマーをギタリストというよりも、プロデューサー的な感覚で探求することになりました。つまり提供されるファンキーロックな音楽性にシビレたわけです。

そして「つづれおり」でブレイクする前のキャロル・キングと組んでいたシティ、それが解散した後、このアルバムにも助っ人参加したアビゲイル・ヘイネスも在籍していたジョー・ママという、当時は過小評価されていたバンドのレコードに邂逅したのです。

またその過程で知り得た情報によれば、ジェームス・テイラーが最初にアップルレコードと契約したのも、ダニー・コーチマーが下積み時代にピーター&ゴードンのアメリカ巡業でバックバンドのギタリストを務めたコネによるものという事実さえ浮かび上がってきたのですから、この人は本当に裏方の重要人物だなぁ~、という思いを強くしています。

そういう部分は1970年代の西海岸系シンガーのバックバンドの要として、あるいは同系のスタジオセッションにおいても、優れたギタリストとしての活躍ばかりが注目された事実と符合するもので、せっかくジム・ケルトナー(ds) やデイヴィッド・フォスター(key) と組んだ、最高にカッコ良いアティテュードというバンドもブレイクせず……。

結局、それは不運というよりも、ダニー・コーチマーの裏方が似合う資質の所為なんでしょうか。

今となっては、このアルバムに収録された「For Sentimental Reasons」の永遠の輝きだけが、唯一のスポットライトなのかもしれません。

まあ、それはそれでファンとしては嬉しいという気持ではありますが……。

最後になりましたが、我国でのこのアルバムの影響はかなり大きく、例えば鈴木茂のファンキーなギターワーク、あるいは山下達郎がやっていたバンドのシュガー・ベイヴ等々、所謂ニューミュージックへの貢献も相当だと思います。山下達郎も歌っていた伊藤銀次の「こぬか雨」は、「For Sentimental Reasons」だよなぁ~。

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今回も凄かったジミヘンの発掘音源集

2010-04-04 13:12:24 | Jimi Hendrix

Valleys Of Neptune / Jimi Hendrix (Experience Hendrix / Sony)

兼ねてより予告されていたジミヘンの完全未発表音源集!?!

これを素直に喜んで聴いていれば良いものを、サイケおやじはその秘密になんとか迫ろうと、あてどない暗闘を繰り返してしまうのが、本当に悪いクセです。

正直に言うと、ソニー系列からの発売なので、日本盤をオリジナルとして買えば、翻訳されたライターや詳細な解説書が付属しているはずでしょう。しかし大手ソフト屋のネット通販で同じ中身のデジパック仕様輸入盤が、千円ちょっとで売られているとすれば、ついつい手が出てしまうのもご理解願えると思います。

よって、英文ライナーを読みながら、あれこれ手持ちの旧音源を引っ張り出し、唸りながら聴いていた一応の結果報告を、ここにさせていただきます。

まず収録は以下の12曲♪♪~♪

 01 Stone Free (1969年4月7、9&14日、5月17日録音)
 02 Valleys Of Neptune (1969年9月23日&1970年5月14日録音)
 03 Bleeding Heart (1969年4月24日録音)
 04 Hear My Train A Comin' (1969年4月7日録音)
 05 Mr. Bad Luck (1967年5月5日録音)
 06 Sunshine Of Your Love (1969年2月16日録音)
 07 Lover Man (1969年2月16日録音)
 08 Ships Passing Through The Night (1969年4月14日録音)
 09 Fire (1969年2月17日録音)
 10 Red House (1969年2月17日録音)
 11 Lullaby For The Summer (1969年4月7日録音)
 12 Crying Blue Rain (1969年2月16日録音)

曲名の後に記した録音年月日は付属の英文ライナーからの転載ですが、個人的には???という部分が打ち消せませんし、ジミヘンの死後にオーバーダビングされたパートもあるという記述も気になりますが、それは各々、後で触れます。

で、まず特筆したいのは、アルバム全篇を通してのリマスターの統一感ということです。

当然ながら、ジミヘンの死後には未発表作品集がゴチャゴチャ売り出され、中には詐欺まがいのブツもあったわけですが、1995年以降はジミヘンの親族によってその大部分が管理され、また素材への実質的な関わりには、リアルタイムでエンジニアを務めていたエディ・クレイマーが今も引き継いでいるという賛否両論があります。

と書いたのも、いろんな音源をひとつの流れに纏めたり、あるいは修復をした段階で、ここに収録されたのが本当にリアルな音だったのか、ちょいと疑問に感じるからなのですが……。

まあ、それはそれとして、このCDでは一番に古い録音とされる「Mr. Bad Luck」は、後にLP「レインボー・ブリッジ」やCD「サウス・サターン・デルタ(MCA)」等々で世に出た「Look Over Yonder」の原型と解説書にあるとおり、演奏メンバーはジミヘン(vo,g) 以下、ノエル・レディング(b) とミッチ・ミッチェル(ds) の初代エクスペリエンスです。

ちなみにノエル・レディングもミッチ・ミッチェルも、1970年代だと言われていますが、音源に関する自分達の権利を10万ドル程度で手放したという、なんともバカらしい裏話は本当なんでしょうか?

それゆえに死後に残された音源が放埓に扱われ、また今日、ようやく統一されようとしているのは悲喜こもごもでしょうね。

で、肝心の「Mr. Bad Luck」はアップテンポのジミヘンロックで、秀逸なリマスターによってグッと重心の低いリズムとビートが炸裂する中、歪み気味のギターが暴れるという、まさに血沸き肉躍る演奏です。幾分コミカルな歌詞を歌うジミヘンのボーカルも良い感じ♪♪~♪ ただし元々の素材テープが痛んでいた所為でしょうか、解説書によれば、1987年にベースとドラムスがオーバーダビングされたとのことですが、それが誰だったのかは不明……。

そんな諸々の情報から個人的に推察すれば、おそらくはセカンドアルバム「アクシス:ボールド・オブ・ラブ(Track)」制作中のデモ音源に手が加えられたんじゃないでしょうか? ちなみに前述した「レインボー・ブリッジ」に収録され、1971年に世に出た「Look Over Yonder」は、1968年10月22日の録音とされています。

次に1969年2月16&17日録音の5曲、「Sunshine Of Your Love」「Lover Man」「Fire」「Red House」「Crying Blue Rain」は、ブートながら映像も出回っている同年18&24日のロイヤル・アルバート・ホール公演のリハーサル音源です。もちろんメンバーは前述のエクスペリエンスですが、ここではストーンズとも関わりの深いロッキー・ディジョーン(per) の特別参加が、ちょいと注目かもしれません。

そしてスタジオでのリハーサルながら、バンドのテンションは最高潮! ご存じ、クリームのヒット曲だった「Sunshine Of Your Love」はインストですが、中盤にはベースソロを設定したり、クリームの他の演目も断片的にやってしまったりと、なかなか憎めません。その意味でジミヘンのライプステージでは公式デビュー当時から定番だった「Lover Man」が、グッとテンポを落としたエグ味の強いものになっていたり、逆に疾走感満点に突進する「Fire」という感じで、なかなか意欲的です。もちろんジミヘンのギターは痛快至極! ボーカルパートを挟んで前後に激しくギターを泣かせる「Lover Man」、シンコペイトするミッチ・ミッチェルのドラミングや必死で存在感を認めさせようとするノエル・レディングのバックアップボーカルを置き去りにして宇宙へと舞い上がる「Fire」でのアドリブソロには、完全KO請け合いです。

そしてさらに凄いのが、「Red House」での情念の呻き! 最初は十八番の思わせぶりながら、そのエロスさえ感じさせるギターでの表現力は、ボーカルパートでの合の手も含めて、全く余人の入り込むスキがありません。もちろん後半のギターソロは、とてもリハーサルとは思えない熱の入り方で、本当にフェードアウトが勿体無い!!! う~ん、それでも至福の8分20秒♪♪~♪

しかし一応は新曲扱いの「Crying Blue Rain」は、完全に試行錯誤なブルースジャムというか、手さぐりでお約束のリックを積み重ね、ジミヘンの歌も「イェ~、イェ~」と唸るだけ……。しかし粘っこいブルースロックの枠組みの中で少しずつ形を作っていくバンド演奏の面白さは、ジミヘンがやっているがゆえに興味深々で、特に中盤からテンポを上げていく場面の乱れ方とか、いろんなコードを試し(?)弾きするところは、なんともリアルです。ちなみに付属解説書によれば、この演奏にも後年、ドラムスとベースがダビングされたことになっていますが、う~ん……。

そういう現場主義は、ステージの定番であったにも関わらず、死後になってようやく有名になったジミヘンがオリジナルのブルース「Hear My Train A Comin'」も同様で、1969年4月7日録音という、初代エクスペリエンスの結束が微妙な時期だけに、殊更ガチンコな演奏が楽しめます。おそらくはスタジオでの完成を目論んでいたんでしょうが、このド迫力な混濁した熱気をレコード化するのは、当時としては無理があったのかもしれません。それを今日、こうして聴ける喜びは至上のものです。いゃ~、本当に凄いですよっ!

そして同日に録音され、様々な手直しが施された「Stone Free」は結局、ノエル・レディングから交代参加したビリー・コックスのペースを得て、さらにファンキー&ワイルドに作り直されたお馴染みの人気曲♪♪~♪ 1966年に録音されたシングルバージョンに比べると、グッと黒人感覚が強くなっていて、まさにブラックロックの誕生というところでしょうか。新しく付け加えられたエンディングも、不思議な魅力かと思います。

それと、これも同日録音とされる「Lullaby For The Summer」は完全未発表のスピード感溢れるインスト! とにかくジミヘンの纏まりの良い暴れ方は何回ものオーバーダビングによるものとはいえ、その確信犯的な快感に酔わされますよ。ただし演奏メンバーは初代エクスペリエンスとされていますが、個人的には些かの疑問も……。

また、その最中の1969年4月14日に録音された「Ships Passing Through The Night」は、これも死後に発売されたLP「クライ・オブ・ラブ(Track)」に収録されていた名演「Night Bird Flying」の原型と各方面で言われていた幻のトラックですが、その軽やかに舞い踊るフィーリングに比して、この「Ships Passing Through The Night」は重心の低いハードロックがジミヘンそのもの!?! 幾層にも重ねられたギターの様々なリフやアドリブソロ、さらにベースやドラムスとの絡みも相当に練られていて、これがオクラ入りとは、流石に同時期の初代エクスペリエンスは爛熟していたんだなぁ~、と感慨もあらたなものがあります。

しかし1969年4月24日録音の「Bleeding Heart」は、それが完全に崩壊した後のセッションで、共演メンバーはビリー・コックス(b) とロッキー・アイザック(ds) という新顔組!?! 他に2人の打楽器奏者が参加とクレジットされていますが、同曲のエルモア・ジェイムスの古典に敬意を表したカパー演奏を披露していた同年3月18日の録音、つまり後に出たCD「ブルース(MCA)」収録のバージョンと比べると、実にブッ飛んだファンキーロックに変換されているのは痛快! いゃ~、このアップテンポのアレンジ、ジミヘンのカッコ良すぎるリズムカッティング、刹那的なボーカルと狂おしいギターソロ♪♪~♪ もちろん未完成なんですが、もう、最高ですよっ!

そしてお待ちかねっ! アルバムタイトル曲の名誉を勝ち得た「Valleys Of Neptune」は、録音データからしてジミヘンが新しい展開を求めての模索という雰囲気も濃厚というか、なんとも不思議な心持にさせられる王道ロックです。それは如何にもという曖昧な曲メロと投げやり気味のボーカル、相当に難しい伴奏系のギター等々が、一応の纏まりは聞かせてくれるのですが……。

もちろん公式に発売されるのは初めてでしょうし、リマスターによって迫力満点の音作りにはなっているのですが、例え本人自らの手によって完成されていたとしても、これは……??? う~ん、なんだかなぁ……。

ということで、肝心の目玉曲が私にはイマイチだったんですが、他は文句無しの優良発掘でした。ただし冒頭でもちょっと書きましたが、全体のリマスターに統一感を持たせようとした所為でしょうか、些かの作為は賛否両論かもしれません。

しかし、そんな不遜な暴言を反省する間にも、押さえきれない胸騒ぎがするのは確かです。つまり今日でも、これだけ凄い未発表音源が残されていたということは、次なる発掘と再発が本当に楽しみ!

前述したロイヤル・アルバート・ホール公演はプロショットの映像として映画用に撮られたものがブートで昔から出回っていますから、これの公式版は絶対でしょう。さらに分散しているライプ音源の統一や新しいソースによる復刻も期待するところです。

本当にジミヘンの音源は、何時までも楽しみがいっぱいですね♪♪~♪

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心苦しい春休み

2010-04-03 14:40:28 | Weblog

先日からの各種のソフトの不調から、ついにPCが動かなくなりました。

もう一度、全部、やり直しのため、本日の1枚は休載となりました。

ご来場の皆様には、心からお詫び申し上げます。

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個人的モードジャズの洗礼

2010-04-02 17:35:33 | Jazz

Hino = Kikuchi Quintet (Takt)

昭和40年代の我国大衆音楽はエレキからGSブームへと続く、つまりはロックの時代へと入っていったわけですが、まだまだモダンジャズもイカシた流行でした。

例えばトランペッターの日野晧正は、そのスタイリッシュな雰囲気とシャープな演奏が実にカッコイイ代表選手でした。そして自らのバンドを率いてのテレビ出演も多く、そこで短くはありましたが演奏されるジャズロックやミステリアスなモダンジャズは、単にジャズファンばかりか、多くの女性をも虜にしていたようです。

もちろん音楽的な先進性は言わずもがなで、本日のご紹介はちょうどその頃に組んでいたピアニストの菊池雅章との双頭バンドによるアルバムです。

録音は昭和43(1968)年8月22&30日、メンバーは日野晧正(tp)、村岡建(ts)、菊池雅章(p)、稲葉国光(b)、日野元彦(ds) という精鋭クインテットなんですが、実はセッション当時には菊池雅章の渡米により、バンドは解散した後だったと言われています。

そしてこれは私の推察に過ぎませんが、おそらくはレコーディングの契約もあったのでしょうし、このバンドが世界最先端のモダンジャズをやっていた記録として、残される価値が十分にあったということだと思います。

で、それはスバリ、黄金のクインテットと称されていた同時期のマイルス・デイビスのレギュラーグループに端を発する、所謂新主流派!

率直に言えば菊池雅章はハービー・ハンコック、村岡建はウェイン・ショーター、稲葉国光はロン・カーター、日野元彦はトニー・ウィリアムス~ジョー・チェンバース、そして日野晧正はフレディ・ハバードという置換が実現されているのです。

しかも収録曲は全てが菊池雅章のオリジナルですが、今となってはマイルス・デイビスやハービー・ハンコックのリーダー盤で聞かれる味わいが、パクリを超えた愛情コピーとして、思わずニヤリの瞬間が!?!

A-1 Tender Passion
 これは丸っきりブルーノートの新主流派がモロ出し!
 何の曲かは申しませんが、今となっては耳に馴染んだモードの構成が心地良いと思います。それがパクリだとしても……。
 しかし、そういうことを言ってしまったら、モダンジャズの演奏家は全てがチャーリー・パーカーのパクリから逃れられないわけですし、その中で如何に素晴らしいアドリブや演奏をやるかが、瞬間芸のジャズでは個人技の披露の場でしょう。
 ここではクールな菊池雅章や村岡建、躍動的な日野元彦、頑固な稲葉国光、そして陰影豊かな日野晧正の各々が熱演で、その研究熱心さは感動的かもしれません。

A-2 Ideal Portrait
 これもアッと唸ってしまう、マイルス・デイビスのあの曲のパクリなんですが、そのスローでミステリアスなムードをここまで再現してしまうバンドの実力派は侮れません。というか、当時の世界的なレベルからすれば、我国のミュージシャンがここまでやっていたという事実に、今は驚くばかりです。
 そこでは日野晧正も村岡建も、素直に神妙ですが、リズム隊の三者が相当に自由度の高い中での纏まりが実に秀逸だと思います。

B-1 Long Trip
 これまたマイスル・デイビスのクインテットでウェイン・ショーターが自作自演した良い部分だけを抽出したというか、思わず苦笑いというのが正直な気持なんですが、ここでの演奏の本気度の高さは凄いものがあると感じます。
 特に日野兄弟のハッスルぶりは特筆ものでしょうねぇ~♪

B-2 H. G. And Pretty
 ハービー・ハンコック~ウェイン・ショーター路線のモード系ブルース大会!
 ということは、必然的にクールで熱いムードが横溢すると思わせながら、ちょいと手さぐりの状況が何とも深いんでしょうか……。
 まあ、それもこれも、今となってはモダンジャズの真の名盤をどっさりと聴いてしまった後の感想で、実は告白すると、このアルバムは当時、我が家に下宿していた叔父さんが所有していたので、その頃は中学生だったサイケおやじも一応のリアルタイムで聴いていました。つまりマイルス・デイビスや子分達が出していた傑作群を聴くより以前に、この日野晧正&菊池雅章クインテットの洗礼を受けてしまったというわけです。
 そしてテレビで日野晧正を見ていた所為もあって、モダンジャズって、分からないけど凄くカッコイイ! なんて、独りで納得していたのです。
 ちなみに叔父さんは、このクインテットの当時のライプを体験していたらしく、そこではレコードよりも熱くて荒っぽい演奏が凄かった! と話してくれました。

ご存じのように日野晧正はこのアルバムが世に出た頃には自らの新しいバンドを率い、さらに電化したジャズロックをやっていました。それは人気盤「ハイノロジー」の発売、ロックミュージャンも顔負けのファッションに身を包み、所謂ヒノテルブームの大ブレイクだったのです。

一方、菊池雅章はアメリカ留学を経て後、自己のグループで活動していくのですが、これまでにも2人の競演盤が幾つか残されているとおり、切っても切れないジャズ的な繋がりがあるのでしょう。

ところで、私が今、聴いているのは、既に10年ほど前に出た紙ジャケット仕様のCDなんですが、これをゲットしたのはボーナストラックで1曲だけ、ライプ音源が入ってるからです。

※CDボーナストラック
 H. G. And Pretty
(live)
 録音は昭和43(1968)年6月27日ですから、このアルバムセッションが行われる前のリアルな活動時期でした。メンバーは前述の5人に実力派の鈴木弘(tb) が加わった、なんと15分を超える爆裂演奏!
 音質もステレオミックスされた良好なものですから、当時のクインテットが如何に熱気に満ちたていたかを追体験出来ますよ。

ということで、1970年代になると、このあたりの日本のジャズは「真似っこ」と決めつけられ、不必要に貶されていたものです。しかしサイケおやじにとっては少年時代に最先端のジャズに触れた数少ない機会のひとつとして、このアルバムが忘れられないのでした。

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フォーカスの偏愛ライブ盤

2010-04-01 17:23:35 | Rock Jazz

Focus At The Rainbow (Polydor)

1970年代初頭、オランダから世界的にブレイクした幾つかのバンドがありました。それは所謂ダッチロックというブームで、ご存じ「Venus」のトップヒットを放ったショッキング・ブルーやゴールデン・イアリング、アース&ファイアー等々は有名ですが、しかし中でも特に強烈な印象を残したのが、フォーカスという4人組のグループでした。

なにしろやっていたことが、クラシックや欧州教会音楽の影響をモロに出したロックジャズ! もちろんほとんどがインストだったんですが、ボーカル曲にしてもハラホレヒラヒラの模擬裏声を使ったヨーデル唱法やスキャット主体という、当時としては、あまりにも温故知新なスタイルを貫いていたのです。

メンバーはタイス・ヴァン・レア(key,vo,fl) とヤン・アッカーマン(g) の2人を中心に変遷が多く、それゆえに1970年に出したデビュー盤は不発……。ところが紆余曲折を経て発売したシングル曲「悪魔の呪文 / Hocus Pocus」が1972年末頃からジワジワとヒット! これは我国でも同じ頃、突如としてラジオから流れ出た瞬間、そのヨーデルスキャットとクラシック趣味をロックジャズで味付けした演奏が強い印象を残し、忽ちのヒットになっています。

そして続くシングル曲「Sylvia」もインストながら、今では井上陽水の「少年時代」の元ネタともいうべき、実に「Let It Be」的なメロディがクセになる魅力があっての連続ヒット♪♪~♪

当然ながらアルバムも前述のデビュー盤から、その頃までには3作が発売され、何れもロックジャズとプログレが見事に融合した内容は、高く評価されています。

そして1973年の晩秋、ついに出たのが、ロックジャズのバンドには避けて通れないライプ盤! それが本日の1枚です。

 A-1 Focus Ⅲ
 A-2 Answers? Questions! Questions? Answers!
 A-3 Focus Ⅱ
 B-1 Eruption (excerpt)
 B-2 Hocus Pocus / 悪魔の呪文
 B-3 Sylvia
 B-4 Hocus Pocus / 悪魔の呪文 (reprise)

録音は1973年5月のロンドンはレインボーシアターで、メンバーはタイス・ヴァン・レア(key,vo,fl)、ヤン・アッカーマン(g) 、バート・ルイチー(b,vo)、ピエール・ヴァン・ダー・リンデン(ds)という最強時代の4人ですから、ハナからケツまで熱い興奮が渦巻く演奏ばかり!

幕開けの「Focus Ⅲ」は後年のリー・リトナーあたがやってしまいそうな、とても物分かりの良いメロディで構成された、これは早すぎたフュージョンでしょうねぇ~♪ と書いたのも、この頃の我国には未だ「フュージョン」なんて言葉は無かったんですが、フォーカスの演奏で一番にファンの心を刺激するのが、ヤン・アッカーマンの繊細で豪胆なギターというのは、異存の無いところだと思います。

実際、ここでの曲メロはクセになる魅力があるんですよねぇ~♪

しかしステージ進行は、そのまんま熱くて危険極まりないアップテンポの「Answers? Questions! Questions? Answers!」へと過激に突入! ドカドカ煩いロックジャズのビートが炸裂し、キメにキメまくるバンドの勢いは、千変万化の美しき流れに収斂してきますが、もちろんヤン・アッカーマンのギターは細かいフレーズを積み重ねつつ、スリルとサスペンスをたっぷりと大サービス♪♪~♪

一方、タイス・ヴァン・レアはストレートなオルガンとモダンジャズなフルートの両刀使いで、その魅惑の音楽性を完全披露していますから、もう中盤からは完全にジャズといって良いかもしれません。

当然ながら自由度の高いドラムスとベースの蠢きも、たまらないところでしょう。

それはAラスの「Focus Ⅱ」に入っても怯むことのない存在感で屹立し、モロにクラシック調の曲メロがドラマチックに演じられる中で、その盛り上げに貢献しているのです。

まあ、正直に言えば、ライプならではの荒っぽさが裏目に出る寸前までいっていますから、その雑なムードがスタジオレコーディングで顕著だった構成の完璧さを幾分ではありますが、殺いでいる気もします。

しかし「ロックバンドのライプ盤」という観点からすれば、結果オーライ♪♪~♪

ですからB面に移ってからの白熱の名演「Eruption」から、怒涛のヒットメドレーとなる終盤への流れは圧巻ですよっ!

特に「Eruption」は似たような構成の演奏をエマーソン・レイク&パーマーが既にやっていたとはいえ、幾つかの細かいパートを連続させることによる緩急自在の組み立ては、やはり凄いテクニックと音楽性に裏打ちされたものでしょう。そして何よりも、分かり易いものを演じるという姿勢が、明確に感じられます。

つまり怖いイメージがあるロックジャズやプログレのハードなところを、食わず嫌いにならないように指向していたんじゃないでしょうか? だから私はフォーカスが大好きだと、自己分析するほどです。

そして「Sylvia」を間に挟んだクライマックスでは、「悪魔の呪文」の潔さ♪♪~♪

当然ながらシングルヒットしたスタジオバージョンよりもテンポアップして、幾分ヤケッパチな雰囲気でブッ飛ばすという、如何にも当時のロックライブの真骨頂が楽しめると思いますが、それにしてもメンバー各人のテクニックは恐ろしいほど!?!

ちなみに「悪魔の呪文」では、ウリだったヨーデルのハナモゲラ語が、決してデタラメじゃなかった!?! という永遠の命題に突き当たる楽しみもありますよ。

ということで、まずはヤン・アッカーマンのギターにシビレること請け合いです。その強靭でしなやか、悪辣寸前の早弾きフレーズ、泣きの音色とアドリブスケールの選択の上手さ、もちろん運指とピッキングも流石としか言えません。そのスタイルはジョン・スコフィールドとリー・リトナーの折衷という感じかもしれませんが、もちろん、その2人よりも早く、自分の個性を確立していたのが、ヤン・アッカーマンだったのです。

またタイス・ヴァン・レアはメイン楽器のオルガンだけでなく、ちょっとローランド・カーク風のフルートにも素晴らしい才能があって、本物のジャズミュージシャンと共演しても遜色の無い実力者だと思います。当然ながら作編曲も巧みで、一応はバンドのオリジナルとされる曲でも、どっかで聞いたことのあるような、クラシック系のメロディがテンコ盛りという憎めなさ♪♪~♪

しかし残念ながら、フォーカスはこのライプを区切りにしたかのようにバンドは分裂の繰り返し、セカンド&サードアルバムのような密度の濃い作品は生み出せずに時が流れてしまいました。もちろんヤン・アッカーマンもタイス・ヴァン・レアも自身のリーダー盤を制作していますが………。

ですからフォーカスといえば、やっぱりこのライプまでに強い愛着があって、この手の音楽に何時も夢中なサイケおやじは、聴く度に熱くさせられるのでした。

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