■I Wrote A Simple Song / Billy Preston (A&M)
1970年代、誰よりも有名だった黒人ミュージャンがビリー・プレストンでした。
と書いてしまえば、もちろん異論の噴出は当然でしょう。なにしろ当時は所謂ニューソウルの全盛期であり、また往年のR&Bスタア達にしても、そんな時代の趨勢の中で新たな境地に進む円熟期を迎えていたのですからっ!
しかしビリー・プレストンの場合は黒人音楽というよりは、ロックという白人音楽のフィールドから名前を売ってしまったという特異性があって、それは1969年初頭に記録されたビートルズのゲット・バック・セッションからアップルレコードでのリーダーアルバム制作、その繋がりからのバングラ・デシ救済コンサートでの大熱演、さらにストーンズのライプ巡業やスタジオレコーディングでの目立ちまくった暗躍(?)等々、須らく強い印象を残す活動の数々は、今日でも忘れられていないと思います。
そして同時期にA&Mへ移籍してから作られた自己名義のアルバムも、リアルタイムで抜群の売れ行きが続き、さらに今日ではフリーソウルなんていう意味不明の言葉に依存するDJ御用達であったり、そんなこんなから再発見されて後の新しいファンにも支持を広げている現実は否定出来ないでしょう。
さて、そこで本日のご紹介は、そんなビリー・プレストンが上昇期の勢いで発表した1971年の人気アルバム♪♪~♪ ゴスペルやジャズ、R&Bやファンキーロック、さらにはシンガーソングライター的な味わいまでもがゴッタ煮の歌と演奏は、まさにニューソウルのフィーリングが全篇に溢れる好盤ですよ。
A-1 Should've Known Better
A-2 I Wrote A Simple Song
A-3 John Henry
A-4 Without A Song
A-5 The Bus
B-1 Outa-Space
B-2 The Looner Tune
B-3 You Done Got Older
B-4 Swing Down Chariot
B-5 Got Is Great
B-6 My Country 'Tis Of Thee
実は当時、このアルバムが注目されたのは、親友のジョージ・ハリスンが参加していたという話題があればこそで、それはシングルカットもされた「I Wrote A Simple Song」という、なかなか内省的なアルバムタイトル曲に顕著でした。なにしろジョージ特有の「枯れた泣き」のスライドギターが最高の味わいで楽しめますし、ビリー・プレストンの幾分抑えた歌いまわしがジャストミートのジェントルな曲メロ、さらにはバロック調のストリングスやツボを外さないソウルフルなホーンのアレンジが実にキャッチーな仕上がりなんですねぇ~♪ もちろん本人が演じるオルガンやピアノも良い感じ♪♪~♪
ちなみにアレンジにはクインシー・ジョーンズが絡んでいるのも、充分に納得される名曲名演だと思います。
ところが、何故かこれが小ヒット……。
しかし瓢箪からコマというか、驚くなかれ、このシングルのB面にカップリングされていたインスト曲「Outa-Space」が全米のラジオ局を中心にウケまくった事から、ついにはチャートのトップに輝く大ヒットになったのですから、流石にビリー・プレストンは凄いミュージシャン! 実際、ノッケからファンキーに突っ込んでくるキーボートとリズム隊のコンビネーションは、キメのリフやアドリブの分かり易さも含めて、たまらない熱気を撒き散らします。
ストーンズのファンの皆様ならば、1975年の全米ツアー及び翌年の欧州巡業のライプステージで、ストーンズの面々をバックに従えた爆発的なパフォーマンスで会場を興奮のルツボに叩きこんだ名場面が忘れられないはずですよねぇ~♪
う~ん、ファンキーなキーボードロックの極みつき!
そう書いてしまえば、これまた顰蹙かもしれませんが、ビリー・プレストンの魅力ひとつは、そういうロックフィーリングを隠そうとしない事かもしれません。
ですから、絶対的にファンキーなリズムセクションを構築した中でスワンプロックをやってしまう「Should've Known Better」や「John Henry」、おそらくはデヴィッド・T・ウォーカーが弾いているであろうメロウなギターが絶妙の彩りとなったゴスペルソウルの「Without A Song」にしても、実は白人ブルースロックからの影響が滲んでいるように感じるのです。
ただし、一方で痛烈な同朋意識を訴える「The Bus」の気持良いフュージョン感覚は流行の黒人音楽以外の何物でもなく、またアメリカ大衆音楽における黒人流行歌の役割を再認識させる「The Looner Tune」の楽しさは格別ですよ♪♪~♪
もちろん、このあたりの路線は以降に継承発展されていくわけですが、まだまだこの時期、つまり1971年当時の流行最先端はスワンプロックであり、シンガーソングライターのブームが大きく広がっていたとあっては、続く「You Done Got Older」が些か煮え切らないのも必然だったのでしょうか……。個人的にはデレク&ドミノスあたりに演じて欲しいような気分ですし、ビートルズの「Get Back」をパロったところはご愛嬌???
しかし、これを場面転換にしたかのように、続く「Swing Down Chariot」「Got Is Great」「My Country 'Tis Of Thee」の三連発は、まさにゴスペルロックのニューソウル的展開が最高潮! 似たような事は、例えばダニー・ハサウェイも同時期にやっていますが、ビリー・プレストンの何かふっきれた感性は唯一無二でしょう。
特にオーラスの「My Country 'Tis Of Thee」は渾身の名唱名演だと思います。
ということで、これ以降の本格的な全盛期に出された諸作と比べれば、かなり地味な仕上がりなのは否めませんが、ここに提示されたロックとソウルの並立関係はスワンプロックの発展形でもあり、未だ正体が明確では無かったニューソウルのタネ明かしとしても興味深いと思います。
ちなみに参加ミュージャンは既に述べたようにジョージ・ハリスン(g)、デヴィッド・T・ウォーカー(g)、クインシー・ジョーンズ(arr)、キング・エリソン(per)、クライド・キング(vo)、バネッタ・フィールズ(vo)、メリー・クレイトン(vo) 等々の有名人が多数クレジットされていますが、それ以外にも無記名の助っ人が活躍している真実は、まさに聴けば納得でしょう。
また、言うまでもありませんが、ビリー・プレストンの的確なボーカルの力とピアノやオルガン、さらに各種シンセ類の使い方も最高レベル! それは演目のほとんどが自作曲であり、自身のプロデュースによる忽せに出来ない決意の表明に他なりません。
全くこういうアルバムが普通に作られていたのですから、やはり1970年代は個人的な思い入れ以上に充実していたんですねぇ~♪
機会があれば、皆様にもお楽しみいただきた1枚です。