朝日、毎日、中日は肯定的、日経、産経は疑問
伊の国民投票で脱原発の結果に新聞社説の反応
2011.6.15 ジャーナリスト会議 大西 五郎
イタリアの原発再開の是非を問う国民投票では投票者の94%が
ベルルスコーニ首相が提起した原発再開の方針に反対を表明し、
ベルルスコーニ首相もこの結果を受け入れることを明らかにした。
6月15日の朝刊各紙(読売新聞を除く)は社説で揃ってこの結果について論評した。
朝日新聞は「決めよう、自分たちで」
毎日新聞は「フクシマの衝撃は重い」、
中日新聞は「欧州からの新たな警鐘」で、
脱原発の投票結果を肯定的に受け止め、
日本のエネルギー政策について国民的議論を起こすよう呼びかけていた。
日経新聞は「『脱原発』欧州の不安と現実」で、
イタリア国内で長期のエネルギー政策について十分な論議が交わされたとはいえない、と
投票結果に疑問を呈し、
産経新聞も「伊も脱原発 日本から流れを変えよう」と、
欧州で脱原発の流れが強まっているが、その流れを日本が変えよう、と
原発推進の立場で論じていた。
なお、読売新聞は記事でイタリアの国民投票で原発反対が94%に達したことを紹介したが、
15日の社説ではこの問題に触れなかった。
各紙社説の要点を紹介する。
<朝日新聞>「決めよう、自分たちで」
ドイツ、スイスに続き、欧州でまた「脱原発」の猛烈な民意が誠司を突き動かした。日本では、
福井や佐賀、青森など原発立地県の知事選が相次いだが、原発の存廃そのものを問う展開には見え
なかった。「脱原発」票は行き先を探しあぐねているようだった。欧州とのこの落差はいったいど
民主、自民の2大政党とも推進派で、有権者が原発問題と向き合う機会が少なかったのも事実だ。
だが、いまや安全神話を信じる人は見当たらない。事故の被害は子や孫の世代まで及びそうな現実
も思い知らされている。もう黙ってはいられない。私たちの将来を決める選択なのだから、「お上
任せ」「政治しだい」でいいはずがない。国民がみずからエネルギーを選び、結果の責任を引き受
けていこう。
各地で散発的に始まった「脱原発デモ」を全国一斉実施にまで拡大させている。かつてない規模
で広がる「脱原発」の民意を、政党はどう汲み取れるのか。始まったばかりの超党派の国会議員に
よる勉強会に注目する。だが、何より大切なのは、やっと声をあげ始めた私たち有権者がもっと議
論を重ね、もっと発言していくことだ。
<毎日新聞>「フクシマの衝撃は重い」
欧州で「脱原発」の流れが加速している。イタリアは国民投票で原発再開に「ノー」を突きつけ
た。ドイツが既存の原発を22年までに全廃することを閣議で決めた。いずれもフクシマ第1原発
の事故が背景にある。世界に波紋を広げるフクシマ・ショックの重さを改めてかみ締めたい。
原発政策は、経済や政治の統合が進む欧州と日本とでは事情が違う。その欧州も、仏英などの原
発推進派と独伊やスイス、ベルギーなどの「脱原発」派に分かれているのが実情だ。80年にいち
早く脱原発へかじを切ったスエーデンの議会は昨年、方針を転換する法案を小差で可決している。
だが、脱原発に踏み切った独伊の決断はあくまで尊重されるべきである。脱原発を進めれば、電力
コストがかさんで国民負担は増えやすい。両国はフクシマを反面教師として、多少の負担増は覚悟
の上で「安全」を選んだといえよう。
一方、米国や中国、インドは原発推進の姿勢を変えていない。中東ではサウジアラビアが30
年までに16基もの原発を建設するとの情報もある。世界の分かれ道にどう対応すべきか。スリ
ーマイル島やチェルノブイリに続く原発事故の震源地となった日本Mとしては、将来の原発政策
を腰を据えて考えたい。
<中日新聞>「欧州から新たな警鐘」
イタリアの今回の国民投票は原発再開の是非を問うもので、94%の圧倒的多数Mが再開に反対
した。東日本大震災を受けドイツに続き欧州主要国が下した判断は重い。
イタリアの今回の決定には地震多発国という事情も作用したのではないか。今後問われるのは、
欧州全体としての意志だ。欧州は戦後、原子力共同体(ユーラトム)を創設して原子力屁岩利用へ
の共通政策を模索してきた。現在、脱原発を図る各国の動きも、欧州全体として原発容認する体制
下で進められている。今後の原発政策の流れを大きく左右する欧州としての意思の収斂を早急に図
るべきだろう。
投票結果は、売春罪などで起訴されている現首相に対する審判の意味合いが強かったとはいえ、
その深層にはイタリア国民の自然への畏怖があったと思いたい。
<日経新聞>「『脱原発』欧州の不安と現実」
スイス、ドイツに続きイタリアも脱原発にカジを切ることになる。キタリアの投票結果の意味を判断するには、同国の国内事情を十分に考慮に入れなければならない。イタリアは現在電力の15%を、フランスやスイスなどからの輸入に頼っているのが現実である。電力料金は欧州で最も高い水準であり、これがコストとなって産業競争力の足かせとなっている。恒常的な電力不足をい解消するために、ベルルスコーニ政権が原発の運転再開を模索してきた経緯がある。今回の
国民投票に至るまでに、国内で長期のエネルギー政策について十分な議論が交わされたとは言えない。国民は脱原発を選択したが、政府は風力や太陽光発電などで代替する具体的な政策を描けていない。
安心な暮らしや経済成長には、安全で安定した電力供給が不可欠だ。原発のあり方や再生エネルギーの活用を含む全体像について、コスト、技術進歩、環境への影響など総合的な観点から考える必要がある。
<産経新聞>「伊も脱原発 日本から流れを変えよう」
イタリアの脱原発が決まった。欧州全体でみれば、フランスや英国など原発堅持の国が多い
とはいえ、東京電力福島第1原発の事故を引き金に欧州の一部で原発離れの潮流が勢いを増しつ
つある。各国の意思は尊重したいが、正しい選択なのだろうか。持続可能なエネルギー政策であ
るのかどうか冷静に見極めが必要だ。
感性に流れる選択よりも、理性に基づく判断が必要だ。安全性を再確立して範を世界に垂れ、
脱原発の流れを食い止めるのは、事故を起こした国として日本が国際社会に果たすべき責務で
あろう。脱原発の電力不足は火力発電に委ねられ、原油や天然ガスの価格高騰を招く。エネルギ
ー不足とコスト高は日本経済、ひいては世界経済にも悪影響を与えかねないのである。
※読売新聞は、社説ではこの問題に触れず、
記事解説で「欧州でスイスとドイツ領政府が将来原発を廃止する方針を決めており、
イタリアの原発拒否の立場が固まったことで欧州各国で反原発世論が勢いづく可能性もある。」と述べた。