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随筆紹介 「納得できる人生のことわざ」  文科系

2014年06月12日 21時36分41秒 | 文芸作品
 「納得できる人生のことわざ」  H・Sさんの作品 
                                 
「明日には明日の風が吹く」は、映画「風と共に去りぬ」の主人公スカーレット・オハラが、絶望から立ち上がる時、自分を奮い立たせるために用いた台詞。二十歳でこの映画に出会ったわたしは原作より映像の持つ迫力に圧倒され、これほど感動を受けた映画はないと、時を経た今も思い入れが強い。ラストシーンのこの台詞は、置かれた理不尽な状況に刃向かう凛とした姿の主人公スカーレットの映像とともに、心に深く刻み込まれている。
 二十五歳で結核に罹患。ひっきりなしに大喀血を繰り返した日々。こんなに大量の血液が体の中から失われている。こんなことで生きられるはずがない。命の終わりが迫っている。明日まで生きられるかどうかわからないなどなどの心細さに震え、気持ちはどんどん落ち込んでいった。
「命のあるなしなど誰にもわからないことだ。心のシャッターを降ろして無駄な詮索をするな」と大声でだれかのお叱りを受けた。この身体の中から湧き出た声の正体は今でも不明だが、驚きではっとした瞬間、落ち込んだ心が軽く浮き上がってきたことは確かだった。このお叱りはわたしにとって本当に有り難いものだった。
 それを取っ掛かりにして、
「明日には明日の風が吹く」、記憶のどこかに隠れ住みついていたのか自覚のないわたしなのに、この言葉があぶりだしのようにするすると蘇ってきた。
 スカーレット・オハラとは似ても似つかぬ状況にあるのに、言葉はわたしに寄り添ってくれた。一日の終わりに、今日はここまでとだれかさんに教わった通り心のシャッターを降ろす。「明日には明日の風が吹く」と毎日呪文のように唱え、明日のことは考えない。なにがなんでも眠るのだと自分に言い聞かせ、希望のない歳月をやり過ごした。闘病は三年に及んだが、病はわたしの体から逃げ去った。

 身内の揉め事に取り込まれ、気が付けばトランプカードのジョーカーを引き当てている自分に気づく。誰かに押し付ければいいと思っても、兄弟はがんで闘病中、緩和ケア病棟にいる。どこにも持っていきようがない状態に押し込まれ、一人で向き合うしかない。理不尽な辛いことが続く日々、この言葉でわたしは自分を励まし、気持ちを癒しながら乗り越えてきた。辛いことも理不尽なことも死ぬまで続くことはなく、納得いかないままで終わりを告げることが多かったが、苛酷で辛かったこの体験は無駄ではなく、人生の肥料の役割を果たすこともわかってきた。
 あんな辛いことがあっても生きられたんだ。今回も何とかなるだろう。修羅場が来ると構えて受け止めることが出来るようになり、慌て方が軽度になってきた。
 それにしても、こんなにもわたしの辛い出来事に寄り添ってくれたたった十二文字の言葉に出会っていなかったら、わたしはもっと悲壮な歳月を送ったことだろう。

 映画や物語の中の言葉は、登場人物を語るためだけに用意されたものである。物語は作り物のはずだ。なのに、全然違う状況に置かれた場合でも、わたしは自分なりにすり替えて使うことによって、勇気づけられ、癒されてきた。
 言葉には、苛酷な状況にある人の心を落ち着かせ、よき方向に案内出来る力がある。これは確かな事だとわたしは確信している。

 バカの一つ覚えのように、先の見えない真っ暗闇の中、毎日呪文のように、この言葉を唱え、苛酷な時間から気持ちを逸らし、何とか抜け切った経験から、
「明日には明日の風が吹く」は、わたしにとって納得できる人生のことわざだと言える。人は誰でも、人生のことわざになる言葉を一つや二つ持ち合わせながら困難に対処しているのだろうと推測している。 

コメント
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