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随筆紹介 「犬のいる暮らし」   文科系

2014年06月13日 15時04分24秒 | 文芸作品
 犬のいる暮らし S.Yさんの作品

 飼い犬のボブが闘病生活になった。
 といっても本人(本犬)は、すこぶる元気である。食欲旺盛で活発、機敏に動き回り、排泄も順調そのもので、今までとなんら変わりはない。
 ことの発端は散歩中に少量の血尿が見られたことだった。たまたま日曜日だったので、かかりつけ医は休診。休日診療をやっているクリニックを受診すると精密検査が必要と言う。ボブが十才を過ぎているので、おそらく前立腺の病気を疑われたのだろう。
 結果は膀胱に腫瘍が三つ見つかった。それもかなり大きい。前立腺肥大もある。
 検査をした女性獣医師は「辛い検査だったけど、ボブ君、お利口にがんばりましたよ」そう私たち夫婦に告げた。おお、そうだろう、そうだろう。超音波検査で腫瘍は発見できたが、その後の細胞採取や検査は尿管からだ。さぞかし痛かったことだろう。
 なおも女性獣医は続けていう。「摘出となると大掛かりな手術になるので当院では限界があります。動物の高度先進医療センターを紹介します」。
 そのセンターの予約をした。そのあとのことはあまり覚えていない。目の前が暗くなり、底なし沼に落ちていくような感覚だった。
 こんなに元気なボブが悪い病気だって? 信じられない。
 大きな腫瘍ができていたなんて、なんで早く気付いてやれなかったんだろう。
 ボブの子どもが欲しかったので去勢をしてこなかったことを悔いた。少なくとも前立腺の病気は防げたはずだ。

 先住犬のラブラドールのハナを亡くしてからまだ一カ月と経っていない。
 十六年以上もハナは私たち家族と暮らしを共にした。大型犬の寿命はせいぜい十二才ぐらいなのに長生きをしてくれた。晩年は散歩や排泄、食事の世話がほんとに大変で目が離せなかった。それだけに彼女の存在感やいとおしさは格別なものであった。
 私だけでなく家族みんなが、ハナがいなくなったことをまだ受け入れられずにいた。寂しさと哀しさと喪失感でいっぱいであった。立ち直るにはまだまだ歳月が必要なのにその矢先にボブの発病とは、何かを呪いたくなる。同時に、ハナの介護中心で、ボブの体調をまったく気遣ってやれなかった自分をも責めてしまう。
 今はとりあえず先進医療センターの専門医師の予約待ちである。犬にもそんな機関があるなんて驚きだ。当然、医療費も破格の高額である。
コメント
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