同じ同人誌の友人の作品、連作の第3番目です。作者は50代の女性、まだまだ続きます。
犬のいる暮らし(三) Y・S
ボクと名づけた二匹目の犬を飼い始めて五年が経つが、いまだに呼んでも無視をする。食事と気が向いたときだけしか近寄らず、飼い主に媚びることも尻尾を振ることもない。
飼い始めたはなは先住の犬とすさまじい喧嘩となりそれは大変だった。三キロぐらいの子犬でありながら、三十五キロの大型犬に向かっていくのだ。当時を再現すると多分、
先住犬──ちょっと近づかないでよ。私はあんたのママじゃないんだからね。だいたいあんた、新入りで子どものクセして生意気よね。胴長、短足、頭でっかち。それにまあ、なんて不格好なの。
ボブ──なにお! この年増女。だれがお前なんか。ちょっと可愛くて頭がいいからって偉そうに。回りにちやほやされて調子に乗るんじゃねえよ。
とまあ、こんな感じで二匹は決して歩み寄ることをしなかった。
ボブは成長するにつれて猟犬の本能を発揮し出し、先住の犬を獲物に見立てて部屋の隅に追い詰め、狩のようなことをするようになった。先住犬は穏やかで従順、盲導犬や介助犬に向く犬種である。次第にこのチビッ子ギャングのようなボブを怖がるようになった。
食べ物を横取りされて、生活全般ボブに遠慮するようになってしまった。むろん私たちも黙って観ていた訳ではない。常に先住犬を優先して、ことあるごとにボブを叱り飛ばしていたのだが、彼は涼しい顔でまったく動じないのだ。
思えば彼を飼い始めたころ、獣医や動物専門学校の教師にも「スコティシュテリア?そりゃ大変だ。頑固で飼い難いよ」と言われたことがあった。それを身に染みて感じ始めるにはそう時間はかからなかった。
とにかく喧嘩早い。それも大きい犬にしか闘志が湧かないらしく、秋田犬とは互角にやり合った。他の犬にも怪我をさせたり治療代を払ったりと、彼のせいで頭を下げることが増えた。散歩時に会う七十キロ以上の超大型犬たちは、ボブが背中に飛び乗って嚙み付いたことがあるので、今では向こうから道を空けてくれる。獲物を狙う眼で体を伏せて戦闘体勢を取るボブに、彼らはあきらかに困惑している。ところが居合わせた人々は「あらあら、大きいワンちゃんが怖いのよねえ」とボブに同情的だ。〈みんな解ってないなあ・・・・・〉私は曖昧に笑いながら複雑な心持ちになる。ちっとも散歩が楽しくない。
先住の犬だって犠牲者だ。彼女は周囲のオス犬たちに絶大な人気があった。それら全てをボブが敵にまわしたので彼女は多くの友を失った。私がボブを衝動買いしたばかりに、申し訳ないと思う。家族にも責められて私の苦悩の日々が続く。
だがそんなボブにも弱点があった。それもちょっと信じがたいほどの弱点が。
犬のいる暮らし(三) Y・S
ボクと名づけた二匹目の犬を飼い始めて五年が経つが、いまだに呼んでも無視をする。食事と気が向いたときだけしか近寄らず、飼い主に媚びることも尻尾を振ることもない。
飼い始めたはなは先住の犬とすさまじい喧嘩となりそれは大変だった。三キロぐらいの子犬でありながら、三十五キロの大型犬に向かっていくのだ。当時を再現すると多分、
先住犬──ちょっと近づかないでよ。私はあんたのママじゃないんだからね。だいたいあんた、新入りで子どものクセして生意気よね。胴長、短足、頭でっかち。それにまあ、なんて不格好なの。
ボブ──なにお! この年増女。だれがお前なんか。ちょっと可愛くて頭がいいからって偉そうに。回りにちやほやされて調子に乗るんじゃねえよ。
とまあ、こんな感じで二匹は決して歩み寄ることをしなかった。
ボブは成長するにつれて猟犬の本能を発揮し出し、先住の犬を獲物に見立てて部屋の隅に追い詰め、狩のようなことをするようになった。先住犬は穏やかで従順、盲導犬や介助犬に向く犬種である。次第にこのチビッ子ギャングのようなボブを怖がるようになった。
食べ物を横取りされて、生活全般ボブに遠慮するようになってしまった。むろん私たちも黙って観ていた訳ではない。常に先住犬を優先して、ことあるごとにボブを叱り飛ばしていたのだが、彼は涼しい顔でまったく動じないのだ。
思えば彼を飼い始めたころ、獣医や動物専門学校の教師にも「スコティシュテリア?そりゃ大変だ。頑固で飼い難いよ」と言われたことがあった。それを身に染みて感じ始めるにはそう時間はかからなかった。
とにかく喧嘩早い。それも大きい犬にしか闘志が湧かないらしく、秋田犬とは互角にやり合った。他の犬にも怪我をさせたり治療代を払ったりと、彼のせいで頭を下げることが増えた。散歩時に会う七十キロ以上の超大型犬たちは、ボブが背中に飛び乗って嚙み付いたことがあるので、今では向こうから道を空けてくれる。獲物を狙う眼で体を伏せて戦闘体勢を取るボブに、彼らはあきらかに困惑している。ところが居合わせた人々は「あらあら、大きいワンちゃんが怖いのよねえ」とボブに同情的だ。〈みんな解ってないなあ・・・・・〉私は曖昧に笑いながら複雑な心持ちになる。ちっとも散歩が楽しくない。
先住の犬だって犠牲者だ。彼女は周囲のオス犬たちに絶大な人気があった。それら全てをボブが敵にまわしたので彼女は多くの友を失った。私がボブを衝動買いしたばかりに、申し訳ないと思う。家族にも責められて私の苦悩の日々が続く。
だがそんなボブにも弱点があった。それもちょっと信じがたいほどの弱点が。