ふたたび,アガサ・クリスティ,山田順子訳「ハーリー・クィンの事件簿」東京創元社 (創元推理文庫)について.
この短編集の狂言回しはサタスウェイトとハーリー・クィン.ふたりを探偵役と言いたいが,ホームズ・ワトソン ペアとはまるで異なる.ただしシリーズ化の意図なく始められ,6年書き続けられた短編の集積で,ふたりの役割は次第に変化する.初期はもっぱら謎解きはクィンの担当で,ずれた時間に現場に現れる 出張安楽椅子探偵の趣.しかし次第にクィンは神出鬼没となり,クィンのヒント (というより,神の啓示というのが適切か?) よりサタスウェイトが謎を解くかたちに変化する.
本格らしい作品が多いが「ヘレネの顔」は SF 的.「ハーリクィンの小径」「海から来た男」あたりは,純文学とは違うが,とにかく幻想味を帯びている.
ハーリクィン = 道化師という説明は杉江松恋による解説にはない.
もっともこの作品群ではハーリー・クィンは全知全能の持ち主のように描かれている.かえって,相棒のサタスウェイトは愛嬌があって道化師的.
トップ画像は,"Mysterious Mr. Quin" Dodd, Mead & Company (1930 USA) 版のカバー.「空に描かれたしるし」の一場面である.メイドが汽車の煙を,赤い夕焼けの空に描かれた白い大きな手に例える.アリバイ崩しのデータを提供する彼女を,サタスウェイトは「少しばかり頭が鈍いようだ」と形容するが,それは最終的に逆転する.
図書館で借用した.
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