Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

夫・車谷長吉

2020-02-21 09:49:05 | 読書
高橋順子,文春文庫(2020/2).単行本は文藝春秋(2017/5).2018年講談社エッセイ賞受賞作.

よその夫婦をのぞくのはおもしろいが,この場合は刺激が強すぎる.

詩人である妻が,私小説作家である夫を描いた編年体.49歳の女性がこの表紙のような絵手紙を,48歳の男性から毎月もらうことから始まり,結婚に至るまでがややこしい.
結婚後はさらに波乱続きで,夫は芥川賞候補になり,落選し,強迫神経症になる=早く言えば,狂う.クリニックに通いながら書いた「赤目四十八瀧心中未遂」で直木賞.しかし彼の文章は実名の対象を誹謗中傷するのが常で,ついにはモデル問題で訴えられる.
晩年は精神的にも肉体的にも自分のことがコントロールできなくなり,妻の留守中に解凍した生のイカを丸呑みし,69歳で窒息死.

実は車谷の小説も,順子さんの詩も読んだことがない.
この夫婦は数々の賞をもらい,授賞式出席に忙しい.そんな式に妻が夫を置き去りにして出席すると,ひどいことになったりする.親類縁者が多く,次々に逝去していく.南半球クルーズとか四国遍路とかも,おもしろいがせわしない.

Amazon の内容紹介の抜粋のような場面が救い.
*****
長吉は二階の書斎で原稿を書き上げると、それを両手にもって階段を降りてきた。
「順子さん、原稿読んでください」とうれしそうな声をだして私の書斎をのぞく。
私は何をしていても手をやすめて、立ち上がる。食卓に新聞紙を敷き、
その上にワープロのインキの匂いのする原稿を載せて、読ませてもらう。
(中略)
それは私たちのいちばん大切な時間になった。原稿が汚れないように
新聞紙を敷くことも、二十年来変わらなかった。相手が読んでいる間中、
かしこまって側にいるのだった。緊張して、うれしく、怖いような
生の時間だった。いまは至福の時間だったといえる。 
(本文より)*****

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