Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

太宰と近松 : 「おさん」と「心中天の網島」

2025-01-25 10:34:44 | 読書
入院中のベッドで,太宰治の「おさん」を青空朗読で聴いた.革命家気取りのおさんの夫は,よその女と心中してしまう.この小説の,おさんの視点で書かれた最後の2段落 :

*****革命は、ひとが楽に生きるために行うものです。悲壮な顔の革命家を、私は信用いたしません。夫はどうしてその女のひとを、もっと公然とたのしく愛して、妻の私までたのしくなるように愛してやる事が出来なかったのでしょう。地獄の思いの恋などは、ご当人の苦しさも格別でしょうが、だいいち、はためいわくです。

 気の持ち方を、軽くくるりと変えるのが真の革命で、それさえ出来たら、何のむずかしい問題もない筈です。自分の妻に対する気持一つ変える事が出来ず、革命の十字架もすさまじいと、三人の子供を連れて、夫の死骸を引取りに諏訪へ行く汽車の中で、悲しみとか怒りとかいう思いよりも、呆あきれかえった馬鹿々々しさに身悶みもだえしました。*****

かっこいいセリフである.しかし,その夫のモデル = 太宰治 であって,数ヶ月後に実際に心中したことを考えると,複雑.

青空朗読には「解説」がないが,NHK ラジオ第2 毎週土曜 午後4時30分 放送の,木ノ下裕一による「おしゃペリな古典教室」の「古典と文豪 - 太宰治」で,太宰が近松門左衛門の「心中天網島」を下敷きにしたことを知った.Wiki はチェックしたが,原作を読むのはごめんだ.
朗読では昭和の小説と信じて疑わなかった.複数の視点で描かれている原作を,太宰はおさんの視点で押し通したようだ.近松の原作の炬燵 (小道具,いや大きさでは中道具) を太宰が蚊帳で置き換えたあたりに遊びを感じた.

でも,太宰は文豪というには軽すぎないかな.

トップ画像左は田端書店作品リフィルのブックジャケット

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