【記者たちの胸ポケット】:ハマっ子の応援/20年ぶりの再会/取材される側
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【記者たちの胸ポケット】:ハマっ子の応援/20年ぶりの再会/取材される側
◆ハマっ子の応援
横浜市のカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致について取材している。八月に横浜勤務になった直後の誘致表明に慌てつつ、なぜ市は決断し、地元経済界は支持するのか、市民はなぜ反発しているのか。それぞれの考えや思いを正確に理解したいとあがく日々だった。
ある夜、反対派のチラシを何げなく食卓に置いていたら、中学生の娘が「これ、すごい大事」。普段、市政に関心のない十代ハマっ子が「自分たちにもかかわる話。ママ、仕事頑張って」と熱く語っていた。
市民グループは誘致の是非を問う住民投票や市長リコール(解職請求)を目指して活動を広げる。カジノ事業者はあの手この手で進出をもくろむ。市による市民説明会も来月始まる。若い世代のためにも、交錯するベクトルを熟視していく。
◆20年ぶりの再会
不慮の事故で手足の自由を失い、口に筆をくわえて詩や絵をかく星野富弘さん(73)=群馬県在住=の個展を取材した。横浜市戸塚区の公園に星野さんの詩碑がある縁から、地元のファンが熱心に働き掛けて実現した展示。星野さんには駆け出しの頃、初任地の埼玉県で取材した記憶があり、懐かしさを胸に足を運んだ。
奥さまに伴われ、車いすで会場に現れた星野さん。展示を見に来ていた人たちも、とびきりのサプライズに大喜びだ。
写真撮影の際の雑談で「実は二十年前…」と告げると、しばし私の顔を眺めた後、穏やかな声で「あなたも少なくとも二十歳にはなったのね」。作品が優しさに満ちている理由を知った。
◆取材される側
生まれて初めて、取材を受けた。横浜神奈川版に書いた記事がきっかけで、地元の情報誌の記者から「横浜港の記憶」を話してほしいと依頼された。
多くの人の談話を集めるというので、変化球として、毎年大みそかの「除夜の汽笛」の話をした。新年を迎える瞬間、港にいる船が一斉に汽笛を鳴らす。横浜に住んで十七年、深夜に居間のガラス戸を開けて汽笛を聞くのが、わが家の年越しだと。
帰り道、どんな記事になるのか楽しみにも心配にもなった。今回はたわいもない話だが、取材される側になってみて、取材者は時に、思いのこもったバトンを託されることを実感。一つひとつ、誠実に仕事しよう。
杉戸祐子(すぎと・ゆうこ)42歳 横浜支局記者 |
◆<杉戸祐子(すぎと・ゆうこ)42歳>
愛知県出身。1999年入社。8月から2度目の横浜勤務で横浜市政を担当。10代からテニスを続け、2年前にインストラクターの国際資格を取得。2児の母。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【記者たちの胸ポケット】 2019年11月15日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。