【社説・01.14】:公益通報制度 告発者を守る効果高めよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.14】:公益通報制度 告発者を守る効果高めよ
組織内の不祥事を暴き、不法行為をやめさせることは組織や社会にとって有益だ。勇気を出して告発した人が、報復されることがあってはならない。通報者を守る仕組みを強化したい。
消費者庁の検討会は、公益通報者保護法の見直しに向けた報告書をまとめた。政府は今月開会する通常国会に改正法案を提出する。
現在の法律は降格や減給、配置転換など、通報者への不利益な取り扱いを禁止している。通報を理由とした解雇は無効だ。
法律は2006年に施行され、通報者の保護を強める改正を重ねたが十分ではない。罰則がなく、実際は報復が後を絶たないからだ。
消費者庁の調査では、内部通報した人のうち3割が後悔しているという。不利益な扱いを受けたことを理由に挙げた人は4割を超える。
国連の作業部会は政府に対し、報復する事業者への制裁措置など対策を強化するよう勧告している。
今回の報告書は刑事罰の導入に踏み込んだ。改正法案では、通報を理由に解雇や懲戒処分をした場合、事業者と上司ら個人を刑事罰の対象とする方針だ。匿名の通報者を特定しようとしたり、通報しないように口止めしたりする行為も禁止する。一定の前進と言えそうだ。
抑止効果を考えると、まだ課題はある。
刑事罰の対象は解雇や懲戒処分に限られる。報復を目的とする配置転換をしても、異動が多い日本の職場では通常の異動と区別がつきにくい。口止めなど禁止行為の罰則は見送られた。
告発された側が「公益通報に当たらない」と恣意(しい)的に判断できる問題も依然として残る。そう疑われる事例が相次いでいる。
兵庫県の元幹部が知事のパワハラ疑惑などを文書で告発すると、県は「誹謗(ひぼう)中傷」と断じ停職処分にした。
公益通報には行政機関や報道機関などへの外部通報もある。鹿児島県警の前生活安全部長が報道関係者に不祥事に関する文書を送ったところ、県警は公益通報を否定し、国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕した。
公益通報かどうかを判断するのは難しい。とはいえ、通報者への報復がまかり通れば誰も声を上げられなくなり、不正は放置される。
健全な組織や社会を目指すという法の趣旨に沿って、告発された組織は謙虚に受け止め、慎重に判断すべきだ。
職場で公益通報と認められなかった場合、第三者が関わる仕組みが必要ではないか。国会や消費者庁を中心に議論を重ね、実効性の高い制度にしなくてはならない。
告発を検討していても、相談先が分からない人が多いという調査結果がある。事業者や働く人への周知を進め、公益通報制度の重要性を社会全体で認識したい。
元稿:西日本新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月14日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます