【社説①】:政治改革 放置できぬ選挙制度のひずみ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:政治改革 放置できぬ選挙制度のひずみ
政治改革関連法の成立から30年近くが経過し、現行の選挙制度や「政と官」の関係などに 歪 みが目立つようになった。抜本的な見直しに向けて議論すべき時期を迎えている。
衆院の選挙制度を、中選挙区制から現在の小選挙区比例代表並立制に改めた政治改革関連法は、1994年3月、与野党の合意を経て成立した。リクルート事件などで高まった国民の政治不信を 払 拭 する狙いがあった。
この30年で、金権政治の温床とされた自民党の派閥は弱体化した。政党本位の選挙も一定程度定着したと言えよう。
一方で、政治家が小粒になった、との指摘は多い。2大政党による政治を想定していたが、現状は多党化が進んでいる。改革が目指した方向性と、現実が 乖離 しているのは明らかだ。
政治改革の議論を整理するため、与野党6党でつくる選挙制度協議会は先月、与野党合意の当事者である細川護煕元首相と、自民党の河野洋平元総裁から、現状への評価を聞いた。
細川氏は政権交代の実現を踏まえ、「 概 ね想定通りだ」と述べた。一方の河野氏は、重複立候補制度について「国民に支持されているのか」と疑問を呈した。
小選挙区で落選した候補が、比例で復活当選することに納得のいかない有権者は多い。
だが、それにも増して重大な問題は、「1票の格差」の是正を求めるあまり、選挙のたびに区割りの見直しが迫られることだ。
司法は、憲法の「法の下の平等」を投票価値の平等と読み替え、格差の是正を重視するようになった。30年前は、地方から都市への人口流入によって生じる問題が、大きな論点ではなかった。
しかし、地方で過疎化が進行し、経済も衰退した現状で、格差是正だけを重視すれば、地方の議員定数は減り続け、都市部は増える一方となる。地方の民意が政治に反映されにくくなれば、民主主義の根幹が揺らぎかねない。
選挙制度のほかにも課題はある。官邸主導の政策決定が進んだ反面、官僚の意欲の低下が指摘されるようになった。衆参の役割分担が不明確なため、二院制の意義を問う声はやまない。
昨年、経済界や学識経験者らでつくる「令和国民会議」(令和臨調)が発足した。選挙制度や国会のあり方などについて議論し、政界に提言する方針だ。
与野党は、識者の声にも耳を傾けながら改革を進めるべきだ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年07月18日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。