【社説①】:教団被害の救済 国会は法整備の議論急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:教団被害の救済 国会は法整備の議論急げ
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の元信者や家族の被害救済は緒に就いたばかりだ。被害補償を着実に進めるために、国会は与野党を超えて必要な法律を整備しなくてはならない。
法整備の必要性は与野党で一致しているようだが、具体案の隔たりは大きい。議論を尽くし、開会中の臨時国会で合意を見いだしてほしい。
野党の立憲民主党と日本維新の会は、補償に充てる教団財産を保全する法案を国会に提出した。教団本部がある韓国に財産が流出するのを防ぐ狙いがある。
立民が提出したのは、解散命令を請求された宗教法人を対象とする特別措置法案だ。2年間の時限立法で、文化庁などの申し立てを受けた裁判所が財産保全を命じる規定を盛り込んだ。
維新は宗教法人法に同趣旨を加えた改正案で、別の宗教法人にも適用できる。
与党の自民、公明両党も実務者で協議している。自民はきのう、今国会に関連法案を提出すると表明した。
海外送金に縛りをかける外為法の規制強化と、被害者の訴訟費用を日本司法支援センター(法テラス)が手助けする特例法の新設を検討しているという。
自民党には選挙運動や政治活動を通じ、教団側と関係を持つ議員が多数いた。党総裁である岸田文雄首相は「関係を断つ」と宣言している。その姿勢を被害者救済でも明確にすべきだ。
与野党協議では、信教の自由や財産権との関わりについて慎重な議論が求められる。
こうした国会の動きが気になるのだろう。教団が久しぶりに記者会見し、被害補償の原資として60億円から100億円を国に供託する意向を明らかにした。
田中富広会長は「解散命令裁判が確定するまでは、資金の海外移転は考えていない」と言明し、財産を保全する法的措置の必要性を否定した。供託と引き換えに法的措置を回避したいようだ。
だが国への供託は現実的ではない。政府高官によれば、そもそも供託金を受け取る法的根拠が存在しない。
最大100億円の金額も説得力を欠く。政府が把握する献金被害は総額200億円を上回る。被害対策弁護団は、潜在的な被害額は約1200億円と推計している。
田中氏は記者会見で「おわび」を口にしたものの、「謝罪」や「被害者」の言葉を使うのを避けた。「組織的に問題を引き起こしたわけではない」とまで述べた。
教団を守る姿勢ばかりが強い印象を残した。高額な献金や霊感商法の被害に、誠実に向き合うつもりがあるのかどうか疑わしい。そう感じた国民が多いのではないか。
国会は自民党と教団側との関係もあり、長年にわたって被害の救済を怠った。その責任を自覚し、今国会で実効性のある仕組みを作るべきだ。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】 2023年11月09日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。