【大谷昭宏のフラッシュアップ・09.11】:桜井昌司さんの霊前に2つの「記念日」届けたい 無実の罪で29年間の服役
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【大谷昭宏のフラッシュアップ・09.11】:桜井昌司さんの霊前に2つの「記念日」届けたい 無実の罪で29年間の服役
8月23日死去、31日ご葬儀。日にちがたってしまったが、この方の訃報にはどうしてもふれておきたい。無実の罪で29年間も服役した布川事件の桜井昌司さんが亡くなった。76歳だった。
最後にお会いしたのは昨年10月。自身を描いた映画「オレの記念日」が完成、大阪の劇場で舞台あいさつされた時だった。がんと闘病中だったが「医者が2年という余命宣告を1年超えたよ」と、舞台の合間に元気に京都を往復されていた。
バンド演奏に詩作り。何事にも前向きで「この人生不運だったが、不幸ではなかった」と言い切る。だが冤罪(えんざい)に泣く他者のことになると柔和な表情は一変する。日野町事件、大崎事件、もちろん袴田事件。不当な判決や決定の場には決まって桜井さんの怒りをたぎらせた顔があった。その一方で冤罪をなくすことは、犯人をでっち上げた警察官、検察官、無実の人に不当な判決を下した裁判官、生涯もだえ苦しむこの人たちを楽にしてあげることにもなるという。
水戸市で行われた葬儀では、そんな桜井さんが刑務所内で「人生にはいつか春が来る」の思いを込めて作詩した「ゆらゆら春」を合唱。やさしかった桜井さんの思い出に、唇をふるわせている人もいたという。
不当な無期懲役の判決が確定した日も、息子の無罪を訴えて駅に立ってくれた父が亡くなった日も、みんな「オレの記念日」にしてきた桜井さん。いまも検察の陰湿執拗(しつよう)な審理妨害が続く袴田事件の87歳、巌さんの再審無罪確定。そして生涯の念願だった再審法の制定。この2つの新たな記念日を、1日も早く桜井さんの霊前にお届けしたい。
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◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)
ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。
■大谷昭宏のフラッシュアップ
元読売新聞記者で、87年に退社後、ジャーナリストとして活動する大谷昭宏氏は、鋭くも柔らかみ、温かみのある切り口、目線で取材を重ねている。日刊スポーツ紙面には、00年10月6日から「NIKKAN熱血サイト」メンバーとして初登場。02年11月6日~03年9月24日まで「大谷昭宏ニッポン社会学」としてコラムを執筆。現在、連載中の本コラムは03年10月7日にスタート。悲惨な事件から、体制への憤りも率直につづり、読者の心をとらえ続けている。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・連載・「大谷昭宏のフラッシュアップ」】 2023年09月11日 08:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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