【社説・12.21】:【再審見直しへ】:迅速な救済の責務がある
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.21】:【再審見直しへ】:迅速な救済の責務がある
刑事司法制度の大きな転換点となる。冤罪(えんざい)被害者の早期救済へ制度を整える必要がある。
刑事裁判をやり直す再審に関する刑事訴訟法の規定の見直しに向けた議論が本格化する見通しとなった。法務省は来春にも法制審議会に諮問し検討する方向で調整している。
裁判のやり直しは確定判決の証拠に偽造が判明したり、無罪を言い渡すべき明らかな証拠が発見されたりした場合などに行われる。だが、再審無罪が確定した袴田巌さんが司法に翻弄(ほんろう)されたことなど、制度の問題点が顕在化した。
刑訴法は再審手続きの規定が不明確だと問題視されるが、1948年に制定されて以降、再審に関する規定は見直されていない。日弁連などは法改正の必要性を訴えてきた。
証拠開示のルールの明文化は重要な論点だ。再審開始決定に対する検察側の不服申し立てを制限するかどうかなど、審理の長期化を防ぐ方策も焦点となる。
1966年の静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田さんが再審無罪を勝ち取るには、逮捕から58年を要した。80年の死刑確定の翌年に行った第1次再審請求は、最高裁の棄却まで27年かかった。
第2次請求で静岡地裁が2014年に再審開始を決め、死刑執行を停止し釈放された。しかし、検察の即時抗告に高裁は再審を認めなかった。弁護側の特別抗告で最高裁が審理を差し戻し、23年に高裁で再審が決定するという経緯をたどっている。最初の再審開始決定から無罪確定まででも10年になる。
第2次再審請求の審理では、裁判所は積極的に証拠開示を勧告した。みそタンクから見つかった犯行時の着衣とされた衣類のカラー写真や、取り調べの録音テープなどの証拠が開示された。血痕の赤みや取り調べ状況は論点となり、無罪へとつながる有力な材料となった。
当初から開示されていれば、審理の流れは変わっていた可能性がある。だが、再審には証拠開示の手続きが定まっていない。審理の進行は裁判所に委ねられ、裁判官によって向き合い方が変わることになる。見直しを求める意見は根強い。
審理の長期化を是正する必要性は繰り返し求められてきた。検察の抗告も長引く要因とされる。開始決定への異議申し立ては再審公判で行うようにして時間短縮につなげるべきだとの主張がある。
1986年の福井市中3女子生徒殺害事件で懲役7年が確定し、服役した前川彰司さんも再審が開始される。13年前に1度は再審が決まったが、異議審で取り消されていた。捜査報告書など新たな証拠の開示が大きかった。
検察には再審制度の見直しに慎重な姿勢があるようだ。三審制の下で確定した判決がたびたび覆るようでは刑事司法の安定性が損なわれると危惧する声があるという。だが、迅速な救済を放置することは許されない。司法改革を制度の安定と信頼へとつなげることが重要だ。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月20日 05:00:00 これは参考資料です。転載等は各自で判断下さい。
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