【社説①】:選挙妨害で逮捕 過度な規制招かぬよう
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:選挙妨害で逮捕 過度な規制招かぬよう
4月に行われた衆院東京15区の補欠選挙で他候補の演説を妨害したとして、警視庁は公選法違反(自由妨害)の疑いで、政治団体「つばさの党」の代表黒川敦彦容疑者ら3人を逮捕した。
選挙の公正さを損なう行為が許されないのは当然だ。同時に「表現の自由」に対する過度な規制を招かぬよう、注意も要する。
同党は他候補の街頭演説の場に乗り込んで、大音量で発言を重ねた。拡声器を使用して長時間に及んだほか、選挙カーを車で追い回す事例もあった。
聴衆が演説を聞き取れなかったり、演説が中止に追い込まれたりして有権者の知る権利が損なわれた。選挙への影響は重大だ。
個人が発する肉声のやじとは全く異なる。組織的で悪質性が高く到底、容認できない。
同党は自らの行為を「表現の自由」の範囲内だと正当化する。
しかし、表現の自由は憲法が保障する重要な権利でも、最高裁が「公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認する」と判示するように、どんな行為でも許されるわけではない。ヘイトスピーチが条例で禁じられるのが一例だ。
表現の自由が、他人の自由や人権の侵害までは許容していないことを確認する必要があろう。
選挙妨害容疑で、政治団体の幹部や元候補者本人が逮捕されるのは異例だ。言論弾圧とのそしりを招かぬよう、警視庁には厳正かつ慎重な捜査が求められる。
選挙は民主主義の根幹だ。違法行為も辞さない傍若無人な手法が横行すれば、選挙や政治に対する有権者の信頼が失われかねない。
同党は警告後も一連の行為を交流サイト(SNS)などで配信しており、ネットでの配信が妨害行為を過熱させたことは否定できまい。サイト運営業者には、こうした配信が妥当か、自主規制の在り方を再考するよう求めたい。
一部の政党からは、妨害行為の明確化や罰則強化など、公選法の改正論が出ている。法制度をネット時代に即して見直すことは必要だとしても、過度に規制して言論の自由を侵してはならない。
政党や候補者が望ましいかどうかは、選挙結果で示すしかない。ライバルの中傷ではなく、正々堂々と言論で戦っているか、国や地域の目指すべき進路と課題解決の方策を示しているか。それを見極めることこそ有権者の役割だ。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月18日 07:12:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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