《社説②・10.20》:五輪スポンサーの撤退 祭典の理念忘れた結果だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・10.20》:五輪スポンサーの撤退 祭典の理念忘れた結果だ
オリンピック・パラリンピックの最高位スポンサーである日本企業がそろって撤退することになった。パナソニックホールディングス(HD)、ブリヂストン、トヨタ自動車の3社だ。
最高位スポンサーは、国際オリンピック委員会(IOC)との契約で五輪マークを国際的に商業利用できる。世界で16社を数えるが、日本の3社はいずれも今年末で満了となる契約の更新はしないと発表した。
37年間に及んだ契約を打ち切るパナソニックHDは、経営環境や業態の変化を理由に挙げる。ブリヂストンは「モータースポーツ活動に注力する」と述べた。
トヨタの豊田章男会長は、選手のコンディションを軽視して真夏や夜遅くに競技を実施する大会運営に対し、「アスリートファーストなのか。こういう形でよいのか」と疑問を投げ掛けた。
大会は、巨額の放映権料を支払う米放送局の事情を優先して競技日程が組まれている。五輪の商業化による弊害の一つだ。
「商業五輪」の始まりとされるのは1984年ロサンゼルス五輪だ。開催都市の税負担が問題だった時代に、民間資金のみで運営する手法を採用して成功を収めた。
原則「1業種1社」というスポンサー制度によって、同じ業界の企業を競わせて協賛金をつり上げた。今ではスポーツビジネスの常識となっている。
大会の肥大化に伴い、最近は再び巨額の税金もつぎ込まれるようになった。官民が巨大イベントの利益に群がる風潮は「祝賀資本主義」と呼ばれ、批判されている。
3年前の東京五輪では、国内のスポンサー選びを巡る汚職事件が起きた。広告代理店や協賛企業から逮捕者が出て、五輪のイメージは損なわれた。世論の風当たりは強く、札幌は冬季五輪の招致を断念せざるを得なかった。
二つの戦争が続く中、今夏のパリ五輪では「五輪休戦」の国連決議が無視され、平和の祭典としての理念もかすんだ。
日本企業の契約終了について、IOCは「各社のビジネス戦略に基づく決定だ」との見解を示す。だが求められるのは、撤退を五輪の現状に対する警鐘と受け止め、抜本的な改革につなげる姿勢だ。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月20日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます