【時論・08.31】:課題整理し制度改正急げ/公益通報と兵庫県知事
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時論・08.31】:課題整理し制度改正急げ/公益通報と兵庫県知事
兵庫県の斎藤元彦知事は県議会の調査特別委員会(百条委員会)による証人尋問に臨んだ。自身のパワハラ疑惑などを告発する文書を関係者に配布し、県の公益通報窓口に通報した元県幹部の男性を法的に保護される通報者として扱わず、停職の懲戒処分にした。男性はその後、死亡。自殺とみられ、処分の是非と告発内容の真偽が焦点だ。
尋問で斎藤氏は「文書に事実でないことが多く含まれ、誹謗(ひぼう)中傷性が高いと県として認識し、調査した」と処分の正当性を強調。パワハラ疑惑は認めなかったが、職員を強く叱責(しっせき)したことについて「当時の判断として適切だったと思っているが、振り返ってみれば申し訳なかった」と述べた。
百条委は職員に非公開の尋問を実施。人事当局が公益通報を理由に処分は待つべきだと進言したのに、斎藤氏側は聞き入れなかったとの証言を得ている。また全職員アンケートでは、4割近くが知事のパワハラを見聞きしたと回答。今後も斎藤氏や幹部、職員の尋問を重ね、処分の経緯などを詳細に検証して年内に調査報告書をまとめる。
各方面から斎藤氏に辞職を求める声が広がっているが、証言などの信ぴょう性を冷静に見極めたい。さらに20年前にできた公益通報制度の課題を整理し、見直しにつなげるべきだ。特に通報者保護の実効性を高めるため、制度改正を急がなくてはならない。
尋問で斎藤氏は男性について「一緒に仕事をした仲なのに、どうして、こういう文書をまいたのかという思いがあった」とも述べた。百条委は9月に入り、告発文書を公益通報として扱わなかった対応などを検証する。
男性は3月、告発文書を県議会関係者や報道機関に配布し、4月初めには県の公益通報窓口にも通報した。職員に対するパワハラや地元企業への贈答品の「おねだり」、補助金を巡る不正など7項目の疑惑を挙げた。
公益通報者保護法は通報を理由とする降格など不利益な扱いを禁じるが、斎藤氏は窓口に通報する前の文書配布は「保護の対象外」と弁護士から助言され、内部調査を指示。県は5月に「根拠のない誹謗中傷」とし、停職3カ月の懲戒処分にした。これに調査の中立性を疑問視する声が噴出。百条委が設置された。
男性は7月に死亡。専門家から、通報窓口の調査結果を待つべきだったとの指摘が相次いだ。
告発直後、斎藤氏は「うそ八百」と非難したが、本当にそうなのか。百条委の尋問では、出張先で公用車を降り20メートル歩かされ怒鳴ったと、告発文書の内容と重なる証言が出た。ほかに、職員に文具を投げるのを見た-などの証言も複数ある。
斎藤氏が処分に前のめりになったのは否めないだろう。役所でも企業でも公益通報はリスクを伴う。とりわけトップの責任を追及しようとすると組織を挙げて「犯人捜し」が行われ、通報者は不利益な扱いを受ける恐れがある。
4年前の法改正で通報窓口の担当者に守秘義務が課され、漏えいに刑事罰も導入された。しかし兵庫県の問題を見ても分かるように、安心して通報できる状況には程遠いと言わざるを得ない。不利益な扱いに刑事罰を設けることなどを検討すべきだ。通報者をきちんと守ることができる仕組みを整える必要がある。
元稿:東奥日報社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【時論】 2024年08月31日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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