【主張①・12.30】:回顧2024 日欧韓で政情が不安定に 専制国家を勢いづかせるな
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【主張①・12.30】:回顧2024 日欧韓で政情が不安定に 専制国家を勢いづかせるな
国際秩序が専制国家の挑戦を受ける中、民主主義を奉じる国々が十分に結束できたとは言い難い1年だった。
背景に国内の政情不安があったことは否定できない。日本の政治も混迷の度合いを深め、いまなおその状況から脱却できずにいる。
米フロリダ州の集会に妻のメラニアさんと登場し、ポーズをとるトランプ前大統領。大統領選の勝利宣言を行った=11月6日(ロイター)
反日的な中国、ロシア、北朝鮮に囲まれている日本は、独立と繁栄を守るために抑止力と対処力を強化し、自由で開かれたインド太平洋、国際秩序の担い手として能動的役割を果たさなければならない。
だが、岸田文雄前首相と石破茂首相は、自民党の旧安倍派を中心とする派閥パーティー収入不記載事件に端を発した政治とカネの問題に振り回された。
◆総裁交代も再建進まず
東京地検特捜部が1月に元衆院議員、池田佳隆被告を逮捕するなど立件を進めていく中、自民は派閥や政治資金の問題に取り組むことを迫られた。
しかし、信頼回復に至らなかった。8月に岸田氏は「自民が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と述べ、9月の総裁選への不出馬を表明した。
総裁選は史上最多の9人が立候補した。政策論争を通じて、党の立て直しは進むとの見方も当初はあった。
だが、新総裁に選ばれた石破首相は衆院選を巡り、不記載だった前議員の非公認を増やしたり、比例代表との重複立候補を認めなかったりした。政治とカネの問題ばかりが報じられ、最大の争点となり、与党過半数割れの大敗につながった。石破首相に大きな責任がある。
政権選択選挙の衆院選は、外交安全保障など国家の針路を問う選挙にならなかった。
衆院選公示の前日である10月14日、中国は台湾を包囲する形で大規模な軍事演習を行った。8月には中国軍機が日本の領空を侵犯し、9月には空母「遼寧」が一時日本の接続水域に入り、ロシア軍機が領空侵犯した。北朝鮮は弾道ミサイルを相次いで発射した。
脅威が高まっているにもかかわらず、各党の幹部や候補者から危機認識があまり聞かれなかったのは理解に苦しむ。
外交安保が十分論じられなかった責任は野党にもある。立憲民主党なども政治とカネの問題に焦点を当てていたからだ。
9月の立民代表選で新代表に選ばれた野田佳彦元首相は「本気で政権を取りにいく」と語った。だが、そもそも立民には政権担当能力が欠けている。野田氏も従前通り、集団的自衛権の限定行使容認について違憲との考えを維持している。日米同盟を揺るがす危うい姿勢だ。
衆院選で立民が大幅に議席を伸ばしたのは、自民批判票の受け皿になったからで、立民自体への強い支持とはいえない。
30年ぶりの少数与党政権は将来の展望を描けずにいる。
◆SNSが選挙左右した
地方選では、SNSを駆使した無所属候補が善戦または当選する現象が起きた。
7月の東京都知事選で前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が次点となり、11月の兵庫県知事選で斎藤元彦氏が再選したのはその典型だ。有権者の既成政党への忌避感の高まりも影響していよう。
政情が不安定化したのは日本だけではない。欧州諸国も激変に見舞われた。フランスでは国民議会(下院)の総選挙で、マクロン大統領の与党連合が議席の3分の1に届かなかった。12月には内閣不信任が決議された。ドイツでは11月にショルツ連立政権が崩壊した。英国では7月の総選挙で与党が大敗し、14年ぶりに政権交代した。
ロシアが侵略を続けるウクライナへの支援で結束が重要なときに、欧州各国の政治が不安定なままでは対露圧力を弱めることにもなりかねない。
来年1月20日に米大統領に再登板するトランプ氏が強引な早期停戦を目指しているとみられることも不安材料である。
米大統領選では社会の分断がさらに深まった。トランプ氏は演説中に銃撃された。もし暗殺されていたら、収拾のつかない大混乱に陥っただろう。
韓国では尹錫悦大統領が一時戒厳令を宣布する暴挙に出た。大統領弾劾訴追案が可決されるなど混乱が続いている。
内政だけに気を取られすぎていては、専制国家に乗じられてしまう。日本をはじめとする民主主義の国々はそのことを強く認識せねばならない。
元稿:産経新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【主張】 2024年12月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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