【社説・05.02】:人口減少社会 若者が希望持てる施策を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.02】:人口減少社会 若者が希望持てる施策を
人口減少によって「将来、消滅の可能性がある」自治体が全国で4割に上り、道内では6割超の117市町村に達する―。
有識者らでつくる「人口戦略会議」が発表した報告書は、少子化と人口流出が自治体の存続を危うくする現実を改めて突き付けた。
同会議副議長の増田寛也元総務相が座長を務めた日本創成会議が2014年に発表した「増田リポート」より若干改善したが、少子化の基調は全く変わっていない。
少子化の大きな要因は婚姻数の減少だと専門家は指摘する。若者が希望すれば、安定した仕事を得て、安心して結婚、出産、子育てできるよう、国や自治体は施策を一層充実させるべきだ。
地方にとっては、若者が東京圏など他の自治体へ流出すれば「社会減」となるばかりでなく、子どもを産む人も減り「自然減」も進む。流出を食い止める施策を急ぐ必要がある。
岸田文雄政権は「異次元の少子化対策」を掲げるが、一朝一夕には進まない。親となる世代は既に少なく、人口は当面減り続ける。人口減少社会への適応にも同時に取り組まなければならない。
■質の高い雇用が大切
今回の報告書の特徴は、地方から若者を吸い寄せながら、出生率は低い東京圏などの自治体を「ブラックホール型自治体」と名付け警鐘を鳴らしたことだ。
実際、女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す合計特殊出生率は全国平均1.26だが、東京都は都道府県最下位の1.04だ。
道内では札幌市がブラックホール型に近い。道内外から流入が多いものの、合計特殊出生率は1.02にとどまる。札幌から道外へ流出する若者も目立ち「ダム機能」を果たしているとも言えない。
地方から札幌へ、さらに東京へという流れを抑える必要がある。
東京は給与水準が高いが、家賃などの生活費はかさむ。可処分所得や通勤時間などを考慮すれば、地方の魅力も大きいはずだ。
地方に賃金など質の高い雇用をつくることが何より大事だ。札幌など都市部も、正社員を増やしたり、男女の待遇格差や長時間労働を是正したり、雇用環境を改善することが求められる。
■変化への適応急務だ
この10年を振り返ると、政府は「地方創生」や「まち・ひと・しごと創生」など地方活性化策を打ち出した。国が枠組みを用意し、自治体が計画を策定し、国が認めれば交付金を出す仕組みだ。
だが自治体は交付金獲得ばかりに目が向き、似たような計画をつくった。移住者の誘致合戦に終わった側面もある。どんな資源があり、どう生かせるかという内発的なまちづくりには至らなかった。
岸田政権は、その検証と反省を踏まえねばならない。
自治体が子育て施策を充実させ、移住者や関係人口を増やしたり、地域内で経済を循環させる、その意義は薄れてはいない。
ただ対策が一定の成果を挙げたとしても、人口減少のペースが幾分抑制されるに過ぎない。
国立社会保障・人口問題研究所の50年までの推計によると、全道の市町村全てで人口が減る。
変化への適応が急務だ。
住民合意を前提に、まとまって暮らす集住化を進めたり、消防や水道事業などの広域連携を一層進めたりすることが考えられる。
■再分配が欠かせない
「増田リポート」は若い女性が流出する自治体は将来消滅すると指摘した。今回の報告書も、女性の「産む役割」を強調するような書きぶりには疑問が残る。
結婚や出産をしない選択が珍しくなくなり、生きやすくなった人も多いことを忘れてはならない。
大事なのは、結婚・出産を奨励するのではなく、したくてもできない人の障壁を取り除くことだ。
とりわけ非正規雇用で働く若者が置き去りにされている。
低賃金で結婚に踏み切れない人が多く、結婚しても、育児休業給付金(育休手当)の受給要件は正社員に比べて厳しい。仕事と出産が両立できない状況だ。
同一労働、同一賃金の原則はもとより、どのような働き方であっても、出産や育児で格差のない制度をつくるべきだ。
富の偏在を是正し、全体を底上げするためには再分配が欠かせない。富裕層の資産所得に課税するなどして、財源を確保することも検討してもらいたい。
子どもを持つことをリスクだと考える若者もいる。高額な教育費や自身のキャリア形成への影響などへの懸念からだ。子ども時代から大人になっても続く競争社会が出生率低下の一因だとも言える。
都市であれ地方であれ、若者が生き生きと暮らせる環境づくりが何より求められる。政府にはグランドデザインを示す責任がある。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月02日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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