【社説①・01.04】:<戦後80年に考える>:揺らぐ民意 参加が議会政治を鍛える
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・01.04】:<戦後80年に考える>:揺らぐ民意 参加が議会政治を鍛える
政治が民意のありかをつかみかねている。そんな印象が拭えない。
昨秋の衆院選の投票率は戦後3番目に低く、半数近い有権者が投票に行かなかった。自民党裏金事件と政治改革という注目を集めた大きな争点があったにもかかわらずである。
一方、選挙の風景を一変させているのが交流サイト(SNS)だ。その影響は不利とみられた候補や小政党を台頭させる予想外の結果を生み、既成政党は対処に戸惑いを隠せない。
日本国憲法は国民主権と代表民主制をこの国の統治の根本原理として定めた。主権者である国民は、選挙で選ばれた代表者を通じて国の政治に参加する。
だが戦後80年たった今、その実感は乏しくなっているように映る。諦めや無関心がおりのようにたまり、SNSが不満のはけ口となっている側面もある。
広範な民意に基づいてこそ議会政治は鍛えられる。主権者の参加意識を取り戻すにはどうすれば良いかを問い直したい。
■SNS時代にどう対処
SNSは昨年の東京都知事選、衆院選に大きな影響を与えた。さらにパワハラ疑惑などで失職した兵庫県の斎藤元彦知事がSNSを背景にして再選されたことは、世論に驚きを持って受け止められた。
SNSは誰もがいつでも手軽に情報を発信でき、拡散力が強いのが特徴だ。政治家は有権者に直接訴えることができ、受け手も身近に感じられる。それが社会を動かす爆発的なエネルギーにつながることがある。
だが、負の面も目立つ。短い言葉や動画によって情報は単純化され、似た意見ばかりに接して異論が届きにくくなる。誤情報や偽情報が含まれる可能性があり、匿名性によって誹謗(ひぼう)中傷も拡散されやすい。
その結果、分断や対立をあおりかねないことは、トランプ氏が勝利した昨年の米大統領選を見ても明らかだ。
ナチス・ドイツは新興のラジオを大衆の心理操作に最大限活用した。近年はテレビを通じた劇場型政治が世論を左右した。
利便性の高いメディアは社会にとってプラスにもマイナスにも働く。問題は特性を踏まえながらどう向き合うかだろう。
表現の自由に抵触しかねない安易な規制は慎むべきだ。ファクトチェック(事実確認)の仕組みや、情報リテラシー(知識や判断力)をより高め、SNS時代の政治参加を深めたい。
■改革のひずみ修正を
現在、衆院はどの党も議席の過半数を得ていない「ハング・パーラメント(宙づり国会)」とも呼ばれる。これにより第2次安倍晋三政権時代に始まった自民1強体制は瓦解(がかい)した。
戦後改革に匹敵する「改革の時代」と呼ばれた平成期は、衆院への小選挙区比例代表並立制導入や省庁再編と内閣機能強化、地方分権など、さまざまな政治・行政制度が改められた。
官邸主導を徹底した安倍氏の長期政権はそうした改革の成果を享受したかのように見えた。だが、官僚は政治家の顔色をうかがうようになり、公文書の隠蔽(いんぺい)や改ざんなどが広がり、むしろひずみが目立つようになる。
民意が離れるきっかけとなった裏金事件は、肥大化した与党のおごりの象徴だろう。
当初目指した「政権交代可能な政治」や「政策を競う政党本位の政治」も定着したとは言えない。今は既成政党の信頼が揺らぎ、小政党や無党派が伸長するなど多党化が進んでいる。民意の多様化が、より一層その傾向を強めているように見える。
改革当時、若手論客だった石破茂首相は国会で「平成の改革は、選ばれるわれわれの理屈でやっちゃったんじゃないかという反省がある」と振り返った。
国民の意思を政治に反映する仕組みをもう一度作り直さなければならない。熟議による合意形成が求められる少数与党下の国会は、その好機とも言える。
■権力の監視を不断に
世界を見渡せば、議会制民主主義の形態を取る国でさえ権威主義的なリーダーが台頭している。「選挙独裁」との言葉も生まれた。
懸念されるのは、日本の政治の停滞や混乱が国民の失望をさらに広げ、民主主義の空洞化が進まないかということだ。
戦後論壇の旗手だった政治学者の丸山真男は、政治を「気圧配置」にたとえた。
政治家やそれに関わろうとする人たちだけでなく、政治に関心を持たない人たちの群れのムードによっても、政治的な「気圧」は作り出されるという。
その上で「政治から逃避する人が多ければ多いほど、それはその国の政治に巨大な影響を及ぼし、専制政治を容易にするという逆説がみられる」(「政治的判断」)と警告した。
不完全で揺れ動きやすいのが民主主義だ。権力を不断の監視の下に置き、常に鍛え直す努力を私たちの手で続けていかねばなるまい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月04日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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