【社説・12.19】:エネルギー計画原案 原発回帰は現実的なのか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.19】:エネルギー計画原案 原発回帰は現実的なのか
2011年の東京電力福島第1原発事故で得た教訓を放り出すつもりなのか。
経済産業省がおととい、3年ぶりに改定するエネルギー基本計画の原案を有識者会議で示した。事故後、明記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除した。安易に原発回帰にかじを切らないよう国自ら戒めてきた文言だ。地震多発国のリスクをまたも軽視している。
原発の建て替えを巡り、廃炉が決まった原発の敷地外でも建設できる方針を示したのも看過できない。事実上、新設容認に踏み込んだ。
2年前に原発政策を大転換させた際、GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針で容認した「廃炉の敷地内」の制限を緩和することになる。九州電力が玄海原発1、2号機(佐賀県)の廃炉後、川内原発(鹿児島県)の敷地内に建設すると想定した動きである。
原発の方向性は本来、国民的な議論を十分に踏まえて決めるものだ。原発推進派の委員が大半の有識者会議では、再生可能エネルギーの現状を的確に理解し、原発の負の側面を直視した議論ができるとは思えない。
この原案の延長上では、将来に禍根を残しかねない。政府は来年2月の閣議決定を目指すというが、議論の在り方を含めて再考すべきだ。
電力の安定供給を掲げて原発回帰を鮮明にした基本計画原案は、そもそも現実的なのだろうか。40年度の発電量に占める割合は原発が2割程度、再生可能エネルギーは4~5割程度、火力は3~4割程度とした。2割程度にするには、既にある36基をほぼ動かす必要があるが、福島の事故後に再稼働できたのは14基に過ぎない。23年度の原発の割合は8・5%にとどまる。
再稼働は原子力規制委員会の審査や安全対策を徹底し、地元の同意がなければ進められないのは当然である。時間がかかり、加速は無理だろう。国民の懸念を解消できていないからだ。
これまで原発はコストが低く、経済性に優れるとしてきたが、冷静に見極めねばならない。経産省による40年の発電コストの試算で、原発は安全対策費が膨らみ、太陽光など再生エネとそう変わらない。しかも近年、建設費は高騰し、始まったばかりの福島第1原発の廃炉費用も見通せない。試算が楽観的過ぎる。
安全対策を徹底した上での再稼働や、まして建て替えや新設の巨額投資に大手電力会社が耐えられないのが現実だ。政府は建設費を電気料金に上乗せできる制度を視野に入れる。国民負担を増やす政策であり、熟議が要る。
説明が不十分なまま、原案は再生エネと原子力をともに「最大限活用」すべきだとし、二つの選択肢を同等に追う姿勢を示した。理解し難い。
今回、最も議論すべきは、気候変動対策の国際的な責任として石炭火力の削減と、脱炭素の王道である再生エネをどう増やすかのビジョンと具体策である。原発に固執するあまり、危機感のない基本計画であってはならない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月19日 07:00:00 これは参考資料です。転載等は、各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます