《社説②・11.30》:クルド人ヘイト 許さぬ姿勢、社会が示す
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・11.30》:クルド人ヘイト 許さぬ姿勢、社会が示す
少数者への差別をあおり、排斥する言動が激化し、状況は深刻さを増している。一地域の問題として見過ごすわけにいかない。
埼玉県の川口市や隣の蕨市に暮らすクルド人へのヘイト(憎悪)行為である。地域外から押しかけた団体、個人が「日本から出て行け」などと叫ぶデモを繰り返し、脅迫や嫌がらせの電話、落書きも相次いでいる。
インターネットにも誹謗(ひぼう)中傷の書き込みがあふれる。中でも悪質なのが、写真や動画を無断で撮ってSNSに投稿し、デマをまき散らす行為だ。
子どもまで標的にされている。店内で女の子を隠し撮りした動画が、万引の常習者であるかのような虚偽の説明を付けて投稿され、拡散された事例もある。
さいたま地裁は先週、クルド人に対するヘイトのデモを禁止する仮処分命令を出した。神奈川県の男性がSNSで告知したデモについて、在日クルド人の団体が差し止めを申し立てていた。
仮処分は、排斥デモを繰り返してきた男性に、団体の事務所周辺で演説やビラの配布を禁じたが、それでデモが収まったわけではない。禁止命令後、別の保守系グループがその区域内でデモを行い、男性が区域の外で行った街宣にも十数人が集まったという。
川口や蕨には1990年代ごろからクルド人が住むようになり、現在は2千人以上が暮らす。難民と認められず、在留資格がないまま、仮放免の状態に置かれている人が少なくない。
ヘイト行為が目立つようになったのは昨年からだ。夏に、クルド人同士のもめごとから病院に双方の親族らが集まる騒ぎがあり、一部のメディアが「暴動」などと報じたほか、動画が拡散して、敵視する言動を勢いづけた。
2016年に制定されたヘイトスピーチ解消法は、差別の禁止規定を置かず、排斥を止める力になっていない。在日朝鮮・韓国人へのヘイトに対し、川崎市が刑事罰を含む差別禁止条例を定めたことで、攻撃の矛先が川口周辺のクルド人に向かった面がある。
敵意をむき出しにするヘイトの言動は、それにさらされる人の尊厳を傷つける暴力だ。差別や排外主義がはびこれば、民主主義の根幹である人権の保障が揺らぐ。
当事者の問題とせず、社会全体で立ち向かわなくてはならない。政府、各自治体は、ヘイトを許さない姿勢を明確に示すとともに、差別を防ぐ条例や法のあり方を議論する必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月30日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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