【社説・05.04】:核のごみ最終処分場 適地探し難航、政策再検討を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.04】:核のごみ最終処分場 適地探し難航、政策再検討を
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選びが、政府の思うようには進んでいない。
3段階ある選定調査のうち、最初の文献調査は北海道の2町村で実施されただけ。経済産業省が今月初め、佐賀県玄海町に文献調査を申し入れ、ようやく3番手が誕生するかもしれない程度だ。
処分場の場所を決めた国々では、当初の候補地は10カ所前後あったという。それに比べると、お寒い限りだ。
選定の手続きを定めた特定放射性廃棄物最終処分法の施行から四半世紀近い歳月が過ぎた。なぜ理解が広がらないのか。選び方や処分方法に問題はないか。視野を広げて政府は検証すべきである。
原発の使用済み核燃料から再処理工場でプルトニウムやウランを取り出すと廃液が残る。それが核のごみで、政府は地層処分する方針だ。ガラスで固め、地下300メートルより深い岩盤に金属容器や粘土で覆って数万年以上埋める。
適地は、20年ほどかけて文献、概要、精密の3段階の調査を通して選ぶ。文献調査を受け入れれば、自治体には最大20億円が交付される。第2段階の概要調査まで進むと交付金は最大70億円にもなる。人口減に悩む自治体には目のくらむような金額だろう。
それでも候補地選びは難航している。住民の反対という壁があるからだ。2007年に応募した高知県東洋町も強い反対が起きて取り下げた。
知事も壁になり得る。最終処分法では、知事の意見を聴き、十分に尊重しなければならないと定められている。北海道の2町村の場合、知事は反対姿勢を崩しておらず、次の段階に進めるか、不透明だ。玄海町に関しても、佐賀県知事は反対している。
気になるのは、政府の科学的特性マップの扱いだ。活断層からの距離などを考え、適性の度合いに応じて色分けしている。石炭が埋蔵された玄海町はほぼ全域が「銀色」。掘り起こす可能性があり、好ましくない特性があると推定されている。それなのに、なぜ候補地になるのだろう。
そもそも、日本に数万年も核のごみを安全に「保管」できる適地があるのか。地層処分の先行例は北欧にあるが、地震や風水害の多い日本とは環境が異なる。昨年秋、地球科学の専門家らが「日本に適地はない」との声明を出した。疑問は膨らむばかりだ。
とはいえ、核のごみは既に多く生み出されてきた。原発を動かす限り、さらに増えていく。放置はできない。
原発による電気を使い便利な生活を送ってきた以上、私たち国民の責任も否定できない。核のごみをどうするか自分ごととして考え、納得いく解決策を探らねばならない。
過疎の自治体を念頭に、札束をちらつかせて引き受け手を探す今の政府のやり方には限界がある。原発のある玄海町の浮上によって、立地自治体に責任が押し付けられかねない懸念も新たに生じた。
安全な地層処分は日本でも可能か、カネ頼みの適地探しを続けるのか。政策の再検討こそが求められている。
元稿:中国新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月04日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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