【小社会・01.03】:漆器の縁
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【小社会・01.03】:漆器の縁
正月の食卓を彩るおせちは、盛り付けも腕の見せどころ。小欄の親戚宅では毎年、使う器にもこだわっている。土佐古代塗の重箱だ。
若い世代にはなじみの薄い器かもしれない。古代塗は明治時代に作られ始めた高知特産の漆器。今は一部でしか作られていないが、明治末期から昭和の中頃まで生産が盛んで、引き出物や記念品などとして重宝された。
よくある装飾的な漆器と違って、飾り気がなく実用的なのが特徴で、これは明治の土佐の精神風土が反映されたとか。そしてもう一つの持ち味が、独特のザラザラとした手触り。器の強度の根源ともされる。
このザラザラ、昔は石川・輪島市から原料を仕入れていた。輪島でしか採れない珪藻(けいそう)土を焼いて砕いた粉で、使うことで耐久性や耐熱性が増す。あの輪島塗ブランドを支える素材の一つである。採取量を抑えようと40、50年前に域外不出となり、古代塗も代替品の開発に迫られたが、古い器は輪島の土が使われているとみてよい。
能登半島地震から1年がたった。年始の報道ではさまざま人が取り上げられ、輪島塗の話もあった。復旧が苦戦する中、被災地で最も切実だったのは「能登を忘れないで」との声ではなかったか。
親戚宅で古代塗に盛り付けたおせちを頂いた。料理より器、ではないけれど、漆器を通じた能登との縁を確かめる。被災地と遠い高知からでも、思いをはせるきっかけはいろいろとある。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【小社会】 2025年01月03日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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