【社説・01.01】:【年初に 戦後80年】教訓生かす決意を新たに
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.01】:【年初に 戦後80年】教訓生かす決意を新たに
2025年が明けた。
光の差す一年を願い、決意を新たにする一日になる。
同時に、今年は膨大な犠牲を生んだ太平洋戦争、第2次世界大戦の終結から80年の節目となることも心に刻みたい。
昨年末、被爆の実相を証言し、核兵器廃絶を長年訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)にノーベル平和賞が授与された。受賞演説で92歳の田中熙巳(てるみ)代表委員は「10年先には直接の体験者としての証言ができるのは数人になるかもしれません」と運動の継承を訴えた。
広島、長崎の被爆だけではない。戦争体験世代は高齢化し「生の声」を聴く機会は失われつつある。
総務省の一昨年秋の人口推計によると、戦前生まれは総人口の1割強だった。14年度に約5万人いた旧軍人の恩給受給者は、23年度には約1400人となった。長い歳月の流れが直接の記憶を遠ざけていく。
世界に目を転じると、惨禍は各地で再現されている。
ロシアがウクライナへの全面侵攻を始めてから2月で3年になる。双方とも死傷者は既に数十万人に上ると推計される。パレスチナ自治区ガザでの戦闘もやまず、ガザ側の死者は4万5千人以上とされる。
米国ではトランプ次期大統領が今月就任する。いずれも早期終結に言及するが、道筋は示していない。それが国際秩序や将来の平和に寄与するやり方かも見通せない。
アジアでも中国が台湾統一への圧力を強め、北朝鮮はロシアとの軍事協力を深める。日本政府はこの10年余り、防衛力強化を推し進め、平和国家の国是である「専守防衛」は大きく揺らいでいる。
14年には現行憲法の核となる9条の解釈を変更し、集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。制約はあるとはいえ、自衛隊の海外での武力行使に道を開いた。
22年には反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を決め、23年度からの5年間で防衛費に総額約43兆円の巨費を投じる。23年には殺傷能力がある武器の輸出を決めた。
問題は、国民が選んだ与党の「1強政治」だったにせよ、これら国のあり方を転換する決定が、国民的な議論や合意を欠いたまま行われてきたことではなかったか。
昨秋の衆院選で石破茂政権は少数与党になった。28年ぶりに予算案が修正されるなど、与党の独断専行が許されない熟議の兆しが見える。
戦前戦中に塗炭の苦しみを味わった世代が、圧倒的多数になった戦後世代に託したいものは何か。戦後世代は、あの戦争と現代の国際社会にどう向き合うべきか。公論で物事が決まる環境を、あらためて自問自答する機会としなければなるまい。
今年は6434人が犠牲になった阪神大震災から30年でもある。その後も東日本大震災、熊本地震、1年前の能登半島地震と震災のたびに次の南海トラフ地震に備える私たちが学ぶべき教訓は増えている。
教訓を受け止め、考える決意を新たにする年にしたい。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月01日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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