【兵庫県知事のパワハラ疑惑】:斎藤元彦知事が「不信任」つきつけられた一部始終…支援してきた維新の県議はそれでも「未練」を語った
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【兵庫県知事のパワハラ疑惑】:斎藤元彦知事が「不信任」つきつけられた一部始終…支援してきた維新の県議はそれでも「未練」を語った
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑を巡る告発文書問題は19日、県議会の全会一致で知事の不信任決議案が可決される事態となった。告発発覚から約半年。県議会の調査特別委員会(百条委員会)が行われる中、告発した職員は死亡。知事は今後の対応を明言せず、県政は停滞と混乱を極めている。緊迫の一日を追った。(山田祐一郎、森本智之)
◆自民党県議が不信任決議案を読み上げ
「県民の信頼を損ない、県職員を動揺させ、議会を巻き込み、県政に長期にわたる深刻な停滞と混乱をもたらしたことに対する政治的責任は免れない」
19日に兵庫県公館で行われた県議会本会議。最大会派の戸井田祐輔県議(自民党)が読み上げる不信任決議案の文言を、斎藤元彦知事は真っすぐ前を見据えて聞いた。投票は記名式。86人の議員が壇上の投票箱に次々と賛成の白票を投じていったが、知事の表情は硬いまま。午後5時35分、浜田知昭議長が「可決されました」と宣言すると、議場からは拍手が湧いた。斎藤知事は、議長や県職員に何度も頭を下げて退場した。
◆「改めるべき点をしっかりと受け止め、日々の仕事に生かす」
斎藤知事の疑惑を指摘する3月の告発文書を発端とした今回の問題。百条委が実施した県職員アンケートでは4割がパワハラを見聞きしたと答えた。告発文書を「うそ八百」と知事に会見でなじられた上、5月に懲戒処分を受けた元西播磨県民局長が7月に死亡し、公益通報者保護の姿勢に欠ける知事や県の対応に、批判が高まった。
この日、県議会の議場に用意された120席の傍聴席は、メディア関係者や一般傍聴者で埋まった。斎藤知事は午前11時すぎ、一礼をして議場に入り、補正予算案の提案理由説明で登壇。「多くの県民の方々にご心配をおかけしたことを、改めて心よりおわび申し上げる。反省すべき点、改めるべき点をしっかりと受け止め、日々の仕事に生かす」と詰めかけた県民らに頭を下げた。
◆維新県議は不信任の賛成討論なのに「知事の実績」を強調
午後3時15分すぎ、補正予算案などを可決後に自民党から動議が出され、不信任決議案を提出。各会派の代表と無所属議員2人による賛成討論が行われたが、会派によって追及のトーンは異なった。
立憲民主党県議らでつくるひょうご県民連合の迎山志保県議は「死亡した告発者を追い込んだのは究極のパワハラ」「知事が『道義的責任が何か分からない』と発言したことに多くの県民があぜんとした」と非難。一方で斎藤知事を選挙で推薦した第2会派、維新の会の徳安淳子県議は斎藤知事の実績を強調した上で「議会を解散すれば、積み上げた実績が帳消しになる」「知事と思いを共有できないことが大変残念だ」と未練をにじませた。
斎藤知事は8月30日と9月6日に百条委の証人尋問に出席。一部行為を認めたが、パワハラとは認めず、文書についても公益通報には当たらないと自らの正当性を強調した。県議会の全会派と無所属の全86議員が辞職を求めても応じなかった。
そして全会一致での不信任決議。知事は10日以内に辞職するか議会を解散しなければ失職する。本会議終了後、報道陣の取材に応じた斎藤知事は「いまの状況を招いたのは、私に責任がある。結果責任を感じている」としつつ、今後の対応について明言を避けた。
◆県民の思いは…「知事を推薦した政党の責任も大きい」
兵庫県政の停滞はさらに長引きそうだ。この日傍聴に訪れた西宮市の自営業吉村平さん(84)は「百条委を通して知事が自身の非を認めず、内部告発や職員が亡くなったことに対する正直な思いを聞けなかったのが残念だ」と話す。
神戸市中央区の主婦(71)は「異論を排除するだけで自身の責任を認めない」と批判。県議会にも「もっと早く対応できたはずだ。裏には政治家同士のいろいろな思惑があったのでは」と不信の目を向ける。
同市灘区の無職男性(74)は「斎藤知事の(職にとどまる)対応は、法律上認められている」としつつも「やらなくてもよい選挙をすることになった。負担は県民にのしかかる」と県政の停滞を危ぶむ。さらに、初当選した知事の人柄までは選挙で分からなかったとして、「このような結果になったのは、知事を推薦した政党の責任も大きい」と指摘した。傍聴した中には「1日も長く職にとどまって、多くの退職金を得たいのだろう」と切り捨てる男性もいた。
◆苦情の電話鳴り止まず 県職員は「疲弊している」
県人事課によると、辞職、失職にかかわらず知事には退職金が支払われる。在職期間で金額は変わるが、9月29日までに辞めるとその額は1561万7700円。ひと月延びるごとに42万円増える。一方、辞職でも議会解散でも選挙は確実となり、県選挙管理委員会によると、直近の実績値で知事選は18億円、県議選は16億円。議会を解散した上、知事が辞職する「ダブル選挙」も制度上はあり得る。
ただ県政にも影響が出ている。問題の発覚後、斎藤知事側近とされた幹部が県政混乱の引責や、体調不良などを理由に相次いで辞職。県広報広聴課に寄せられた電話は問題が発覚した3月下旬から9月18日までに5620件に達した。大半が知事への苦情といい、1日に200件を超えたことも。同課の担当者は「朝から晩まで常に電話が鳴っている状態。他部から応援職員をもらっているが、疲弊している」と漏らす。
◆知事の不信任は5例目 選択肢の一つ「解散」は前例なし
総務省によると、戦後把握している都道府県知事の不信任決議案可決は今回で5例目だが、知事が議会を解散した事例はない。2002年の田中康夫長野県知事のように可決された後、10日以内に辞職も解散もせず、地方自治法の規定により失職し、出直し知事選で再選を果たした例もある。
なぜ議会の解散権は行使されてこなかったのか。
中央大の佐々木信夫名誉教授(行政学)は「解散しても新議会で首長支持派が過半数を獲得できなければ、再び不信任決議をされて失職する可能性が高いからだ」と解説。全議員が今回の不信任案に賛同した斎藤知事も同様の状況が見込まれ、「事態を収束するには自ら辞職するのが常識的な選択だ」と促した。
二元代表制の両輪として議会と首長には相互にチェックしあう権限が与えられているが、知事は多くを過ちと認めず、選挙の行方も見通せないのが現状だ。
◆「当初、県議会側も告発文書を軽視した」
元神戸新聞記者でノンフィクションライターの松本創氏は「問題当初、県議会側も告発文書を軽視したきらいは否めない。『誹謗(ひぼう)中傷』と扱った県当局と同様に深刻に受け止めなかった。中でも自民と維新が知事の責任を問うことに躊躇(ちゅうちょ)したのは大きい。特に維新は百条委でも露骨に知事を擁護する質疑をする議員がいるなど、ギリギリまで非常に擁護的だった」と話す。
3年前の知事選で相乗りで斎藤氏を推したのが自民と維新だった。「不信任決議となれば『製造物責任』を問われる。だから誰も知事の首に鈴を付けられなかった。知事が議会解散を選べば、大阪・関西万博などで逆風の維新は厳しい選挙になる。恐れた面もあっただろう」とし、追及が遅れた議会の責任も「当然ある」と批判した。
◆デスクメモ
「知事と議会は車の両輪」。東京都庁を担当した当時、知事与党の都議から再三聞いた言葉だ。不祥事を起こした知事や幹部には百条委や不信任案の行使を示し、冷淡に引きずり降ろすこともあった。斎藤県政の幕引きを求める維新や自民の県議も擁立し支えてきた責任を負っている。(恭)
元稿:東京新聞社 主要ニュース 社会【疑惑・地方自治・兵庫県・知事によるパワハラ疑惑】 2024年09月20日 12:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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