【社説・09.07】:県政混乱と知事/事態の収拾へ進退決断を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・09.07】:県政混乱と知事/事態の収拾へ進退決断を
兵庫県の元西播磨県民局長が斎藤元彦知事らを文書で告発した問題で、県議会の調査特別委員会(百条委員会)は文書を公益通報として扱わなかった県の対応などを巡り、知事や片山安孝元副知事を尋問した。
知事は「公益通報に当たるとは今でも思っていない。誹謗(ひぼう)中傷性の高い文書で、外部通報の保護対象にならない」と正当性を主張した。ただ県職員らの証言との食い違いも多く、全容解明には至っていない。
元局長の男性は3月、知事のパワハラや企業からの贈答品受領など7項目の疑惑を記した文書を匿名で作成し、報道機関などに送付した。これに対し知事は文書を「うそ八百」と否定し、男性の役職を解いた。
男性は4月、県の公益通報窓口に同じ内容を通報したが、県は調査結果を待たずに、内部調査だけで5月上旬に男性を停職3カ月の懲戒処分とした。男性は7月に死亡した。
公益通報者保護法は通報を理由とする降格や解雇など不利益な取り扱いを禁じる。これまでの県の対応は同法の趣旨に反するとの批判が専門家らから相次いでいる。
「処分は公益通報の調査結果を待つべきだ」と人事当局が進言したとの県職員の証言に関し、知事は「記憶にない」とした。処分を急ぐよう指示したとの証言については「全く言っていない」と否定した。
百条委では、産業労働部長の証言で知事が文書を把握した翌日の3月21日に側近らと協議し、保護法が禁じる「告発者捜し」に動き始めたことが判明した。片山元副知事も「徹底的に調べてくれと知事から指示を受けた」と証言した。文書の内容の調査より、処分に前のめりだったことがうかがえる。
知事は処分について「今も適切だと考えている」との見解を繰り返したが、自らの姿勢が調査や決定に影響したとの疑念は拭えない。参考人の奥山俊宏・上智大教授は「告発された知事らは真実相当性を判断する立場にない。感情のまま動き、知事が先頭に立って保護法に違反する行動を取った」と指摘した。
告発した職員の命が守られなかった事実は重い。パワハラや企業への「おねだり」を見聞きしたとする職員も数多く、知事の資質に疑問符が付く。一連の問題の道義的責任を問われ「明確にコメントできない」とかわしたが、新年度予算の策定や阪神・淡路大震災30年への取り組みなど重要課題が控える中、職責を果たし、県民の信頼を取り戻せるのか。
県議会各会派の対応によっては不信任決議が成立する可能性もある。県政の混乱をこれ以上長引かせてはならない。事態収拾のため、知事は自ら進退を決断するべきだ。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年09月07日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます