【社説・10.10】:衆院解散 国民のための政治示せるか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.10】:衆院解散 国民のための政治示せるか
石破茂首相が急いで衆院解散に打って出たことに違和感が拭えない。きのうの解散は、首相就任から8日後で戦後最短である。15日公示、27日投開票に向け、事実上の選挙戦に入った。
解散の理由を首相はこう言う。「新内閣ができるだけ早期に国民の審判を受けることが重要だ」。信を問うというならば、政治への信頼回復の道筋を国民に示してからが道理だろう。岸田内閣は自民党派閥の裏金事件に代表される「政治とカネ」問題で支持を失い、退陣した。つまり、「信なくば立たず」を突きつけられたからに他ならない。
首相は、政治資金規正法の抜け穴をふさぐ具体策を示したのか。使途の報告義務がない政策活動費は「将来的な廃止も視野」と言うが、廃止するのかしないのか。何より裏金事件を再調査し、徹底解明する気はあるのか。これでは国のかじ取りを任せられるかどうか、判断材料がないまま投票を強いることになる。
■党利党略透ける
世論とのずれを感じざるを得ない。短期決戦は党内基盤が弱く、人事で挙党態勢を築けなかった首相が、国民の人気を頼みに求心力を得たい狙いが透ける。党としては3年前の前回衆院選に倣い、選挙の顔を代えた総裁選のご祝儀相場に乗って勝利を得る構図を描いているのだろう。党利党略が過ぎる。
首相はきのうの記者会見で「日本創生解散」と名付け、「防災庁」の設置や地方創生の再起動をはじめとする政策を問うとした。党首討論では「国を守り、国民を守り、デフレ脱却をするためには、私どもが政権を引き続き担うことが最も肝要だ」とも述べた。だが、どんな国家像があろうが、いかなる政策を示そうが、国民の信頼という土台がなければ実行できない。
「政治とカネ」や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を「国民がいずれ忘れる」と言わんばかりの姿勢こそが今回問われよう。裏金事件に関わった議員の公認を巡り、党内で紛糾している場合なのか。今からでも政治改革の具体策を示すべきだ。
■自公政権を問う
衆院選で争点にすべき難題は山積みだ。「政治とカネ」の問題に早くけじめをつけなければと、焦りさえ覚える。
自民党と公明党が政権を奪還して12年になる。国民の不信を招いたのは何も「政治とカネ」問題だけではない。岸田政権は国の在り方を左右する安全保障やエネルギー政策を転換させる際、国会審議を深めずに閣議決定で進めた。これは安倍・菅政権からのやり方だ。主権者を軽んじた政治手法も審判の対象だろう。
就任前の首相が国民の支持を集めていたのは、与党にあっても時の政権に正論をぶつけ、議論もいとわぬ姿勢からだろう。ところが首相になった途端、持論を封じてしまった。所信表明演説や代表質問だけでは結局、何をしたいのか伝わってこなかった。例えば岸田内閣の経済対策を継承すると言うが、アベノミクスの総括や具体策が聞きたい。
■野党は対立軸を
野党は、政治改革を公約の軸に据え、裏金事件などで自民党を追及する戦略をとっている。第1党の立憲民主党は「政権交代」を目標に掲げる。ただ公約では消費減税や「原発ゼロ」は掲げず、最低賃金の引き上げなど、与党と共通する政策も少なくない。
自公政権ではできない政策は何か、対立軸を分かりやすく訴えるべきだ。選挙区での野党連携を含め、政権交代実現に向けた道筋や枠組みも示してほしい。
解散前に国会で議論すべきだった課題は多い。世論を二分する政策はなおさらだ。国民のための政治を進められるのはどの党か。政治の信頼回復に向け、与野党は選挙戦を通じて有権者に判断材料を示す責任がいつも以上にある。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月10日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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