【社説・10.09】:解散前の代表質問 審判材料示せたとは言えぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.09】:解散前の代表質問 審判材料示せたとは言えぬ
石破茂首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が衆参両院で終わった。際立ったのは首相の「ぶれ」である。
自民党総裁選で訴えた持論を封印する姿勢を野党側が追及したのに対し、従来の政府見解を繰り返す場面が目立った。「自分の言葉で誠心誠意語る」のではなかったか。
首相はきょう、衆院解散に踏み切る。その前に国会で十分な議論が必要だとした主張との整合性を問われ、「新内閣が発足し、国民の意思を確かめる必要がある。変節したとの指摘は当たらない」と反論した。
果たしてそうだろうか。有権者へ審判材料を示すのは「与党の責任」とも述べていた。きのうまで2日間の代表質問を見る限り、その責任を果たせたとはいえまい。
首相は総裁選で唱えた日米地位協定改定や、アジア版NATO(北大西洋条約機構)について「一朝一夕に実現するとは当然思っていない」として曖昧な答弁に終始した。
在日米軍の法的特権を認める日米地位協定の改定には、米側と厳しい交渉が予想されるにもかかわらず意欲を示していた。対中国を念頭にしたアジア版NATOの創設とともに、米国の核兵器を日本で運用する「核共有」について議論すべきだと述べていた。
憲法9条や非核三原則を踏み越えかねない内容に、野党だけでなく与党内からも「非現実的だ」との声が出ている。首相在任中は封印すると明言しないのであれば、論戦に正面から向き合うべきだ。
導入に前向きだった選択的夫婦別姓を巡っては「さらなる検討が必要」と後退した。金融所得課税の強化も「貯蓄から投資への流れを引き続き推進することが重要。現時点で具体的な検討は考えていない」と先送りした。
派閥裏金事件の関係議員への対応も同じだ。当初は「公認するのにふさわしいか徹底的に議論すべきだ」と強調していたのに、「原則公認」の方針をいったん固めた。その後、旧安倍派幹部ら6人を非公認、その他は比例重複立候補を認めないものの選挙区事情も踏まえ公認するとした。
世論の反発に対応して軌道修正したのだろうが、この判断では説明責任を果たさぬ形ばかりのけじめにとどまり、真相究明は置き去りになる。
代表質問の答弁でも政治資金規正法改正や事件の再調査に消極的だった。使途の報告義務がない政策活動費は「将来的な廃止」も選択肢とやや踏み込んだが、具体的な道筋には言及しなかった。
首相就任からわずか1週間余りである。内閣が発足した途端、掲げた政策を相次いで引っ込めてしまえば、他の政策も同じ扱いになるのでは、と疑念を抱かせる。国民からの信頼回復より、党内の意見や政権維持を重視していると受け止めざるを得ない。
首相就任前の石破氏が世論調査で支持を集め、国民の人気を得ていたのは時の政権への批判もいとわぬ直言が持ち味だったからだ。解散を急いだのはやはり無理があったのではないか。自分の足元を見失っているとしか思えない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月09日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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