《社説①・01.17》:ガザの停戦合意 人道危機の解決が急務だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・01.17》:ガザの停戦合意 人道危機の解決が急務だ
歓喜に震え、笑顔で抱き合う人々。爆音の下、多数の命が奪われた戦いの地に希望の光が一筋差し込んだ。まずは人道危機の解決を急ぐ必要がある。
パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘を巡り、イスラエルとイスラム組織ハマスが、19日からの一時停戦と人質解放で合意した。
戦闘は1年3カ月余に及んだ。攻撃がやむのは2023年11月24日~12月1日以来だが、恒久停戦に向けた合意は初めてだ。
停戦は3段階で進む。まず、42日間戦闘を停止し、イスラエル軍は人口密集地などから徐々に撤退する。
ハマスが人質のうち女性や子ども、高齢者ら33人を解放する一方、イスラエル側は拘束中のパレスチナ人を釈放する。その後、恒久停戦とイスラエル軍の完全撤退を経て、復興に着手する。
両者は合意を順守し、履行しなければならない。
◆着実な履行が欠かせぬ
戦闘が始まったのは23年10月7日だ。ハマスがイスラエルを奇襲攻撃し、約1200人を殺害、約250人を人質に取った。現在も約100人が捕らえられている。
イスラエル軍は空爆と地上侵攻で対応し、これまでに4万6000人以上を殺害した。国際人道法で市民を標的にすることは禁じられているが、ハマスの戦闘員が隠れているとして学校や病院、難民キャンプも攻撃し、多くの子どもや女性が犠牲になった。
米国やカタール、エジプトが仲介する停戦交渉は挫折を繰り返した。軍の一部駐留継続を主張するイスラエルに対し、ハマスは完全撤退を求めたためだ。
だが、戦闘の長期化で状況が変わった。指導者を殺害されたハマスは弱体化した。共闘していたレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラがイスラエルとの停戦に応じたことで孤立状態に陥った。
一方、イスラエルでは、「ハマス壊滅」にこだわるネタニヤフ首相に対し、人質の家族から早期決着を求める声が高まっていた。
交渉急展開の背景には、米政治の転換がある。大統領への返り咲きを決めたトランプ氏が今月20日の就任までに停戦するよう、双方に圧力をかけた。バイデン大統領も協力を得たと認めている。
たとえ戦闘が終わったとしても課題は山積している。人道状況は筆舌に尽くしがたい。
住民約230万人の9割以上が家を追われ、避難民となった。病院や学校のほとんどが機能不全になっている。治療を受けられない負傷者も少なくない。
人道支援物資の搬入が滞り、栄養不足は深刻だ。飢餓で死亡する子どもも続出している。
停戦合意に従い、1日あたりトラック600台分の物資が届けられる。滞りなく実施できるよう、イスラエルは万全を期さなければならない。
インフラの再建も必要になる。残されたがれきは4200万トン以上とされる。08年から今回の戦闘開始までの断続的な衝突で生じたがれき総量の14倍にも上る。不発弾も残っており、撤去作業は難航が必至だ。
◆国際社会は支援強化を
ネタニヤフ政権はハマスによるガザ統治の継続は認めない方針だ。イスラエル軍の撤退後、どのような体制で治安を維持し、行政機能を立て直すかも難題である。
ガザ紛争は中東の混乱を広げただけでなく、米欧の国際的な信頼も失墜させた。
ウクライナに侵攻したロシアを非難しながらイスラエルに及び腰な姿勢は、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国などから「二重基準」との批判を浴びた。失われた信頼を回復するためにもガザの復興に貢献すべきである。
イスラエル、パレスチナ双方には想像を絶する憎しみが残った。
罪のない同胞を長期間人質に取られたイスラエル国民は大きな衝撃を受けた。ハマスは停戦を受け入れた後も、苦しみを「忘れないし、許さない」と警告している。ただ、両者が隣人であることは変わらない。
「和平は友人とするのではなく、敵と結ぶものだ」
パレスチナ和平を主導してノーベル平和賞を受け、ユダヤ人青年に暗殺されたラビン元イスラエル首相の言葉である。
敵意や怨念(おんねん)を乗り越え、和平へと歩み出せるのは当事者だけだ。国際社会は恒久平和の実現に向けて、支援を惜しんではならない。
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