アンダンテのだんだんと日記

ごたごたした生活の中から、ひとつずつ「いいこと」を探して、だんだんと優雅な生活を目指す日記

レクイエム、モーツァルトからヴェルディまで

2016年08月09日 | ピアノ
「レクイエム」の訳語は「鎮魂歌」のような気がしているけれど、元々ラテン語の「Requiem」の意味は鎮魂歌ではないんですね。

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言葉の意味は「安息を」くらいで、これはカトリック教会で死者のためのミサで歌われていた歌詞の出だし。「六甲颪」という言葉のどこにもタイガースなんて意味はないし曲の正式名称は「阪神タイガースの歌」であってもみんな歌詞の出だしをとって「六甲颪」って呼んでるのと同じ(「怖いクラシック」中川右介著より)

クラシック音楽として有名な最初のレクイエムといえばもちろんモーツァルトだけど、あれはほんとに死の床で書いていて未完だから、モーツァルトの作品といえるかどうか…前金半分、完成時半分のお金をちゃんと受け取るために、友人を頼って仕上げたとか、コンスタンツェさんしっかりしてます。

この作曲は某伯爵の依頼なんだけど、覆面依頼で(それだけで怪しい)彼はそれを自分の作曲として発表する予定だったのね。だから写譜を作らないってのも契約に入ってたんだけど、当然(?)渡す前に写したので今でもモーツァルトのレクイエムとして知られているわけで、コンスタンツェさんしっかりしてます…というか契約違反では…

これ、モーツァルトのレクイエムとして死後演奏されたのと並行して、依頼主の伯爵も自作曲として演奏したんだけど、今みたいになんでもYouTubeに載ってるわけじゃないし、気が付いてるのは依頼主くらいで、しかもコンスタンツェを訴えようにもそんなことしたら自作じゃないのがバレちゃうから言えなくて(気の毒に)。モーツァルトと伯爵の関係はなんと二十世紀半ばまで知られることはなかった。

というわけでなかなか興味深いドラマです。結果として、モーツァルトのレクイエムはヒットしたのでこれをきっかけにレクイエムがカトリック教会から離れていくのですね。別にモーツァルトがそう意図したわけではないけど。

ここからフランス革命やらナポレオン戦争、王政復古、七月革命と激動の半世紀を経てベルリオーズのレクイエム。このときには、単に神への畏怖とか死者を悼むということにとどまらず、「怒りの日」でこれまでにないドラマティックな音楽を作ろうとした。オーケストラ本体とは別に金管の4グループを劇場四隅に配置するなど、今でいう音響デザイン的な発想まで踏み込んでいる。

また、ブラームスさんのドイツ・レクイエムに来ると、ラテン語の歌詞じゃなくてドイツ語、つまり聞いてわかる歌詞(私にとっちゃドイツ語でもまったくわからないけどね!!)になる。ドイツ語の歌詞の元はルター訳聖書。要するにこれもカトリック教会からさらに距離ができたってことね。

そしていよいよヴェルディさんのレクイエムになると、彼はちゃんとビジネス的成功を考えているので、教会で初演が済むとすぐに、スカラ座での演奏も行った。教会では、女性はほんとは歌っちゃいけなくて、特例として認めてもらったけど黒づくめで影にいなきゃいけなかったのが、劇場では派手な衣装で堂々と出演して、それはつまり位置づけ的にも別物(宗教音楽から、オペラ的なものへ)になった。

いろんな作曲家が「レクイエム」を作曲しては興業的に成功させる様子に当初、教会は難色を示していたけれど、もう現状追認というかあきらめて、ヴェルディ死後半世紀たったときの公会議では、死者のミサから「怒りの日」部分を削除した(もうウチと関係なくやってください)。

このように、レクイエムだけ辿っていっても、クラシック音楽が教会から生まれてそこから離れて旅立っていく様子がわかるんですね。上記の雑駁なまとめは、「怖いクラシック」から取ったものです。

私は最初、タイトルにひかれてこの本を手にとったとき、ぜんぜん違う中身を期待(*)していたんだけど、これはこれで(音楽の中身ではなく音楽史的な)おもしろかったです。「父」「自然」「狂気」「死」など恐怖の種類別の章立てになっていて、切り口は「恐怖」なんだけれども、それってキワモノ音楽に限った話にならず、けっこうクラシック音楽の王道についての音楽史になっちゃうみたいで。


(*)…怖い音ってあると思うんですが、たとえばエドワードの最後らへんの心臓の鼓動っぽいのとか、アルカンバルカローレの最後で半音階下っていくところとか、谷山浩子の「夜のブランコ」で「あなたの手で壊して」の特に「して」のところとか。人間にとってどういう旋律(音形)が怖く感じるのか、それがどう作曲に生かされているかみたいな話を想像したんです。

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コメント (4)
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