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時事問題を中心にブログを書く日々です。
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「米中」について~北野幸伯氏・宮崎正弘氏、そしてソロス氏の解説「第三次世界大戦」

2015年11月03日 | 政治

★ 評判の北野幸伯氏のメルマガです。

アメリカが中国を牽制するために実行した米艦「南シナ海派遣」作戦に、世界各国はどのような態度を表明したのでしょうか? 国際関係アナリストの北野幸伯さんがご自身のメルマガで、積極的に米国支持をした国が少ないことを指摘しています。

【中国退治】米軍艦の南シナ海作戦、各国の反応は?

アメリカ「航行の自由」作戦、各国の反応は?

全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは!

北野です。

前回も少し触れましたが、


<南沙>米中の緊張高まる 衝突回避策が焦点…米軍艦派遣 毎日新聞 10月27日(火)12時34分配信

【ワシントン和田浩明】中国が主権を主張する南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島の人工島から12カイリ(約22キロ)以内の海域に米海軍がイージス駆逐艦を進入させたことで、南シナ海全域の軍事的緊張が一気に高まった。

米国は中国の対抗措置を見越して作戦行動に踏み切ったとみられるが、軍艦船の偶発的な接触など双方が予期しない形での危機に突入する可能性がある。

オバマ米大統領は9月下旬の米中首脳会談で、習近平・中国国家主席に直接、南シナ海の軍事拠点化を中止するよう要求したが、習氏は「主権の範囲内」と拒否していた。今回の「航行の自由」作戦はいわば米国による「実力行使」であり、当然、現場海域に展開する中国海軍の対抗措置を予想したものだ。


半年前に予想したとおり、米中の対立は、どんどんヒートアップしています。

今日は、アメリカ「航行の自由」作戦に対する各国の反応をみてみましょう。

日本は、控えめながらも「支持」

まずは、安倍総理の反応。


<米艦南沙派遣>安倍首相 米国と連携の姿勢で静観の構え 毎日新聞 10月27日(火)21時58分配信
南シナ海・南沙諸島での米中両国の対立について、安倍晋三首相は27日午後(日本時間同日午後)、訪問先のカザフスタンで記者団に「開かれた自由で平和な海を守るため、米国をはじめ国際社会と連携していく」と強調し、米国と連携する姿勢を打ち出した。

ただ、政府内では「米中ともに武力行使は望んでいない」との見方が支配的で、当面は静観を保つ構えだ。
首相は今回の米軍の行動について「一つ一つにコメントは控えたい」としつつも「国際法にのっとった行動であると理解している」と指摘。
中国による岩礁埋め立てに関して「現状を変更し、緊張を高める一方的な行動は国際社会の共通の懸念だ」と強調した。


まあ、情勢がはっきりわからなかったでしょうから、こんなコメントが無難ですね。

アメリカを支持し、中国の埋め立てを批判する。

これから下を見るとわかりますが、アメリカの「航行の自由」作戦。

国際社会からメチャクチャ支持されているわけでもありません。

ですから、アメリカとしては、日本の支持がうれしかったことでしょう。

韓国は、立場を明確にせず
毎日新聞10月27日から。

【ソウル大貫智子】韓国外務省報道官は27日、米軍による「航行の自由」作戦実施について「事実関係を確認中」と述べるにとどめた。

メディアや識者からは踏み込んだ立場表明をすべきだとの指摘が出ているが、韓国政府は北朝鮮問題などでの協力が必要として中国を刺激したくないのが本音で、「十分に立場は表明している」と反論している。



「米中二股外交」を展開している韓国。

二人の夫(米中)がケンカしているので、どっちについたらいいのか困ってしまう。

日本にとっては、いい「反面教師」ですね。

日本も、数年前「日米中 正三角形論」が流行ったときは、大変でした。


欧州は、興味なし
【ロンドン矢野純一、ベルリン中西啓介】ドイツやフランスなど欧州諸国は27日夕までに、目立った反応を見せていない。独仏両国については、メルケル独首相が29日、オランド仏大統領が11月2日から、それぞれ訪中を予定していることが背景にあるとみられる。
中国の習近平国家主席を迎えたばかりの英国も、事情は変わらない。
(同上)

欧州は、南シナ海から「遠い」ので、関心がないのですね。

それより、「中国と仲良くして、【金儲け】したい」。

今の時代でも、やはり「距離」は重要です。

たとえば、日本人。

正直いえば、「ウクライナ問題」に関心ないでしょう?

遠いですから。

しかし、「近い」東欧の人たちにとっては大問題です。

私の大学時代の友達(ポーランド人)は、「ロシア軍がいつ攻めてくるか、怖くて夜眠れない」といってました。


ちなみに、ロシアでも「南沙米中対立問題」は、ほとんど報道されていません。

「シリア空爆で、ロシア軍が大活躍している」

というニュースがメインです。


心配な台湾の変化

【台北・鈴木玲子】南沙諸島最大の太平島と東沙諸島を実効支配する台湾では、国防部(国防省)幹部が27日、記者会見で「米国の巡航は通常活動。(台湾)軍は南シナ海の海空域での活動を掌握できている」などと述べるにとどめ、米国と中国の双方に配慮を示した。

台湾にとって米国は安全保障を含め事実上最大の後ろ盾。
一方で馬政権は2008年の発足後、対中融和路線で中台関係改善を進めてきただけに、中国への刺激も避けたいところで、慎重に情勢を見極めている模様だ。
(同上)

世界一の親日・台湾。

しかし、最近は中国の影響が強まっているのですね。

米中に挟まれた台湾。

反応が、韓国に似ています。

フィリピンは、全面的に支持

 【バンコク岩佐淳士、ジャカルタ平野光芳】フィリピンのアキノ大統領は27日、記者会見で「(米中の)力の均衡を歓迎する」と発言し、作戦支持を鮮明にした。

(同上)


安倍総理以上に、はっきりとアメリカ支持を表明しました。

なぜでしょうか?


米軍艦が周辺を航行したミスチーフ礁はフィリピンの実効支配下にあったが、中国が1995年に建造物を構築して占拠。
中国はその後、埋め立て工事をして拠点化を進めている。
中国が人工島を勝手につくっているところは、もともとフィリピン支配下にあった。
それを、中国が武力を背景に奪ったので、フィリピンは怒っているのですね。
中国が南沙などで支配を拡大したのは、92年に米軍がフィリピンから完全撤退した後だ。
フィリピンは、米軍が再び存在感を強めることで中国による覇権拡大が止まることを期待している。

(同上)

これ、日本にとっては、大きな教訓です。

日本では今、「米軍を追い出せばすべてうまくいくようになる!」

「フィリピンモデルで行こう!」」

などと主張する人たちがいます。

フィリピンが米軍を追い出したら、速攻中国軍がやってきてミスチーフ礁をとられてしまった。

こういう事実を無視して、「米軍を追い出せばすべてうまくいく!」と主張するのは、どうなんでしょうか?


オーストラリアは、アメリカ支持

オーストラリアのペイン国防相も「国際法に基づき自由に航行する権利を支持する」との声明を発表した。
(同上)

首相がかわって心配だったオーストラリア。

しかし、アメリカ支持を明言しています。


フィリピン以外の東南アジア諸国は、アメリカを支持せず

しかし、大半の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国にとって、最大の貿易国である中国との対立は避けたいのが本音だ。
中国から多額の経済援助を受けるカンボジアやラオスは「親中派」とされる。
タイも昨年のクーデター後、軍事政権に理解を示す中国と親密だ。
カンボジアの外交官は「我々はASEANと中国の対話による平和的解決を望んでいる」と語り、米国の介入に否定的な反応を示した。

中国との領有権問題を抱えるベトナムは、フィリピンとの間で両国関係を「戦略的パートナー」に格上げすることで合意し、「対中国シフト」を鮮明化させている。
一方でフン・クアン・タイン国防相が「米中両国とも我が国には重要だ」と話すなど、米国支持を明確にもしていない。
27日夜現在、今回の作戦にも公式のコメントは出していない。


(同上)

ベトナムも、「中立」なのですね。

まとめ

以上、「航行の自由」作戦に対する各国の反応を見てきました。

まとめると、

・アメリカを支持 = 日本、オーストラリア、フィリピン

・中立 = 韓国、台湾、(フィリピン以外の)東南アジア諸国

・無関心 = 欧州諸国、ロシア

こう見ると、アメリカ支持は、日本、オーストラリア、フィリピンだけ。


なんともさびしいかぎりです。

しかし、アメリカが「中国打倒」を決意したのは、「AIIB事件」があった今年3月。

まだ半年しか経っていません。

それに、「航行の自由」作戦は、大戦略の「一環」です。

中国のような巨大な敵を倒すには、「トータルな戦略」が求められます。

これからも、

・情報戦 - 人権問題、サイバーテロ問題などで、中国を「悪魔化」する

・情報経済戦 - 中国経済崩壊論を拡散する

・経済戦 - 経済制裁の発動、人民元レート自由化圧力

・民主化運動支援 - 香港、台湾、チベット、新疆ウイグルなどの反中共勢力を支援する


などなどを通して、徐々に中国を追いつめていくことでしょう。


中国の真の姿は、孫子の教えを守って如才なく野心を隠し、アメリカのアキレス腱を射抜く最善の方法を探しつづける極めて聡明な敵だ。

我々は早急に強い行動を取らなければならない。
(ウールジー元CIA長官)

いずれにしても、世界は「米中覇権争奪戦」を軸に回りはじめました。

日本も、そろそろ70年の「平和ボケ」から目覚める時期がきています。



※この記事は『ロシア政治経済ジャーナル』2015/10/29号より抜粋しています。

image by: Wikipedia


『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯




★ では宮崎正弘氏のメールマガジンを。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成27年(2015)11月3日(火曜日)弐
       通算第4714号    <明治節>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 原油の宝庫、中東のグレートゲームは地殻変動中
  ロシアとイランのパワー拡大、米国の失態は次に何をまねくだろうか

****************************************

 中東の地政学的地図はがらりと変貌を遂げつつある。
 主因は米国の対シリア作戦での優柔不断によるイスラエルとサウジの離反、そしてロシアの政治力に期待するイランの政治力量の飛躍的な拡大、トルコの百鬼夜行である。

 11月1日におこなわれたトルコのやり直し総選挙は、慮外なことにエルドアン与党の勝利となり単独過半数を確保した。これでエルドアンは相当、強引な外交戦略を行使しうる立場を得た。
 これからはトルコの政治力にも注目である。

 中東の地政学的な地図の変容は次のようである。
 第一にシリアのアサド政権はロシアによって明らかにパワーが反転し、予見しうる限りの近未来において、体制転覆の可能性が遠のいた。
IS空爆を口実にしたロシアの救援と反アサド政権の分裂、ISの壊乱、そしてイランが兵員を増派してアサド体制の防衛に走る。周辺国はアサド体制の延命にそなえるようになった。

 第二にはシリアから派生したISがロシア参戦により窮地に追い込まれたことである。
 ロシア参戦以後、ISは劣勢となって、シリア国内に於ける戦線を維持するかどうか。またトルコに近い地域にいる東トルキスタン系はISを離れて、アフガニスタン経由で新彊ウィグル自治区にもどる可能性がでた。
 当面、ISはクルドと対決をつづけながらもイラク北方の油田を確保し、その密輸で軍資金を維持するであろう。

 第三はサウジアラビアが米国に対して抱く疑惑が決定的となって、その反動でサウジはロシアに寄った。
これはアメリカの誤算の最たるものであろう。

 第四はイスラエルがオバマ政権をまったく信用せず、イランへ独自の軍事作戦をとる可能性も稀薄となったこと。つまり世界はイランの核武装という悪夢に備えなければならなくなり、イランが核を保有すれば、サウジはパキスタンで代理開発させた核兵器を回収するだろう。
カタール、UAE、オマーンという国々はサウジの核の傘に入る。

 第五にイラクは政府軍兵士がまったく当てにならず、いずれクルドの独立を認めざるを得なくなるか、バグダッド政権強化のためにイランのシーア派兵士を拡充して貰うか、選択肢は狭まった。


 ▼地域の大国はサウジとイランだが、NATOの一員であるトルコは重要

 第六にトルコである。難民問題で苦況に陥ったものの、エルドアンは派手に跳ね返して、難民の半分以上を欧州へおしつけ、ISへの兵器と資金の兵站路をふさぐと見せかけながら、なおIS兵站ルートを黙認している。そのうえ、ロシアからのガスパイプラインが複線化する展望が開け、発言力はいやます。エルドアンは「オスマントルコの再来」を夢見るため、イスラム回帰し、周辺国との政治力行使ではエジプトと主導権争いを演じるだろう

 第七は日本からみると戦略的価値の薄いイエーメンである。イエーメンはサウジの保護領と見られていたが、人口はおなじくらいあり、アラビア人としては勤勉であり、現在はサウジ、カタールなどの応援を得たイラン系武装勢力と戦闘を繰り返している。
 イエーメンは原油ルートの重要な地政学的ポイントをしめており、サウジはイランの浸透をもっとも警戒している。

 第八はホルムズ海峡を扼する突端がオマーンの飛び地であり、イランを脅威視する一方でテヘランとの対話チャンネルも維持してきた。

 第九は、それならば米国はどうするか、いやどうなるか。
 相対的にロシア、イラン、サウジの比重が増すというリバランスのなかで、米国の出番は今後も多いだろうが、影響力が限定的になる。イスラエルとパレスチナの戦闘状態は、以後の中東地図では二義的になった。

 第十に忘れてはならないのが、中東に並々ならぬ関心と野望をひめる中国の出方だが、アラブ諸国は基本的に無神論を信じていないので、影響力は武器輸出というカード以外、限定的となるだろう。
 この劣性を保管するために、中国はよりイランとの関係を強め、中ロ同盟の強化を図ろうとするだろう。

★ 宮崎正弘氏のメールマガジンもうひとつあります。

 中国空軍大将「イラン空軍の質的向上に協力する」
  中国海軍はイランに寄港し、共同軍事訓練

****************************************

小誌4687号(10月16日)で既報の通り、「中国軍幹部がテヘランを訪問し、協力関係強化を謳った」と書いた。
拙文は次のようである。
「いま過去のパスポートが手元にないので、いつのことか正確な日時を思い出せないでいる。ともかく筆者が搭乗したテヘランへ向かうイラン航空機は北京経由だった。成田から北京へ飛んで乗客の半分が入れ替わった。日本人客の多くは北京でおり、かわりに中国人がどやどやとテヘラン行きに乗り込んできた。その大半が軍服着用の中国人民解放軍の兵士だったのには驚かされた。
 1990年代後半だった。テヘラン空港に降り立つとイラン軍人が出迎えにきていて、「おや、中国とイランの軍事交流はここまで進歩しているのか」と印象が深かった。80年代のイラン・イラク戦争のおり、中国はイランとイラク両方にスカッド・ミサイルを大量に供与していて「死の商人」といわれた。
 2015年10月15日、テヘランで中国とイランの軍幹部による軍事交流イベントが開催された。中国側の代表は孫建国(海軍大将、副参謀総長)、イラン側はホセイン・デグハン国防相である。孫建国は「ミスター潜水艦」という異名をとる海軍のライジングスター。習近平の覚えめでたく、習訪米前の軍人訪米(団長は氾長龍)に随行しており、米国側はカーター国防長官と会見した。次期軍事委員会人事をにらむとき、もっとも注目される中国軍人の一人である。
 席上、孫建国提督は「イランとの軍事交流をふかめ、お互いの立場を尊重しながら地域の安定と平和に貢献したい」等と述べ、また米国のイラン制裁解除に中国が裏で調停役として、動いたなどと協調した。昨年、中国の海軍艦船が補給と修理のためイランのバンダル・アッバス港に寄港しており、またイラン海軍幹部は中国の潜水艦などに試乗した」
(引用止め)
中国空軍の馬暁天司令員(つまり空軍司令官。中国党中央軍事委員会委員)はイランからの空軍幹部と北京で会談し、今後「イラン空軍の質的向上に最大限の協力をすると述べた」(『ザ・タイムズ・オブ・インディア』、2015年11月3日)

中東の地政学の激変に出遅れた中国だったが、イランを梃子に劣勢挽回を狙っているようである。
また中国の軍事力を脅威視しているインドの論調は重要であり、おもわぬ情報がときおり含まれる。
       ▽□ ○□ ◇△
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 読者の声 どくしゃのこえ READERS‘ OPINIONS 読者之声
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  ♪
(読者の声1)貴誌4714号の以下2点には目を開かせられました。
<第四はイスラエルがオバマ政権をまったく信用せず、イランへ独自の軍事作戦をとる可能性も稀薄となったこと。つまり世界はイランの核武装という悪夢に備えなければならなくなり、イランが核を保有すれば、サウジはパキスタンで代理開発させた核兵器を回収するだろう。カタール、UAE、オマーンという国々はサウジの核の傘に入る。>
 <第十に忘れてはならないのが、中東に並々ならぬ関心と野望をひめる中国の出方だが、アラブ諸国は基本的に無神論を信じていないので、影響力は武器輸出というカード以外、限定的となるだろう>。
 (引用止め)
 「サウジはパキスタンで代理開発させた核兵器」・「アラブ諸国は基本的に無神論を信じていないので」。
最早、わが国の外務省他、出る幕はないですね。
韓国慰安婦問題一つ黙らせる事ができない。「褌の締め直し」を男女共同参画府に要請します。男だけでは駄目なようですから。
  (MOMO 岡山県)


(宮崎正弘のコメント)もう一つ重要なポイントが「イスラエルvsパレスチナ」という抗争は中東の政治地図では二義的な問題となったことです。




★ このあと、有名になったソロス氏の主張、『第三次世界大戦』です。

どう見る?ジョージ・ソロスの「第3次世界大戦」警告と南シナ海の緊張
2015年11月3日 ビジネス・ライフ


「ポンド売りでイングランド銀行を破産させた男」として知られる著名投資家のジョージ・ソロス氏が、「中国経済の構造転換と中露同盟が第3次世界大戦の引き金になる」と発言したのは今年5月のこと。

中国経済が不振に陥り、中露が接近、南シナ海の領有権を巡って米中が火花を散らすいま、市場筋ではあらためてこの「ソロスの警告」がクローズアップされている。果たして、今回の摩擦は大戦争に発展するのか?『ヤスの備忘録』連動メルマガの高島康司氏が、日本を含む関係周辺国の対応を踏まえて考察する。

南シナ海領有権問題はソロスが予言する大戦争の引き金となるか?

「国際法上、領海は認められない」米国がイージス駆逐艦を派遣

すでに散々報道されているが、まず事実確認から始めよう。

10月27日、米海軍横須賀基地を母港とするイージス駆逐艦ラッセンは「航行の自由作戦」のもと、中国が造成した人工島の「スービ礁」の12カイリ以内を航行した。

スービ礁は中国による埋め立て工事前は満潮時に水没する暗礁で、国際法上、領海は認められない。アメリカ政府はスービ礁周辺を国際水域・空域だと強調しており、中国の主張を認めないとの立場を米艦船の派遣で示した。ラッセンは「P8A」や「P3」などの哨戒機を伴っている可能性もある。

さらにアメリカ政府は、国際法で認められるあらゆる場所で飛行、航行し、活動するという従来の方針を強調し、「今後、数週間から数ヶ月の間に、さらなる海軍の作戦があるだろう」と述べて、こうした活動を継続する考えを示した。

「我が軍も艦船を派遣する」中国は猛反発

いっぽう中国は、国防省の報道官が27日夜に談話を出し、アメリカ海軍のイージス艦に対して、中国海軍のミサイル駆逐艦「蘭州」などが警告を与えたと発表するなど反発を強めており、今後強い非難が予想される。

さらに、中国の政府系メディア、『グローバルタイムス(環球時報)』は英文の社説で次のように激しくアメリカを非難した。


北京は嫌がらせに対抗する作戦を開始しなければならない。まず我々は米艦船を追尾すべきである。もし艦船が海域の通過にとどまらず、活動をエスカレートするようであれば、我が方としては電子的な手段で介入し、さらに我が軍の艦船を派遣し、米艦船に攻撃用レーダーを照射し、戦闘機を飛行すべきである。

このように主張し、侵入する米艦船に対しては中国軍も相応に対応する姿勢を明確にした。

米中の板挟みで静観する各国

こうした状況で、いち早く日本とフィリピンの2国だけが、今回のアメリカの艦船派遣への支持を明確にした。アセアンやEUをはじめ、他の国々は態度を明確にせず静観している状況だ。

どの国の経済も中国依存が深まり、中国との関係を悪化させることは回避しなければならないが、アメリカとの関係も悪化させることはできない。このような板挟み的な状況のため、どの国も態度を明確にせず静観している。


「イングランド銀行を負かした男」ジョージ・ソロス氏の警告

いっぽう、海外のサイトでは著名な投資家のジョージ・ソロス氏による今年5月23日の発言が注目されている。それは、第3次世界大戦の警告であった。

ソロスは、中国が輸出でなく内需に経済の主軸を移したとき、第3次世界大戦のシナリオは現実のものになるとしている。そのとき中国政府は、政権を維持するために外部に紛争を必要とするはずだという。

もしこのとき、中国がロシアと政治的、軍事的同盟を結ぶと世界大戦は現実のものとなるだろうと警告していた。

いま中国とロシアは、中露同盟と呼ばれるくらい近い関係にある。今回の米艦船派遣で、第3次世界大戦へと向かうシナリオが現実になりそうだというわけだ。

いち早く米国への支持を表明した安倍政権

他方、日本の安倍政権は、日米とアセアン諸国、ならびにオーストラリアやニュージーランドなどの周辺諸国が協調して、中国を封じ込めることを基本政策にしている。

そのような安倍政権から見ると、米艦船が中国が領有権を主張する人工島の海域を通過することは、周辺諸国が中国封じ込めで一致団結する絶好の機会になると見ているはずだ。

これこそ安倍政権が、アメリカに対する支持を真っ先に明確にした理由であるに違いない。


アジアにおけるロシアの拠点、ベトナム

だが、南沙諸島の領有権問題の当事国であるマレーシアやベトナムは、中国への経済的な依存を深めており、中国との関係には最大限気を使わざるを得ない状況だ。

ましてやベトナムは、アジアにおけるロシアの最大の拠点である。日本ではまったく報道されていないが、今年の6月30日、ロシアはベトナムに最新鋭の潜水艦を引き渡したばかりだ。これは、2009年に締結した5艘の最新鋭潜水艦の売買契約に基づいた引き渡しだ。

いまシリア空爆で、ロシア軍とロシア製兵器の優秀さが大変に注目されているが、ベトナムの兵器体系は基本的にロシア製である。ベトナムはロシアから最新鋭の「クラブ巡航ミサイル」を50基購入しており、すでに28基がベトナムに引き渡された。これらのミサイルの照準は、いざというときの抑止力として中国の各大都市に向けられている。

中東、欧州、中央アジアなどでは中露同盟が強化されつつあるが、こと東南アジアに関しては中国とロシアは一枚岩ではない。ベトナムが中国と敵対的な関係にはなればなるほど、ベトナムに兵器を提供しているロシアの軍事的な影響力が増すという関係にある。

するとロシアの影響力は、カンボジア、ミャンマー、ラオスなど他の東南アジア諸国へと拡大する可能性が出てくる。

他方アメリカは、ロシアを最大の仮想敵国として見ている。ロシアの影響力の拡大には非常に神経質になっている。そのような状況では、ベトナムと中国との敵対関係を助長するようなことはできない。結果的に、ロシアの東南アジアにおける軍事的な影響力を強化することになってしまうからだ。

ということは、アメリカは安倍政権が望むような、日米とアセアンが協力しての中国封じ込め政策を実施することは実質的にできないし、その意図もないと見たほうがよいだろう。

米国は、ベトナムとフィリピンにも領有権の主張を慎むよう警告

その証拠に、米イージス艦ラッセンは中国の人工島付近を航行する前日、ベトナムとフィリピンが領有権を主張する南沙諸島の島々の12カイリを通過した。

これはオバマ政権が中国に過度な領有権の主張をしないように警告を送るとともに、ベトナム、ならびにアメリカの同盟国のフィリピンに対しても同じ警告を発していることを示している。

ベトナムとフィリピンも中国ほど大きくはないが、領有権を主張している島々に施設を建設している。今回の米艦船の航行は、南沙諸島の領有権問題の他の当事国にも自制をするようにメッセージを発したと見たほうがよいだろう。

国内の共産党批判を懸念、妥協できない中国

したがって、今回のアメリカの意図は、安倍政権が望むように中国を封じ込めることではない。

人工島の建設による領海の主張を許してしまうと、中国は公海の好きな場所に人工島を作り領海を主張する可能性が出てくる。いくらなんでもこれは国際法上許されないとして、アメリカは抗議したというのが今回の米艦船派遣の意図である。

いっぽうアメリカのこのような行動に対して、中国は簡単に妥協できない立場にある。もし習近平政権が妥協すれば、ナショナリズムで盛り上がった国内の世論は一斉に習近平政権批判を開始し、共産党一党独裁がかなり不安定になってしまう。これは大変に大きなリスクだ。

これを回避するためには、おいそれとアメリカの要求にしたがい、妥協することはできない。また中国が妥協する場合、中国の面子が最大限に立ち、中国が勝ったと主張できる状況でなければならない。

人民元の国際決済通貨化で早期に手打ちか?

しかしアメリカは、中国が妥協しやすくなる方法をメッセージとして出していた可能性が高い。

国際情勢を読む場合、事件が起こった日の前後にどのような出来事があったのか見ると、裏の流れを読むことができる。意外な出来事が相互に結びついており、そのつながりを読むと、見えなかった状況が可視化できるようになる。

南シナ海における米艦船の派遣があった前日、IMFは「特別引き出し権(SDR)」を構成する通貨に、中国の人民元を採用する方向で最終調整に入ったというニュースが流れた。主要国に異論がなければ、IMFは11月に開く理事会でこれを最終決定する。

これは、人民元を国際通貨であるSDRに採用するよう求めてきた中国の要望の実現である。中国はこれを、人民元の国際通貨化の第一歩と考えている。

ちなみにSDRとは、加盟国がIMFから金を借りたり返したりする時に利用される単位。米ドル、日本円、ユーロ、英ポンドの4通貨をもとに算出されているが、これに人民元が加わるということだ。

これは習近平政権にとっては中国の国際的な地位が高まり、「偉大な中国」の実現に一歩近づいた勝利の証しとして、国内のキャンペーンに使うことができる。これで中国国民のナショナリズムの欲求は満足されることになるはずだ。

おそらくオバマ政権は、人民元のSDR構成通貨採用を妥協のための取引材料として提示し、南シナ海の人工島の領有権の妥協を迫ってくることだろう。

筆者は、中国はこの妥協案を受け入れる可能性はかなり高いのではないかと思う。もし筆者の読みが正しければ、11月に入るとすぐに人民元国際通貨化が大きなニュースとして報じられ、中国国内でもこれを喧伝する大きなキャンペーンが実施され、南シナ海における米艦船の航行は忘れ去られるだろう。

他方中国は、妥協の証しとして、米艦船の人工島周辺海域の航行を黙認し、この海域に対する中国の領有権の主張を実質的に取り下げると思われる。

ということは、今回の米艦船の航行はジョージ・ソロスが指摘したような第3次世界大戦のきっかけではないし、深刻な事態の引き金になるような状況ではないと見たほうがよい。

次の衝突は始まっている

しかし、中国の志向する新しい国際秩序とアメリカの覇権を基礎にした既存の秩序が、なんらかの形で衝突する可能性は否定できない。だがこれは、今回の出来事が引き金になるわけではない。
本当の引き金はまったく違う地域で別な形で引かれる可能性が高い。

そして、すでにそのスケジュールは決まっており、日本の「集団的自衛権」の可決の日程は、これに基づいて決定された可能性が高い。

これについては、別の機会に書くことにする.。 (以上)

★ 北野幸伯氏、宮崎正弘氏、そしてこのところ話題になっているソロス氏の「第三次世界大戦」のお話、それぞれご覧ください。
ソロス氏の「これについては別の機会に書くことにする」というのが気になります。



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マリオ・デル・モナコが歌う「セルセ」~真の国士、三宅博氏に。

2015年11月03日 | オペラ

★ わがマエストロ、往年の名テノーレであるマリオ・デル・モナコが歌う素晴らしい芸術

Mario del Monaco " Frondi tenere...Ombra mai fu"


・・・ヘンデルのオペラ『セルセ』から「木陰よ」
意表を突くドラマティクな強い表現に魅了されました。
芸術の強い力に感謝します。 マエストロはご自宅にもパイプオルガンをお持ちでよく演奏されていました。



★ 真の国士にこの名曲を♪


・・・靖国神社にて、西村眞悟氏と三宅博氏

  三宅博先生の一支持者であり,一ボランティアのベッラより



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