★ 偉大なバリトン、カップッチッリがヴェルディのオペラ『シモン・ボッカネグラ』を歌っている。最初から強烈である。
シモンの娘アメーリアにソプラノのカバリエ、シモン総督に敵意を持つジェノヴァの貴族ガブリエーレ・アドルノにテノーレのランドリーニ、昔からシモンに敵対していた元貴族フィエスコを歌うバスのプリシュカ、
ガブリエーレ・アドルノは心の中でシモンに魅かれ、フィエスコもシモンに対し敵対はしても憎めない。
(ガブリエーレ・アドルノはシモンの後を継ぎ、二代目のジェノヴァ総督となる)
このオペラは14世紀に実在した海賊出身の政治家でジェノヴァの初代総督シモン・ボッカネグラを描いている。
ジェノヴァを外敵から護り、複雑な内政にも力を注ぎ、しかも苦労してきた「情」の男でもある。
この場面はジェノヴァの長い内紛である「貴族と市民の争い」を諌める総督シモン。
やはりカップッチッリは抜群である。国を憂うヒーローを歌ってカップッチッリの右に出る歌手はいない。
しかし、スペインの名ソプラノのカバリエはヴェルディを歌って、強靭なカンタービレが薄い。
いかに名プリマドンナといえどもヴェルディの音楽の様式が違うような気がする。
M. Caballe & P. Cappuccilli "Ensemble Simon Boccanegra"
Paul Plishka as Fiesco, Lando Bartolini as Adorno. Théâtre Antique d'Orange. Maurizio Arena, cond. July 13, 1985
★ イタリア中世史の亀長洋子氏の説明では
海と平民という二つのモチーフを兼ね備えた人物として、14世紀の中盤にシモンは台頭したが、この頃から、ジェノヴァの歴史は苦難の道を歩み始めることになる。
シモンの統治の時代のジェノヴァは、ヨーロッパを席巻した黒死病による人口激減に加え、当時の商業圏の拡大にも限界が見え始めた時期でもあり、経済的苦境に立たされ始めていた。
シモンも国内の各種制度の再編、各国との同盟や国内諸勢力との関係の調整など数々の政策を打ち出して奮闘する。しかし、国家の意のままにならない私的な勢力が拡大するというジェノヴァ人の典型的な行動様式にシモンもなかなか対処しきれない。
そうしたなか、政治的抗争も激化していく。終身の職にもかかわらず、シモンのみならず、その後のドージェ達の多くが追放や復位を経験することになる。
(かめなが・ようこ/イタリア中世史、学習院大学文学部史学科教授)
・・・靖国神社にて、西村眞悟氏と三宅博氏。