「赤道の下のマクベス」に次いで、新国立劇場の演劇作品は超ヘビー級が続く。重い荷物を引きずりながら歩く様な思いで、劇場を後にした。
ジョージ・オーウェルの小説『1984』をベースにしつつも、西暦2050年以降の世界を「現在」に置いて、そこから「1984年」の世界に入っていくという仕掛けが、単なる『1984』の舞台化とは一線を画している。
小説『1984』は読んで久しいが、『1984』にインスパイアされて作られたテリー・ギリアム監督の映画『未来世紀ブラジル』は何度も見てきた。本劇で描かれた全体主義の管理社会は『未来世紀ブラジル』と同様だが、『未来世紀ブラジル』のブラックユーモアすらも無く、シリアスで緊張感溢れる展開、演出に背筋が凍りついた。
何しろ、今の日本との類似性が怖い。公文書が改ざんされ、事実が抹殺される。歴史は書き換えられ、権力者が望む答えを忖度することが求められる。小説『1984』を読んだ学生時代は、ソ連や中国とのアナロジーを見て、自由主義の国に生まれた自分の幸運を単純に喜んだが、この数十年で何が日本を変えてしまったのか?
映像・照明を駆使して、舞台が拡張される。観るものに、想像力を駆使させて世界を脳内で再構成させる。表現力豊かな演出に感心させられた。
ウインストン役井上芳雄の熱演が光った。オブライエン役の大杉漣の演技を楽しみにしていたので、その急逝は実に残念だったが、代役となった神農直隆は大杉漣が乗移ったかのような演技で舞台を引き締めた。ウインストンの恋人ジュリアのともさかりえも好感度高い。
この重さからは当分逃れられそうもない。
スタッフ
原作:ジョージ・オーウェル
脚本:ロバート・アイク
ダンカン・マクミラン
翻訳:平川大作
演出:小川絵梨子
(翻訳)
平川大作
(演出)
小川絵梨子
美術:二村周作
照明:佐藤 啓
音響:加藤 温
映像:栗山聡之
衣裳:髙木阿友子
ヘアメイク;川端富生
演出助手:渡邊千穂
舞台監督:澁谷壽久
キャスト
井上芳雄 ともさかりえ 森下能幸 宮地雅子 山口翔悟 神農直隆 武子太郎 曽我部洋士 堀元宗一朗
青沼くるみ 下澤実礼 本多明鈴日
Staff
Original George ORWELL
Adapted Robert ICKE and Duncan MACMILLAN
Translated HIRAKAWA Daisaku
Directed OGAWA Eriko
Cast
INOUE Yoshio
TOMOSAKA Rie
MORISHITA Yoshiyuki
MIYAJI Masako
YAMAGUCHI Shogo
KAMINO Naotaka
TAKESHI Taro
SOGABE Hiroshi
AONUMA Kurumi
SHIMOZAWA Mirei
HONDA Arisu