再来年の大河ドラマの主人公は明智光秀らしい。屈折した自分は、これほど屈折した人はいないだろうと思われる明智光秀がとっても好きなので、「天下の逆臣」であるはずの明智光秀が大河ドラマの主人公になるなどいまだ信じられないが、どんなドラマになるのかとっても楽しみである。明智光秀って、信長の影として存在感を発するけど、大河ドラマの主人公として独り立ちするには、地味すぎるキャラだと思っていたから。
本書はその明智光秀を歴史上の人物に押し上げた「本能寺の変」についての解明した一冊である。史料をもとに様々な仮説を提起し、これまでの定説にチャレンジする。
史料をもとに仮説を積み上げていくプロセスは面白く、エキサイティングである。読者にとって難しいのは、筆者が取捨選択した史料のうち、採択した史料はわかるが、捨てられた史料の検証は弱いので、仮説・検証の正当性がわからないところだ。そこは筆者を信じるしかない。
私のような普通の読者は、学者でも研究者でもないので、純粋に推理のプロセスを楽しめばいいと思う。
【目次】
◆第一部 作り上げられた定説
1 誰の手で定説は作られたか
勝者が流布した偽りの真実
秀吉の宣伝の書『惟任退治記』
改竄の動かぬ証拠
秀吉伝説を作った『太閤記』
光秀伝説を作った『明智軍記』
権威付けた細川家記
定説を固めた高柳光寿神話
2定説とは異なる光秀の経歴
細川藤孝の中間
フロイス証言の信憑性
幕府奉公衆としての出世
義昭を離れ信長のもとへ
3作られた信長との不仲説
史料が記す親密な関係
『甫庵信長記』が作った相克
◆第二部 謀反を決意した真の動機
4土岐氏再興の悲願
土岐氏の栄枯盛衰
太田牛一が書き換えた愛宕百韻
5盟友・長宗我部の危機
利三兄弟と長宗我部の絆
長宗我部氏と土岐氏
四国問題の鍵を握る石谷頼辰
畿内・四国同盟に訪れた危機
6信長が着手した大改革
信長の「唐から入り」
◆第三部 解明された謀反の全貌
7 本能寺の変はこう仕組まれた
六月二日の未解明の謎
光秀の兵が出した答
家康・順慶呼び出しの謎解き
安土城進軍の謎解き
信長の油断の謎解き
8織田信長の企て
天正十年の作戦発動
家康領の軍事視察
なぜ「家康討ち」なのか
信長の最期の言葉
本能寺から脱出した黒人小姓
彌介が伝えた信長の最期
安土城の密室での証人
9明智光秀の企て
光秀の決断「時は今」
吉田兼見の偽証
光秀が奏上した「家康との談合」
談合にいたもう一人の人物
藤孝が発した警告
成就するかに見えた謀反
山崎の敗北、そして滅亡
10徳川家康の企て
作られた伊賀越えの苦難
謀殺された穴山梅雪
天正壬午の乱の策動
動かさなかった西陣
手間取った光秀援軍
注目すべき津嶋への陣替
山岡兄弟の奇妙な行動
イスパニア商人が残した証言
安土城放火の真犯人
11 羽柴秀吉の企て
早過ぎる中国大返し
秀吉が待望した光秀決起
謎の「杉原殿」
破格の論功行賞
細川藤孝の決断
秀吉の巧みな情報操作
◆第四部 叶わなかった二つの祈願
12祈願「時は今あめが下なる五月かな」
明智氏による土岐氏再興
春日局の異例の取り立て
落ち延びた光秀の子供
13祈願「国々は猶のどかなるとき」
豊臣秀吉の唐入り
千利休切腹の真実
関白秀次切腹の真実
【本能寺の変の定説を固めた国策】