「テンペスト」の観劇は初めて。串田和美さんという演出家も名前は存じ上げていたが、作品を観るのは初めて。そして、その演劇手法も初めて経験するもので、驚き・笑いの連続だった。
まずはシアターイースト内に入ったらびっくり。舞台が中心に置かれそれを取り囲むように観客席が配置されているのは珍しくないが、加えて、舞台自体が舞「台」では無くて平土間で、その平土間にも観劇用のいすがいくつも置いてある。どっからどこまでがステージで、どこが座席なのかわからない。既に多くの人が平土間席に座っているが、役者っぽい人とおしゃべりしてる。この観客衆も実は役者のサクラ観衆なのかと勘繰ったが、どうも違うようだった。さらに、私は平土間でなく観客席の最前列に陣取ったが、開演前に役者さんが話しかけてくるのである。「大航海時代はスパイスがヨーロッパ人にはお宝だったのは有名ですが、一握りのスパイスと交換できるのは何だか知ってますか~」なんて感じである。引っ込み思案な私はもじもじしてたが、周囲のお客さんを含めとっても馴染んだ雰囲気になった。
そしてそんなおしゃべりがいつの間にかテンペストの場になり劇が始まっていた。他の「テンペスト」を知らないので比較はできないが、多少の場面の組み換えが施され、とっても分かりやすい展開になっていた。加えて、ユニークなのは所々で、劇に関連するような、関連が無いような役者さんの小話が挿入される。(中動態(古代ギリシャ語あった受動態でも能動態でもない話法)や「小学校の給食で隣の男の子からもらったカレーのにんじんの重さの話とか・・・と書いても意味わからないだろうけど)。いわゆる正統派シェイクピア劇とは全然違うのだろうけど、肩ひじ張らず楽しめるのが嬉しい。
役者さんたちも熱演である。主役フロスペローの串田さんは別格として、個人的にはキャリバンの武居さんの体当たり演技が受けた。この役、この劇の中でもかなり重要パートだと思うのだが、知能は高くない収奪された側の原住民の哀楽をうまく表現していたと思う。
この作品、音楽の使い方が特色の一つでもある。尾引浩志さんという倍音音楽家(こういう呼び名があるのも初めて知った)が、民族楽器や「口琴」などを使って、不思議な世界を演出する。そして、妖精たちを中心とした静かで清いコーラスも場を盛り立てる。
上演時間の2時間ちょっと、アットホームで暖かい、串田一座とでも呼びたくなるような家族的雰囲気に浸かり切って、とっても幸せな気分にさせてもらった。この演劇、この後セルビアとルーマニアにて海外公演を行うという。今日のノリが、どれだけ海外にも受け入れられるのかは分からないけど、是非、成功を収めてほしい。
5月26日(日)13:00
シアターイースト
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出・潤色・美術:串田和美
出演:串田和美 藤木孝 大森博史 松村武 湯川ひな 近藤隼 武居卓 細川貴司 草光純太 深沢豊 坂本慶介 飯塚直 尾引浩志 万里紗 下地尚子