<この時期恒例のタイフェスタ>
5月のA定期には、N響には何度か出演しているベテラン指揮者のデ・ワールトが登場。私もこれまで2回ほど聞いているけど、余計な装飾がなく、愚直に音楽を音楽そのままに語らせるというアプローチはとっても好感が持てる。
前半のベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番<皇帝>を聞くのは随分久しぶりだった。ピアニストのロナルド・ブラウティハムは全く初めての人だったが、端正で真摯な演奏が良い。第1楽章はやや教科書的すぎるかなあと思ったりしたところもあったのだが、第2楽章の美しさは格別だった。まるで昨年末に聴いたヤノフスキのベートヴェンの第九交響曲の第3楽章を思い出させるような、柔らかで優しく、絹地に頬を当てた時のようなピアノの音色で、思わず涙がこぼれるほど。<皇帝>の第2楽章ってこんなんだったんだという再発見とともに、これが聞けただけでも今日来てよかったと思った。アンコールはエリーゼのために。
後半のアダムズの「ハルモニーレーレ」は全く初めて聴く曲。現代曲でもあり、ついていけるかどうか不安だったが、私の音楽体験に新たな1ページを加えてくれる貴重な経験となった。正直、この曲の全容や内容をどこまで把握できているのかは全く自信がないが、ステージの後方いっぱいに広がった打楽器の数々をはじめとして、大規模オケが繰り広げる音の饗宴はすさまじく、圧倒された。
この曲の初演をサンフランシスコ響で振ったというデ・ワールトは、すべてを心得たとでもいうような棒さばきでN響を導く。そして、N響は個々の音の組み合わせが極めて複雑に聞こえるこの音楽を、N響ならではの精緻でバランスの取れた演奏で、デ・ワールトの棒にしっかりとこたえる。指揮者、オケ、どちらかが少しでも崩れたら全くこの曲の演奏は成り立たなくなるだろうと思わせるところを、パーフェクトに聴かせてくれた。オペラグラスから覗いた打楽器陣の緊張した面持ちや、都度都度ハンカチで手をぬぐう姿が、この曲の難しさを表しているようだった。
正直、客席は空席が目立つ寂しいものだったが、終演後に暖かく大きな拍手が会場一杯に響いたのが、何よりも聴衆の満足感を示したと思う。私も、手が痛くなるほどの拍手を送った。
2019年5月12日(日)
開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
ジョン・アダムズ/ハルモニーレーレ(1985)
指揮:エド・デ・ワールト
ピアノ:ロナルド・ブラウティハム
No.1912 Subscription (Program A)
Sunday, May 12, 2019 3:00p.m.
NHK Hall
Beethoven / Piano Concerto No.5 E-flat major op.73 “Emperor”
John Adams / Harmonielehre (1985)
Edo de Waart, conductor
Ronald Brautigam, piano